「亀雄君の最後のわがまま」「6ブックマーク」
沢山の駄菓子に大量のプラモデル、ぬいぐるみ、変身ベルトにたくさんの玩具を使って亀雄は遊びに遊んだ。
御飯も時間も気にせず亀雄は自由気まま、自分のしたいように遊びつくした。
けれど、病院から電話がかかりその内容を聞いた亀雄は「分かった」と言ってぱったり遊ぶのをやめてまじめに生きた。
一体なぜ?
御飯も時間も気にせず亀雄は自由気まま、自分のしたいように遊びつくした。
けれど、病院から電話がかかりその内容を聞いた亀雄は「分かった」と言ってぱったり遊ぶのをやめてまじめに生きた。
一体なぜ?
15年11月15日 21:48
【ウミガメのスープ】 [花鳥]
【ウミガメのスープ】 [花鳥]
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『答え』子供が生まれる連絡を受けたから
『補足の答え』 まだ『子供』であるうちに子供時代にやり残したわがまま清算し、心の整理をするため、自分の子供が生まれるまでやりたかったことをすると決めて遊んでいたから
亀雄はひどく真面目な男だった。
そして、母親は教育熱心で亀雄に駄菓子やアニメなど娯楽を与えなかった。
亀雄は駄菓子を食べて見たかったし、プラモデルも作って見たかった。アニメの変身ベルトやぬいぐるみだって欲しかった。
けれど、母親が駄目だと言うので亀雄はそれらをずっと我慢して、いつしか大人になった。
そして、結婚し妻が妊娠し出産のため入院した。
そこで亀雄は自分が子供ではなく『親』になるのだと実感した。
そして、自分の人生を振り返り思い残すことがないように「最後に子供の頃出来なかったことをすべてやろう」と決め、大量の駄菓子におもちゃを買って遊びつくした。
遊び倒して三日目の朝のことだった、電話が鳴った。
それは子供が生まれたという電話だった。
それを聞いた亀雄は「そうか」と答えた後、ぱったり遊ぶのを止めて急いで病院へと向かった。
家を出る前に、子供時代の自分にバイバイと手を振って、亀雄はその後真面目に生きた。
『補足の答え』 まだ『子供』であるうちに子供時代にやり残したわがまま清算し、心の整理をするため、自分の子供が生まれるまでやりたかったことをすると決めて遊んでいたから
亀雄はひどく真面目な男だった。
そして、母親は教育熱心で亀雄に駄菓子やアニメなど娯楽を与えなかった。
亀雄は駄菓子を食べて見たかったし、プラモデルも作って見たかった。アニメの変身ベルトやぬいぐるみだって欲しかった。
けれど、母親が駄目だと言うので亀雄はそれらをずっと我慢して、いつしか大人になった。
そして、結婚し妻が妊娠し出産のため入院した。
そこで亀雄は自分が子供ではなく『親』になるのだと実感した。
そして、自分の人生を振り返り思い残すことがないように「最後に子供の頃出来なかったことをすべてやろう」と決め、大量の駄菓子におもちゃを買って遊びつくした。
遊び倒して三日目の朝のことだった、電話が鳴った。
それは子供が生まれたという電話だった。
それを聞いた亀雄は「そうか」と答えた後、ぱったり遊ぶのを止めて急いで病院へと向かった。
家を出る前に、子供時代の自分にバイバイと手を振って、亀雄はその後真面目に生きた。
「【ラテクエ48】惜別の弔い酒」「6ブックマーク」
ちょうど一年前に、長年連れ添った夫を亡くした海代
夫は小さな町工場で事務を行っており、金曜日の仕事後に飲むビール(発泡酒ではない)を楽しみに働く真面目な人間だった。
もう気持ちは整えたつもりだったが、海代は毎週金曜日になると、もう辞めなければと思いつつも夫の好きだったビールを買ってきては、自分一人で飲んでいる。
元気だった夫がもう帰ってこないことは理解している彼女ではあるのだが・・・。
一体なぜ、彼女はこのような行動をとっているのだろうか?
夫は小さな町工場で事務を行っており、金曜日の仕事後に飲むビール(発泡酒ではない)を楽しみに働く真面目な人間だった。
もう気持ちは整えたつもりだったが、海代は毎週金曜日になると、もう辞めなければと思いつつも夫の好きだったビールを買ってきては、自分一人で飲んでいる。
元気だった夫がもう帰ってこないことは理解している彼女ではあるのだが・・・。
一体なぜ、彼女はこのような行動をとっているのだろうか?
14年11月23日 20:24
【ウミガメのスープ】 [ディダムズ]
【ウミガメのスープ】 [ディダムズ]
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定年退職後も金曜の夜にビールを飲む習慣を続けていた夫。
ところが、ちょうど一年前に彼はポックリと逝ってしまいました。
夫は元々出不精で、近所の人たちは彼が亡くなったことに気づかなかったため、海代は遺体を隠して夫の年金を受給し続けることにしました。
買い物に行く店は決まっており、毎週買っていたビールを突然買わなくなると夫に何かあったことがばれてしまう可能性があったため、そろそろ辞めないといけないと罪悪感を感じつつ、今もビールを買い続け、年金の不正受給を行っている海代なのでありました。
ところが、ちょうど一年前に彼はポックリと逝ってしまいました。
夫は元々出不精で、近所の人たちは彼が亡くなったことに気づかなかったため、海代は遺体を隠して夫の年金を受給し続けることにしました。
買い物に行く店は決まっており、毎週買っていたビールを突然買わなくなると夫に何かあったことがばれてしまう可能性があったため、そろそろ辞めないといけないと罪悪感を感じつつ、今もビールを買い続け、年金の不正受給を行っている海代なのでありました。
「最後じゃダメなんですか?」「6ブックマーク」
カメオは徒競走が苦手で、運動会ではいつも最下位だった。
小学生の頃は一番最後でも問題なかったのだが、高校生になると先生からは「一番最後はいけない」と注意された。
しかし障害物競走でトップだった時は「一番最初はいけない」と注意された。
一体どういうことだろう?
※やや要知識
小学生の頃は一番最後でも問題なかったのだが、高校生になると先生からは「一番最後はいけない」と注意された。
しかし障害物競走でトップだった時は「一番最初はいけない」と注意された。
一体どういうことだろう?
※やや要知識
15年10月12日 09:45
【ウミガメのスープ】 [フィーカス]
【ウミガメのスープ】 [フィーカス]
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先生が注意していたのは、#red#作文の作法について#/red#だった。
カメオの学校では、学校の行事について作文を書く機会があったのだが、カメオは運動会の出来事をこのように書いていた。
カメオが徒競走で最下位だった時
「僕が一番最後にゴールすることになり、とても悔しかったです。」
カメオが障害物競争でトップを取った時
「壁を越えるのが早かったので、一番最初にゴールできました。」
先生はこの文章を見て、#red#「一番最後」「一番最初」というのは重複表現である#/red#と注意した。
最後=一番終わり
最初=一番初め
という意味なので、「一番最後」は「一番一番終わり」ということになってしまい、意味が重なってしまう。
小学生の頃はそこまで厳しく注意されることは無かったのだが、高校生になり、カメオは物書きを目指していたので、その辺の文法や作法を厳しくチェックされたのである。
※関係ないけど重複表現の例
馬から落馬する(落馬=馬から落ちること)
ダントツの1位(ダントツ=「断然トップ」の略)
射程距離(「程」は距離を意味する言葉。「射程範囲」などが正しい表現)
日本に来日(来日=日本に来ること)
酒の肴(肴=酒のつまみのこと)
クリスマスイヴの夜(イヴ=前夜)
ただし現在では慣例として許容されている場合や強調として用いることもあるため、必ずしも間違いとは言い切れない(例えば「一番最初」は「最初」という単語をさらに強調した形)。
しかしながら、物書きの立場としてはこういった重複表現は避けるべきだろう。
カメオの学校では、学校の行事について作文を書く機会があったのだが、カメオは運動会の出来事をこのように書いていた。
カメオが徒競走で最下位だった時
「僕が一番最後にゴールすることになり、とても悔しかったです。」
カメオが障害物競争でトップを取った時
「壁を越えるのが早かったので、一番最初にゴールできました。」
先生はこの文章を見て、#red#「一番最後」「一番最初」というのは重複表現である#/red#と注意した。
最後=一番終わり
最初=一番初め
という意味なので、「一番最後」は「一番一番終わり」ということになってしまい、意味が重なってしまう。
小学生の頃はそこまで厳しく注意されることは無かったのだが、高校生になり、カメオは物書きを目指していたので、その辺の文法や作法を厳しくチェックされたのである。
※関係ないけど重複表現の例
馬から落馬する(落馬=馬から落ちること)
ダントツの1位(ダントツ=「断然トップ」の略)
射程距離(「程」は距離を意味する言葉。「射程範囲」などが正しい表現)
日本に来日(来日=日本に来ること)
酒の肴(肴=酒のつまみのこと)
クリスマスイヴの夜(イヴ=前夜)
ただし現在では慣例として許容されている場合や強調として用いることもあるため、必ずしも間違いとは言い切れない(例えば「一番最初」は「最初」という単語をさらに強調した形)。
しかしながら、物書きの立場としてはこういった重複表現は避けるべきだろう。
「正直すぎるのもちょっとね」「6ブックマーク」
ある日、太郎と花子が一郎と次郎の試合を見ていた。
「どっちが勝つんだろうなあ…」と太郎がつぶやくと、
「うーん、どっちだろう、わからないなぁ」と花子は言った。
それを聞いた太郎は怒り出した。
さて、なぜ?
「どっちが勝つんだろうなあ…」と太郎がつぶやくと、
「うーん、どっちだろう、わからないなぁ」と花子は言った。
それを聞いた太郎は怒り出した。
さて、なぜ?
13年09月23日 20:59
【ウミガメのスープ】 [3000才]
【ウミガメのスープ】 [3000才]
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太郎は大の空手好き。
試合としてみるのが好きで、特に今日はテレビで生放送されるくらいの大きな大会があり、誰が優勝するのかを大いに楽しみにしていた。
仕事でテレビを見られなかった太郎は、いっさいの情報を遮断して帰宅した。
「優勝インタビューから見たから、誰が勝ったか知ってるよ。教えてあげようか?勝ったのはね…」
と言い始めた花子に、結果を言わないようにあわてて釘を刺してから、太郎は花子と一緒に録画した番組を見始めた。
準決勝の三郎と四郎の試合では、三郎が四郎を下して、決勝へ進んだ。
もう片方の準決勝の試合では、一郎と次郎が死闘を繰り広げていた。
「うーん、いい試合だ。どっちが勝つんだろうなあ…」と太郎が独り言めいてつぶやくと、
「うーん、どっちだろう、わからないなぁ」と花子は言った。
それを聞いた太郎は、優勝者が三郎であることを悟り、怒りだしたのであった。
※千原ジュニアのキングオブコントの優勝者に関するトークより作成。
試合としてみるのが好きで、特に今日はテレビで生放送されるくらいの大きな大会があり、誰が優勝するのかを大いに楽しみにしていた。
仕事でテレビを見られなかった太郎は、いっさいの情報を遮断して帰宅した。
「優勝インタビューから見たから、誰が勝ったか知ってるよ。教えてあげようか?勝ったのはね…」
と言い始めた花子に、結果を言わないようにあわてて釘を刺してから、太郎は花子と一緒に録画した番組を見始めた。
準決勝の三郎と四郎の試合では、三郎が四郎を下して、決勝へ進んだ。
もう片方の準決勝の試合では、一郎と次郎が死闘を繰り広げていた。
「うーん、いい試合だ。どっちが勝つんだろうなあ…」と太郎が独り言めいてつぶやくと、
「うーん、どっちだろう、わからないなぁ」と花子は言った。
それを聞いた太郎は、優勝者が三郎であることを悟り、怒りだしたのであった。
※千原ジュニアのキングオブコントの優勝者に関するトークより作成。
「不完全な君を愛す」「6ブックマーク」
営業マンは、「不良品をつくらない完璧な機械」と、「一定の割合で不良品が混じってしまう機械」を、同じ値段で売りに来た。
工場で使う新しい機械を欲しがっていた工場長は、「一定の割合で不良品が混じってしまう機械」の方を買うことにした。
なぜだろう?
工場で使う新しい機械を欲しがっていた工場長は、「一定の割合で不良品が混じってしまう機械」の方を買うことにした。
なぜだろう?
15年04月01日 21:34
【ウミガメのスープ】 [とかげ]
【ウミガメのスープ】 [とかげ]

スープの押し売り
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工場長が説明を求めると、営業マンはこともなげに、「人間の尊厳のためですよ」と言い放った。
彼が売りに来た新しい機械は、2種類。「不良品をつくらない完璧な機械」と、「一定の割合で不良品が混じってしまう機械」だ。普通なら後者が安いのだろうが、営業マンが示した金額は、2種類とも全く同じだった。なんでも、工場の作業に支障が生じない程度に一定の割合で不良品をつくらせるのは大変難しいそうで、原価はむしろ後者の方がかかっているのだとか。
それで工場長は驚いて営業マンに聞いたのだ。何のために、性能の悪い機械をわざわざつくったんだ、と。
「人間の尊厳……だって?」
「そうです」
工場長の反応を元から予見していたように、営業マンは涼しい表情で続ける。
「工場長もご存じの通り、機械は日ごと高性能になり、故障もしにくくなりました。しかも安価でどこでも手に入ります。今や誰もが気軽に機械を購入できる時代です」
話の行き先が読めず、工場長は黙って聞き入る。
「おまけに故障を直す機械や、機械のミスを監視する機械まであるのですから、本来ならいかなる製品も、製造から梱包、配送まですべて機械で済ませてしまうのが最も正確なのです」
人差し指を立て力説する営業マンに、工場長も頷いた。
「確かにそうだ。コンピュータ管理されている機械ならば、人間より正確に大量の作業ができる上、同じ性能の機械をいくらでも容易に量産できるしな」
実際、その工場でもあらゆる作業を機械化し始めていた。今回機械の購入を検討したのも、少しでも作業を効率化し、生産量を増やそうという考えからであった。
工場長の答えに対し、満足そうに笑みを浮かべた営業マンは、しかし突如声を落として、囁くように投げ掛けた。
「なぜ、そうしないのでしょうか?」
何を聞かれているのか、工場長はわからなかった。いや、わかろうとしなかった。
小さなその問いかけは、なぜか深く考えてはいけないもののような気がした。
何も答えない工場長をせかすこともせず、営業マンは呆気なくまた溌剌とした声を張り上げた。
「少し話を変えてみましょう。工場長は奥様の手料理がお好きですか?」
唐突な質問に、工場長はまばたき数回分、面食らった。その後、それでも本来の冷静さを忘れずに、丁寧に答える。
「ああ、好きだよ。特に家内は肉じゃがが得意でね」
「他の人がつくった肉じゃがとは違うのですか?」
「違うなあ。娘もたまにつくってくれるのだが、家内が教えた通りにつくっても同じ味にならんのだ」
そこまで答えて、工場長はふと気づいた。営業マンが何も言う前に、彼がそう聞いたであろう質問に答える。
「それを機械になぜやらせないのか、ということかい? 確かに家庭用の機械も大分進化した。家内のレシピを正確に再現できるだろう。それでも違うんだ。実際の味ではなく、気持ちの問題というか……」
「そう、まさにそれなのです」
営業マンはまた人差し指を立てた。
「機械ならば失敗せずに美味しい料理がつくれるのに、機械ならば厳密な計算を経て最高の製品をつくれるのに、機械ならば不眠不休で働けるのに。なぜ人間の手作業をはさみたがるのでしょうか? 」
工場長にも、ようやく営業マンの言わんとしていることがわかってきた。彼は……確かに人間の尊敬を守ろうとしているのだ。
「人間は、人間の手が入ったものに、芸術を、信頼を、何より心を、感じるのですよ」
たっぷりと間をおいて、余韻を楽しませた後、営業マンはようやく本題の機械のパンフレットを指差した。
「不良品が出る方の機械は、必ず人間が検査する必要が出てきます。機械がつくったものを、最後は人間の目でチェックする。熟練の技術だの、長年の勘だの、根拠は説明できないけれどなんだかすごそうな印象を受けますよね。消費者にとっても安心感があります。心がこもっていると感じます。論理的に安心かどうかではないのです。これは、気持ちの問題です。そして……」
もはや工場長は完全に納得していだが、営業マンはだめ押しのように説得にかかる。
「……消費者だけではありません。労働する側、この工場で働く人間達は思うのです。『所詮は機械、やはり人間がいなければダメだなあ』と。自分達には存在意義があるのだと」
そちらの尊厳も考えられていたのか。なるほど、これは確かに、人間の尊厳のため、だ。工場長は、随分とすっきりした気持ちで、パンフレットに載る2種類の機械に目をやった。値段は同じ。それでも。
「決めた。不良品が混じる方の機械を買おう。君の説明には何の反論もない」
工場長は景気よく契約書にサインをした。全てを機械化するより、人の手が入った方が消費者は喜ぶ。仕事が簡単になりすぎるより、自分達の働く意義があった方が労働者は喜ぶ。それがよくわかった。
営業マンは嬉しそうな表情こそ見せなかったものの、契約書を大事そうに、静かにゆっくり鞄にしまった。
感謝の言葉を重ねながら、立ち上がって礼儀正しくお辞儀をする営業マンに、工場長も椅子から腰をあげて好意的に声をかける。
「しかし、それでもやはり、人間でなければダメなこともあるだろう? 例えばほら、君のように有能な営業マンは、人間だからこそできる仕事だよ」
工場長を納得させ、本来ならば買うはずのない機械を買わせたのだ。その営業の才能を認めざるを得なかった。
「お褒めの言葉、ありがとうございます」
営業マンは、もう一度深くお辞儀をしてから、顔をあげた。椅子に座って話をしていた先程よりも顔の距離は近く、二人はしっかりと目線を合わせられる。
「やり甲斐のある仕事ですよ」
そう言って微笑んだ営業マンの瞳の奥で、ゼンマイがチチチッと回転した。
END
#b#機械化が進み、あらゆることが機械でできるようになったが、人の手が入る方が消費者が安心し、労働者も仕事のやり甲斐を感じるので、不完全な機械の方が消費者・労働者双方に価値があると考えたから。#/b#
彼が売りに来た新しい機械は、2種類。「不良品をつくらない完璧な機械」と、「一定の割合で不良品が混じってしまう機械」だ。普通なら後者が安いのだろうが、営業マンが示した金額は、2種類とも全く同じだった。なんでも、工場の作業に支障が生じない程度に一定の割合で不良品をつくらせるのは大変難しいそうで、原価はむしろ後者の方がかかっているのだとか。
それで工場長は驚いて営業マンに聞いたのだ。何のために、性能の悪い機械をわざわざつくったんだ、と。
「人間の尊厳……だって?」
「そうです」
工場長の反応を元から予見していたように、営業マンは涼しい表情で続ける。
「工場長もご存じの通り、機械は日ごと高性能になり、故障もしにくくなりました。しかも安価でどこでも手に入ります。今や誰もが気軽に機械を購入できる時代です」
話の行き先が読めず、工場長は黙って聞き入る。
「おまけに故障を直す機械や、機械のミスを監視する機械まであるのですから、本来ならいかなる製品も、製造から梱包、配送まですべて機械で済ませてしまうのが最も正確なのです」
人差し指を立て力説する営業マンに、工場長も頷いた。
「確かにそうだ。コンピュータ管理されている機械ならば、人間より正確に大量の作業ができる上、同じ性能の機械をいくらでも容易に量産できるしな」
実際、その工場でもあらゆる作業を機械化し始めていた。今回機械の購入を検討したのも、少しでも作業を効率化し、生産量を増やそうという考えからであった。
工場長の答えに対し、満足そうに笑みを浮かべた営業マンは、しかし突如声を落として、囁くように投げ掛けた。
「なぜ、そうしないのでしょうか?」
何を聞かれているのか、工場長はわからなかった。いや、わかろうとしなかった。
小さなその問いかけは、なぜか深く考えてはいけないもののような気がした。
何も答えない工場長をせかすこともせず、営業マンは呆気なくまた溌剌とした声を張り上げた。
「少し話を変えてみましょう。工場長は奥様の手料理がお好きですか?」
唐突な質問に、工場長はまばたき数回分、面食らった。その後、それでも本来の冷静さを忘れずに、丁寧に答える。
「ああ、好きだよ。特に家内は肉じゃがが得意でね」
「他の人がつくった肉じゃがとは違うのですか?」
「違うなあ。娘もたまにつくってくれるのだが、家内が教えた通りにつくっても同じ味にならんのだ」
そこまで答えて、工場長はふと気づいた。営業マンが何も言う前に、彼がそう聞いたであろう質問に答える。
「それを機械になぜやらせないのか、ということかい? 確かに家庭用の機械も大分進化した。家内のレシピを正確に再現できるだろう。それでも違うんだ。実際の味ではなく、気持ちの問題というか……」
「そう、まさにそれなのです」
営業マンはまた人差し指を立てた。
「機械ならば失敗せずに美味しい料理がつくれるのに、機械ならば厳密な計算を経て最高の製品をつくれるのに、機械ならば不眠不休で働けるのに。なぜ人間の手作業をはさみたがるのでしょうか? 」
工場長にも、ようやく営業マンの言わんとしていることがわかってきた。彼は……確かに人間の尊敬を守ろうとしているのだ。
「人間は、人間の手が入ったものに、芸術を、信頼を、何より心を、感じるのですよ」
たっぷりと間をおいて、余韻を楽しませた後、営業マンはようやく本題の機械のパンフレットを指差した。
「不良品が出る方の機械は、必ず人間が検査する必要が出てきます。機械がつくったものを、最後は人間の目でチェックする。熟練の技術だの、長年の勘だの、根拠は説明できないけれどなんだかすごそうな印象を受けますよね。消費者にとっても安心感があります。心がこもっていると感じます。論理的に安心かどうかではないのです。これは、気持ちの問題です。そして……」
もはや工場長は完全に納得していだが、営業マンはだめ押しのように説得にかかる。
「……消費者だけではありません。労働する側、この工場で働く人間達は思うのです。『所詮は機械、やはり人間がいなければダメだなあ』と。自分達には存在意義があるのだと」
そちらの尊厳も考えられていたのか。なるほど、これは確かに、人間の尊厳のため、だ。工場長は、随分とすっきりした気持ちで、パンフレットに載る2種類の機械に目をやった。値段は同じ。それでも。
「決めた。不良品が混じる方の機械を買おう。君の説明には何の反論もない」
工場長は景気よく契約書にサインをした。全てを機械化するより、人の手が入った方が消費者は喜ぶ。仕事が簡単になりすぎるより、自分達の働く意義があった方が労働者は喜ぶ。それがよくわかった。
営業マンは嬉しそうな表情こそ見せなかったものの、契約書を大事そうに、静かにゆっくり鞄にしまった。
感謝の言葉を重ねながら、立ち上がって礼儀正しくお辞儀をする営業マンに、工場長も椅子から腰をあげて好意的に声をかける。
「しかし、それでもやはり、人間でなければダメなこともあるだろう? 例えばほら、君のように有能な営業マンは、人間だからこそできる仕事だよ」
工場長を納得させ、本来ならば買うはずのない機械を買わせたのだ。その営業の才能を認めざるを得なかった。
「お褒めの言葉、ありがとうございます」
営業マンは、もう一度深くお辞儀をしてから、顔をあげた。椅子に座って話をしていた先程よりも顔の距離は近く、二人はしっかりと目線を合わせられる。
「やり甲斐のある仕事ですよ」
そう言って微笑んだ営業マンの瞳の奥で、ゼンマイがチチチッと回転した。
END
#b#機械化が進み、あらゆることが機械でできるようになったが、人の手が入る方が消費者が安心し、労働者も仕事のやり甲斐を感じるので、不完全な機械の方が消費者・労働者双方に価値があると考えたから。#/b#