「真面目な教授のサボり癖」「2ブックマーク」
とかげ教授は、とっても真面目な大学教授。
講義に絶対遅刻しない、台風が来ても休講にしない、試験の点数が足りない学生は問答無用で単位を落とす!
なのに、試験直前の大事な講義を、助手に任せてサボってしまった。
とかげ教授、どうしたの?
講義に絶対遅刻しない、台風が来ても休講にしない、試験の点数が足りない学生は問答無用で単位を落とす!
なのに、試験直前の大事な講義を、助手に任せてサボってしまった。
とかげ教授、どうしたの?
14年10月10日 13:12
【ウミガメのスープ】 [とかげ]
【ウミガメのスープ】 [とかげ]

お昼の真面目なスープ
解説を見る
とかげ教授は、とっても真面目な大学教授。
自分が真面目なだけでなく、他の人の不真面目さも嫌いだ。
特に、真面目な人が損をすることなど、許せない人であった。
教授の最近の悩みは、講義をサボって試験だけ受けに来る学生が多いこと。
しかも、真面目に授業を受けていた学生に代返をさせたり、ノートを借りたり、勉強を教えてもらったりしているそうではないか。
真面目な学生は、そういう不真面目な学生の頼み事を断れず、親切にしてやることが多い。
とかげ教授にとって、それは許しがたい状況であった。
自分の顔さえまともに覚えていない奴が、試験直前だけ顔を出し、他人の努力を盗んで、楽して単位を取ろうとするのだ。
そこで教授は考えた。
試験直前の講義は、助手のわに君に任せよう。
直前だと試験範囲が発表されるから、普段サボっている学生もよく出席するのだ。
とかげ教授は今、来週の試験問題をつくっている。
第一問はこうだ。
「次の写真から、この講義を担当している教授を選べ」
END
自分が真面目なだけでなく、他の人の不真面目さも嫌いだ。
特に、真面目な人が損をすることなど、許せない人であった。
教授の最近の悩みは、講義をサボって試験だけ受けに来る学生が多いこと。
しかも、真面目に授業を受けていた学生に代返をさせたり、ノートを借りたり、勉強を教えてもらったりしているそうではないか。
真面目な学生は、そういう不真面目な学生の頼み事を断れず、親切にしてやることが多い。
とかげ教授にとって、それは許しがたい状況であった。
自分の顔さえまともに覚えていない奴が、試験直前だけ顔を出し、他人の努力を盗んで、楽して単位を取ろうとするのだ。
そこで教授は考えた。
試験直前の講義は、助手のわに君に任せよう。
直前だと試験範囲が発表されるから、普段サボっている学生もよく出席するのだ。
とかげ教授は今、来週の試験問題をつくっている。
第一問はこうだ。
「次の写真から、この講義を担当している教授を選べ」
END
「千本ワインの毒」「2ブックマーク」
千本のワインを前に、男は三人の息子達にこう投げかけた。
「ここに千本のワインがある。すべて同じ銘柄、同じ年のワインだ。このうち1本に毒を入れた。ワインを一滴でも飲めば24時間で死んでしまうほどの毒だ。毒自体に味はなく、24時間経たなければ毒入りワインを飲んだかどうか判別できない。毒見のためにうちの召使を何人使っても構わない。お前達は毒入りワインを見つけ出せるか?」
実直な父からの問いかけに、三人の息子達は一瞬顔を見合わせる。
生真面目な長男はすぐさま、「では私に千人の召使を与えてください」と願い出た。
ひねくれ者の次男はそれを聞いて、「俺は召使一人で十分だ」と言い放った。
最後に一番賢い三男が、「兄さん達には毒入りワインを見つけ出せないよ」と笑った。
三男はなぜそんなことを言ったのだろうか?
「ここに千本のワインがある。すべて同じ銘柄、同じ年のワインだ。このうち1本に毒を入れた。ワインを一滴でも飲めば24時間で死んでしまうほどの毒だ。毒自体に味はなく、24時間経たなければ毒入りワインを飲んだかどうか判別できない。毒見のためにうちの召使を何人使っても構わない。お前達は毒入りワインを見つけ出せるか?」
実直な父からの問いかけに、三人の息子達は一瞬顔を見合わせる。
生真面目な長男はすぐさま、「では私に千人の召使を与えてください」と願い出た。
ひねくれ者の次男はそれを聞いて、「俺は召使一人で十分だ」と言い放った。
最後に一番賢い三男が、「兄さん達には毒入りワインを見つけ出せないよ」と笑った。
三男はなぜそんなことを言ったのだろうか?
15年10月16日 23:12
【ウミガメのスープ】 [とかげ]
【ウミガメのスープ】 [とかげ]

死因はスープ
解説を見る
父が呼んでいると執事から告げられ、三男が部屋にやってきたときには、既に長男と次男が緊張した面持ちで父と向き合っていた。父と二人の兄達の間に置かれたテーブルには、幾つものワインボトルが並んでおり、その不可思議な光景に思わず声をあげそうになったが、すべてを飲み込んで三男は空いた末席に腰を下ろした。
彼を連れてきた初老の執事が静かに扉を閉めると、父は三人の兄弟達と目線を合わせながら、低く響く声で語り始めた。
「今日、お前達を呼んだ理由は、薄々気づいているだろう。隠す必要もないので、はっきりと言っておく――私の跡継ぎを決めたいのだ」
三人の息子達は誰も驚いた様子がなく、ただ父の次の言葉を待っていた。
父は以前から、跡継ぎを誰にするか決めかねているという旨の発言を繰り返していた。そして実直で合理を好む父が、ただ長子だからという理由で長男を選ぶようなつまらない真似をしないことも、息子達にはわかっていた。
「お前達三人は、それぞれ良いところがある。お前達の誰が跡継ぎであっても、立派に責務をこなしてくれることを私は信じているし、三人で協力してくれるであろうこともわかっている。ただ、やはり正式な跡継ぎは一人だ。それはまだ私の頭が正常に働いてくれるうちに、決めておきたい」
父の言葉に、三人はただ頷いた。
ここで唐突に、父は目の前に並ぶワインに目を向けた。
「ここに千本のワインがある。すべて同じ銘柄、同じ年のワインだ。このうち1本に毒を入れた。ワインを一滴でも飲めば24時間で死んでしまうほどの毒だ。毒自体に味はなく、24時間経たなければ毒入りワインを飲んだかどうか判別できない。毒見のためにうちの召使を何人使っても構わない。お前達は毒入りワインを見つけ出せるか?」
突然の問いかけに、三人の息子達は一瞬顔を見合わせる。
跡継ぎの話とどう繋がるのか、わからないはずがなかった。
生真面目な長男はすぐさま、「では私に千人の召使を与えてください」と願い出た。
「我が家の召使は父上のためであれば命を捨てられる、忠誠心の強い者ばかりです。一人一本ずつ、毒見をさせます。24時間経てば一人死ぬでしょう。死んだ召使が飲んだワインが毒入りとわかります」
ひねくれ者の次男はそれを聞いて、「俺は召使一人で十分だ」と言い放った。
「一人の召使に、毎日一本ずつ毒見させるんだ。千本なら三年以内で終わる。時間はかかるが、召使を千人も使うなんていう非現実的な方法よりはよっぽどいいだろう」
「なんだって」
長男は不機嫌そうに次男を睨んだ。
「父上は何人でもと仰った。確かに我が家には千人も召使はいないが、一日だけなら雇えば良かろう。そもそも父上は迅速な仕事を好む。毒見に三年も費やす方が馬鹿げているのではないか?」
指摘された次男は、頬杖をついて長男の鋭い眼差しを遮った。
「確かに親父は召使のみならず、ここらの土地の住人達に慕われている。一日だけ雇うにしても人は集まるだろう。しかし、慈悲深い親父にとって、誰が死ぬかわからないような毒見は耐え難いはずさ。むしろ志願者を募り、一人だけ毒見させればいいじゃないか。第一、親父はこれが緊急の仕事であるとは言っていないぜ?」
父の意向を組もうとする彼らの発言に、父自身はイエスともノーとも答えない。
そんな彼らの様子を見守っていた一番賢い三男は、「兄さん達には毒入りワインを見つけ出せないよ」と笑った。
「どういうことだ」
「何か思いついたのか」
兄達の探るような視線にはあえて気付かぬ素振りで、三男は彼らの疑問に質問で返す。
「よく考えて見て欲しい。『迅速な仕事を好む』父さんが、千本のワインの中の一本だけに毒を混ぜるなんて、無意味なことをするのはなぜか。『慈悲深い』父さんが、召使とは言え必ず一人は死ななければならない毒見をさせようとするのはなぜか」
兄達へ向けたような言葉面だったが、三男の笑顔は沈黙を守る父に向けられていた。
「父さんは、『ワインを一滴でも飲めば24時間で死んでしまう』と言った。しかも、『毒自体に味はなく、24時間経たなければ毒入りワインを飲んだかどうか判別できない』……僕は毒に詳しいわけじゃないけれど、少し考えれば、おかしなことに気付くはずだ。#b#そんな毒を、なぜ父さんが入手できたのだろう?#/b#」
兄二人は、要領を得ない様子で押し黙る。彼らのために、三男は続けた。
「ワインをたった一滴飲むだけで確実に死ぬほど強力で、しかもそれが24時間経つまでまったくわからないだなんて……そんな都合の良い毒、存在するのか? もし存在するとしても、医者でも薬剤師でもない父さんが手に入れられるんなら、今頃そこら中で毒殺事件が起こっているはずだよ」
父は無表情のまま、三男を見つめる。
「もしそんな毒が存在するのならば、正当な手段で入手できるはずがない。父さんは確かに地主で権力もあるし、金もある。けれど、兄さん達も知っての通り、父さんは本当に実直な人だ。不誠実なことを嫌う。正当に入手できるはずがない毒を、父さんが持っているはずがない」
ようやく三男の言いたいことがわかってきたのか、長男と次男は息をのんだ。
「どう考えたっておかしいんだ。三人の息子のうち誰に跡を継がせるかなんていう個人的な問題のために、わざわざそんな毒を不当に入手し、大切な召使を殺してしまうような余興を、父さんが好むわけがないじゃないか」
三男は立ち並ぶ千本のワインを指し示した。
「千本のワインの中に、#b#毒入りワインは存在しない#/b#。だから兄さん達は、何人召使を雇おうとも、何年かかろうとも、毒入りワインを見つけ出せないよ」
しばし続いた静寂を打ち破ったのは、父の笑い声であった。
本当におかしそうに、そして本当に嬉しそうに、父は三男に優しい眼差しを向ける。
「その通りだ。やはりお前は賢いな。……生まれた順番こそ三番目だが、我が一族の当主に最も相応しい」
長男と次男に、もはや反論の余地はなかった。
「お前がこの家を継ぐといい」
父の宣言に、三男は恭しく一礼した。
「君のおかげだ」
寝床に入る三男の身支度を手伝っていた執事は、そんな三男――次期当主の言葉に、誇らしげに微笑んだ。
役目を終えた千本のワインは三男が貰い受け、先程まで三男と執事の二人で祝杯をあげていた。いつもより陽気な反応をする執事は、少々酔いが回っていたのだろう。
「ありがとうございます、そんな風に言って頂けるなんて、光栄です。しかし坊っちゃんの機転がなければ、私の情報など意味がないものでした」
長年この家に仕え、召使達を束ねてきた初老の執事にとって、人懐っこい三男は孫のような可愛い存在であった。数日前、三男にだけ「お父上から不思議な言い付けがありました」と伝えてしまったのも、ついつい三男贔屓してしまう執事のお節介であった。
執事から、「父上が同じ銘柄、同じ年のワインを千本用意するよう言われました。坊っちゃんたちには内密に、とも仰せでした」と聞いた三男は、最初は首をひねっていた。あの父は無意味にそんなことを言うような人ではない。銘柄や年に指定がないことから、父自身が飲みたいわけでも、誰かに贈りたいわけでもなさそうだ。執事によると、用意したワインを父自身が確認することもなく、ただ自分が声をかけるまで、息子達がわからないような場所へ隠しておけと言ったそうだ。隠し場所については、父自身も知らないはずだという。
色々と思慮を巡らせた末、もしかしたら、と跡継ぎ問題の件に思い至った。長男に譲るにしても、長男であること以外に何かしら理由をつけるはずだとは思っていたが、これはひょっとすると自分にも機会があるかもしれない、と。
千本のワインをどう使うつもりなのかは、もちろん父からの問いを聞くまでわからなかったが、先に情報を握っていた分、三男に有利であったことに間違いはない。
「兄さん達が死なない限り、さすがに三男の僕が跡を継ぐのは難しいだろうと思っていたが……」
「いえいえ、私は坊っちゃんが継ぐのが一番だと思っていましたよ。お兄様達ももちろん優秀な方々ですが……坊っちゃんには敵いますまい。お父上も、きっと坊ちゃんに目をかけていたに違いありませんよ」
「……本当に、君のおかげだ」
三男は、執事の両手を取り、爽やかにほほ笑んだ。執事は嬉しそうに頭を下げる。
「もったいないお言葉です、本当に、ただの世間話のつもりだったんです。私のおかげなんてもんじゃあありませんよ」
「いや、君のおかげだよ。君のおかげで――」
心なしか、三男の両手に力がこもる。
「――#b#殺すのが一人で済んだ#/b#」
「そんな、もう……え?」
執事が顔をあげると、三男はやはり笑っていた。自分の聞き間違いか、飲み過ぎたのかもしれないと、執事は一瞬曇らせた表情をまた笑顔に変えようとしたが、なぜか口角が上がらない。
手を握ったまま、笑顔のまま、三男は歌うように語りかける。
「最低でも兄さん達二人を殺さねばと思っていたけれど、良かったよ。さすがに肉親を二人も殺すのは気が引けていたところなんだ」
「坊っちゃん……?」
「ほら、君もわかるだろう。父さんは不誠実なことが大嫌いだ。君がワインの件を僕に教えてくれていたということが知れたら、どうなると思う? もちろん、君が同じことを兄さん達に教えていたとしても、僕のようには頭が回らなかっただろう。しかし、君の情報が役に立ったことは事実だ。毒入りワインが存在しないと断定できたのは、君の情報があったからこそだ。父さんからすれば、僕達兄弟の状況は公平ではなかった。そして父さんは、そういったことを許さない。決して」
執事に言い聞かせるかのように、三男は顔を近づけ矢継ぎ早に続けていく。
「父さんが知ったら、僕を軽蔑するだろう。僕は今後一切の信用を失い、跡継ぎの話はなくなってしまう。父さんはそういう人だ。だから、念には念を入れねばなるまい」
ようやく、執事は三男の言葉の意図を理解した。突如湧きあがる恐怖。しかし、身体が思うように動かなかった。それは恐怖のせいだけではないし、ワインの余韻はとうに失せていた。
「毒が回ってきたかい? そうだよ、その毒を手に入れるのは易しくない。少量でも確実に死ぬほど強力で、けれど死ぬまでに時間がかかり、無味無臭であるような毒なんてね。少なくとも、正当な手段では得られない。だから、だからこそ、僕はすぐにわかったのだ。毒入りワインなんて存在しないということが」
息苦しい、と気付いたときには既に呼吸ができなくなっていた。執事は膝から崩れ落ちる。三男は、恐ろしいほど優しい手つきで、身動きがとれぬ老人を抱きとめ、ゆっくりと床に寝かせた。
深呼吸を一つして、可哀そうな執事が突然死したシナリオを頭の中で反芻する。執事に対する感謝の気持ちで、涙は自然と流せそうだ。
三男には、よくわかっていた。
あの千本のワインに、毒入りワインはないなんて嘘だ。
ワインの毒が確かに自分を犯しているのだから。
END
#b#少量でも確実に死に、24時間気付かれないような都合の良い毒を、父が手に入れられるはずがないので、千本のワインの中に毒入りワインはないと推理したから#/b#
彼を連れてきた初老の執事が静かに扉を閉めると、父は三人の兄弟達と目線を合わせながら、低く響く声で語り始めた。
「今日、お前達を呼んだ理由は、薄々気づいているだろう。隠す必要もないので、はっきりと言っておく――私の跡継ぎを決めたいのだ」
三人の息子達は誰も驚いた様子がなく、ただ父の次の言葉を待っていた。
父は以前から、跡継ぎを誰にするか決めかねているという旨の発言を繰り返していた。そして実直で合理を好む父が、ただ長子だからという理由で長男を選ぶようなつまらない真似をしないことも、息子達にはわかっていた。
「お前達三人は、それぞれ良いところがある。お前達の誰が跡継ぎであっても、立派に責務をこなしてくれることを私は信じているし、三人で協力してくれるであろうこともわかっている。ただ、やはり正式な跡継ぎは一人だ。それはまだ私の頭が正常に働いてくれるうちに、決めておきたい」
父の言葉に、三人はただ頷いた。
ここで唐突に、父は目の前に並ぶワインに目を向けた。
「ここに千本のワインがある。すべて同じ銘柄、同じ年のワインだ。このうち1本に毒を入れた。ワインを一滴でも飲めば24時間で死んでしまうほどの毒だ。毒自体に味はなく、24時間経たなければ毒入りワインを飲んだかどうか判別できない。毒見のためにうちの召使を何人使っても構わない。お前達は毒入りワインを見つけ出せるか?」
突然の問いかけに、三人の息子達は一瞬顔を見合わせる。
跡継ぎの話とどう繋がるのか、わからないはずがなかった。
生真面目な長男はすぐさま、「では私に千人の召使を与えてください」と願い出た。
「我が家の召使は父上のためであれば命を捨てられる、忠誠心の強い者ばかりです。一人一本ずつ、毒見をさせます。24時間経てば一人死ぬでしょう。死んだ召使が飲んだワインが毒入りとわかります」
ひねくれ者の次男はそれを聞いて、「俺は召使一人で十分だ」と言い放った。
「一人の召使に、毎日一本ずつ毒見させるんだ。千本なら三年以内で終わる。時間はかかるが、召使を千人も使うなんていう非現実的な方法よりはよっぽどいいだろう」
「なんだって」
長男は不機嫌そうに次男を睨んだ。
「父上は何人でもと仰った。確かに我が家には千人も召使はいないが、一日だけなら雇えば良かろう。そもそも父上は迅速な仕事を好む。毒見に三年も費やす方が馬鹿げているのではないか?」
指摘された次男は、頬杖をついて長男の鋭い眼差しを遮った。
「確かに親父は召使のみならず、ここらの土地の住人達に慕われている。一日だけ雇うにしても人は集まるだろう。しかし、慈悲深い親父にとって、誰が死ぬかわからないような毒見は耐え難いはずさ。むしろ志願者を募り、一人だけ毒見させればいいじゃないか。第一、親父はこれが緊急の仕事であるとは言っていないぜ?」
父の意向を組もうとする彼らの発言に、父自身はイエスともノーとも答えない。
そんな彼らの様子を見守っていた一番賢い三男は、「兄さん達には毒入りワインを見つけ出せないよ」と笑った。
「どういうことだ」
「何か思いついたのか」
兄達の探るような視線にはあえて気付かぬ素振りで、三男は彼らの疑問に質問で返す。
「よく考えて見て欲しい。『迅速な仕事を好む』父さんが、千本のワインの中の一本だけに毒を混ぜるなんて、無意味なことをするのはなぜか。『慈悲深い』父さんが、召使とは言え必ず一人は死ななければならない毒見をさせようとするのはなぜか」
兄達へ向けたような言葉面だったが、三男の笑顔は沈黙を守る父に向けられていた。
「父さんは、『ワインを一滴でも飲めば24時間で死んでしまう』と言った。しかも、『毒自体に味はなく、24時間経たなければ毒入りワインを飲んだかどうか判別できない』……僕は毒に詳しいわけじゃないけれど、少し考えれば、おかしなことに気付くはずだ。#b#そんな毒を、なぜ父さんが入手できたのだろう?#/b#」
兄二人は、要領を得ない様子で押し黙る。彼らのために、三男は続けた。
「ワインをたった一滴飲むだけで確実に死ぬほど強力で、しかもそれが24時間経つまでまったくわからないだなんて……そんな都合の良い毒、存在するのか? もし存在するとしても、医者でも薬剤師でもない父さんが手に入れられるんなら、今頃そこら中で毒殺事件が起こっているはずだよ」
父は無表情のまま、三男を見つめる。
「もしそんな毒が存在するのならば、正当な手段で入手できるはずがない。父さんは確かに地主で権力もあるし、金もある。けれど、兄さん達も知っての通り、父さんは本当に実直な人だ。不誠実なことを嫌う。正当に入手できるはずがない毒を、父さんが持っているはずがない」
ようやく三男の言いたいことがわかってきたのか、長男と次男は息をのんだ。
「どう考えたっておかしいんだ。三人の息子のうち誰に跡を継がせるかなんていう個人的な問題のために、わざわざそんな毒を不当に入手し、大切な召使を殺してしまうような余興を、父さんが好むわけがないじゃないか」
三男は立ち並ぶ千本のワインを指し示した。
「千本のワインの中に、#b#毒入りワインは存在しない#/b#。だから兄さん達は、何人召使を雇おうとも、何年かかろうとも、毒入りワインを見つけ出せないよ」
しばし続いた静寂を打ち破ったのは、父の笑い声であった。
本当におかしそうに、そして本当に嬉しそうに、父は三男に優しい眼差しを向ける。
「その通りだ。やはりお前は賢いな。……生まれた順番こそ三番目だが、我が一族の当主に最も相応しい」
長男と次男に、もはや反論の余地はなかった。
「お前がこの家を継ぐといい」
父の宣言に、三男は恭しく一礼した。
「君のおかげだ」
寝床に入る三男の身支度を手伝っていた執事は、そんな三男――次期当主の言葉に、誇らしげに微笑んだ。
役目を終えた千本のワインは三男が貰い受け、先程まで三男と執事の二人で祝杯をあげていた。いつもより陽気な反応をする執事は、少々酔いが回っていたのだろう。
「ありがとうございます、そんな風に言って頂けるなんて、光栄です。しかし坊っちゃんの機転がなければ、私の情報など意味がないものでした」
長年この家に仕え、召使達を束ねてきた初老の執事にとって、人懐っこい三男は孫のような可愛い存在であった。数日前、三男にだけ「お父上から不思議な言い付けがありました」と伝えてしまったのも、ついつい三男贔屓してしまう執事のお節介であった。
執事から、「父上が同じ銘柄、同じ年のワインを千本用意するよう言われました。坊っちゃんたちには内密に、とも仰せでした」と聞いた三男は、最初は首をひねっていた。あの父は無意味にそんなことを言うような人ではない。銘柄や年に指定がないことから、父自身が飲みたいわけでも、誰かに贈りたいわけでもなさそうだ。執事によると、用意したワインを父自身が確認することもなく、ただ自分が声をかけるまで、息子達がわからないような場所へ隠しておけと言ったそうだ。隠し場所については、父自身も知らないはずだという。
色々と思慮を巡らせた末、もしかしたら、と跡継ぎ問題の件に思い至った。長男に譲るにしても、長男であること以外に何かしら理由をつけるはずだとは思っていたが、これはひょっとすると自分にも機会があるかもしれない、と。
千本のワインをどう使うつもりなのかは、もちろん父からの問いを聞くまでわからなかったが、先に情報を握っていた分、三男に有利であったことに間違いはない。
「兄さん達が死なない限り、さすがに三男の僕が跡を継ぐのは難しいだろうと思っていたが……」
「いえいえ、私は坊っちゃんが継ぐのが一番だと思っていましたよ。お兄様達ももちろん優秀な方々ですが……坊っちゃんには敵いますまい。お父上も、きっと坊ちゃんに目をかけていたに違いありませんよ」
「……本当に、君のおかげだ」
三男は、執事の両手を取り、爽やかにほほ笑んだ。執事は嬉しそうに頭を下げる。
「もったいないお言葉です、本当に、ただの世間話のつもりだったんです。私のおかげなんてもんじゃあありませんよ」
「いや、君のおかげだよ。君のおかげで――」
心なしか、三男の両手に力がこもる。
「――#b#殺すのが一人で済んだ#/b#」
「そんな、もう……え?」
執事が顔をあげると、三男はやはり笑っていた。自分の聞き間違いか、飲み過ぎたのかもしれないと、執事は一瞬曇らせた表情をまた笑顔に変えようとしたが、なぜか口角が上がらない。
手を握ったまま、笑顔のまま、三男は歌うように語りかける。
「最低でも兄さん達二人を殺さねばと思っていたけれど、良かったよ。さすがに肉親を二人も殺すのは気が引けていたところなんだ」
「坊っちゃん……?」
「ほら、君もわかるだろう。父さんは不誠実なことが大嫌いだ。君がワインの件を僕に教えてくれていたということが知れたら、どうなると思う? もちろん、君が同じことを兄さん達に教えていたとしても、僕のようには頭が回らなかっただろう。しかし、君の情報が役に立ったことは事実だ。毒入りワインが存在しないと断定できたのは、君の情報があったからこそだ。父さんからすれば、僕達兄弟の状況は公平ではなかった。そして父さんは、そういったことを許さない。決して」
執事に言い聞かせるかのように、三男は顔を近づけ矢継ぎ早に続けていく。
「父さんが知ったら、僕を軽蔑するだろう。僕は今後一切の信用を失い、跡継ぎの話はなくなってしまう。父さんはそういう人だ。だから、念には念を入れねばなるまい」
ようやく、執事は三男の言葉の意図を理解した。突如湧きあがる恐怖。しかし、身体が思うように動かなかった。それは恐怖のせいだけではないし、ワインの余韻はとうに失せていた。
「毒が回ってきたかい? そうだよ、その毒を手に入れるのは易しくない。少量でも確実に死ぬほど強力で、けれど死ぬまでに時間がかかり、無味無臭であるような毒なんてね。少なくとも、正当な手段では得られない。だから、だからこそ、僕はすぐにわかったのだ。毒入りワインなんて存在しないということが」
息苦しい、と気付いたときには既に呼吸ができなくなっていた。執事は膝から崩れ落ちる。三男は、恐ろしいほど優しい手つきで、身動きがとれぬ老人を抱きとめ、ゆっくりと床に寝かせた。
深呼吸を一つして、可哀そうな執事が突然死したシナリオを頭の中で反芻する。執事に対する感謝の気持ちで、涙は自然と流せそうだ。
三男には、よくわかっていた。
あの千本のワインに、毒入りワインはないなんて嘘だ。
ワインの毒が確かに自分を犯しているのだから。
END
#b#少量でも確実に死に、24時間気付かれないような都合の良い毒を、父が手に入れられるはずがないので、千本のワインの中に毒入りワインはないと推理したから#/b#
「ナルキッソスは死にましたー!」「2ブックマーク」
職場で突然、カメコに自らをナルシストであるとカミングアウトしたカメオ。
苦笑いで返したカメコだが、
後日2人は付き合うことになった。
状況を補完してください。
苦笑いで返したカメコだが、
後日2人は付き合うことになった。
状況を補完してください。
15年12月01日 14:37
【ウミガメのスープ】 [シトウ]
【ウミガメのスープ】 [シトウ]
解説を見る
カメオ「あんな、俺、#b#自分のことめっちゃ好き#/b#やねん」
カメコ「は、はあ…そうなんですか…?」
苦笑いで返したカメコ。困惑のまま、その夜友人カメミに相談したところ
カメミ「カメオくん関西の人なんでしょ、だから「自分」は二人称なんじゃないの?」
カメコ「えっ…じゃ、じゃあ、私のこと、ええっ!?」
カメミ「あんた、フラグ叩き折ってどうすんのよ! 明日ちゃんと話してきなさい!w」
翌日、カメオに勘違いの件を謝ったカメコ。
もともと仲良く話をしていて、お互いに好意を持っていた2人は、
後日無事恋人になりました。
うん、爆発しろ。
元ネタ:とある掲示板の投稿より
カメコ「は、はあ…そうなんですか…?」
苦笑いで返したカメコ。困惑のまま、その夜友人カメミに相談したところ
カメミ「カメオくん関西の人なんでしょ、だから「自分」は二人称なんじゃないの?」
カメコ「えっ…じゃ、じゃあ、私のこと、ええっ!?」
カメミ「あんた、フラグ叩き折ってどうすんのよ! 明日ちゃんと話してきなさい!w」
翌日、カメオに勘違いの件を謝ったカメコ。
もともと仲良く話をしていて、お互いに好意を持っていた2人は、
後日無事恋人になりました。
うん、爆発しろ。
元ネタ:とある掲示板の投稿より
「人肉オークション」「2ブックマーク」
#red#人肉オークション#/red#に参加していた一般人のカメオは
我慢出来ずについ『#red#人肉#/red#』を買ってしまった。
だがカメオとカメオの息子はとても嬉しそうだった。
カメオの息子は人肉が好きなわけではないのに、一体何故?
(※#b#以下の文は問題文の補足説明です。#/b#)
こんばんは。松神です。
皆さんは、『#red#人肉オークション#/red#』なるものをご存知でしょうか。
...おや?ご存知でない?
ふむ、では僭越ながらこの松神が説明をいたしましょう
『人肉オークション』とは、こっそり攫ってきたり、誘拐したり
連れてきたりした人間を『人肉』という商品としてお客様に提供させていただく画期的なオークションでございます。
基本的に参加は自由です...合言葉さえ知っていればですが。
参加していただく方には入口で配られた
番号札を持っていただき、オークション形式で出品された『人肉』の競り合いをしていただきます。
競り合いの中で最も高額な値段を提示した方には
見事『人肉』の所有権が与えられます。
競り落としていただいた『人肉』に関してはこちらで調理したり、血抜き処理などの下準備をしたりなどのサービスもございます。
勿論、そのままでお持ち帰りいただいても構いませんよ。お客様の自由にしていただいて構いません。お金さえ払ってくだされば...ね。
ルールは以上です。分かりましたかね?
それでは楽しいカニバリカーニバルの開幕です。
我慢出来ずについ『#red#人肉#/red#』を買ってしまった。
だがカメオとカメオの息子はとても嬉しそうだった。
カメオの息子は人肉が好きなわけではないのに、一体何故?
(※#b#以下の文は問題文の補足説明です。#/b#)
こんばんは。松神です。
皆さんは、『#red#人肉オークション#/red#』なるものをご存知でしょうか。
...おや?ご存知でない?
ふむ、では僭越ながらこの松神が説明をいたしましょう
『人肉オークション』とは、こっそり攫ってきたり、誘拐したり
連れてきたりした人間を『人肉』という商品としてお客様に提供させていただく画期的なオークションでございます。
基本的に参加は自由です...合言葉さえ知っていればですが。
参加していただく方には入口で配られた
番号札を持っていただき、オークション形式で出品された『人肉』の競り合いをしていただきます。
競り合いの中で最も高額な値段を提示した方には
見事『人肉』の所有権が与えられます。
競り落としていただいた『人肉』に関してはこちらで調理したり、血抜き処理などの下準備をしたりなどのサービスもございます。
勿論、そのままでお持ち帰りいただいても構いませんよ。お客様の自由にしていただいて構いません。お金さえ払ってくだされば...ね。
ルールは以上です。分かりましたかね?
それでは楽しいカニバリカーニバルの開幕です。
15年11月29日 20:52
【ウミガメのスープ】 [松神]
【ウミガメのスープ】 [松神]
解説を見る
カメオは人肉に興味があった。
それも人肉オークションに足繁く通う程に、だ。
この趣味は誰にも知られてはならない...
妻にも、息子にも。
だが悲劇は起こった。
いつも通りカメオが人肉オークションで
まだ知らぬ人肉の味に思いを馳せながら
入口で配られたカタログに目を通していると
カメオはあることに気付く。
出品されている『人肉』の中に知っている人物がいたのだ。
ただ知っているだけの人なら良かった
だがそれはカメオの息子だったのだ。
カメオの息子は最近カメオの帰りが遅いことを
怪しんでいたらしく、
それでカメオの跡を付けることにしたのだが
父であるカメオがオークション会場に入ったので外で待機していたところ
会場の警備員に見つかりオークションに出品されることになったらしい。
オークションは着々と進み、どんどん商品が競り落されていく。
そしてとうとうカメオの息子の番になった。
自分の息子だから助けてくれ...
そういったところで誰も耳を貸すものはいないだろう。
なんせ闇のオークションだ。違法なことなど沢山している
それにカメオはただの一般人だ。上客というわけでもない。
警察は呼んだところですぐには駆けつけては来られないだろうし、逆に自分の身も危ない。
ならば...
気が付いたらカメオは番号札を掲げていた。
提示額は300万。ここで人1人分を買うのには十分すぎる値段だ。
そうしてカメオは無事に息子を連れ帰ることが出来た。
息子「ありがとう...父さん。」
カメオ「いや、自分の息子のためなら、俺は何でもするよ」
息子「...本当に、ありがとう。父さん」
それも人肉オークションに足繁く通う程に、だ。
この趣味は誰にも知られてはならない...
妻にも、息子にも。
だが悲劇は起こった。
いつも通りカメオが人肉オークションで
まだ知らぬ人肉の味に思いを馳せながら
入口で配られたカタログに目を通していると
カメオはあることに気付く。
出品されている『人肉』の中に知っている人物がいたのだ。
ただ知っているだけの人なら良かった
だがそれはカメオの息子だったのだ。
カメオの息子は最近カメオの帰りが遅いことを
怪しんでいたらしく、
それでカメオの跡を付けることにしたのだが
父であるカメオがオークション会場に入ったので外で待機していたところ
会場の警備員に見つかりオークションに出品されることになったらしい。
オークションは着々と進み、どんどん商品が競り落されていく。
そしてとうとうカメオの息子の番になった。
自分の息子だから助けてくれ...
そういったところで誰も耳を貸すものはいないだろう。
なんせ闇のオークションだ。違法なことなど沢山している
それにカメオはただの一般人だ。上客というわけでもない。
警察は呼んだところですぐには駆けつけては来られないだろうし、逆に自分の身も危ない。
ならば...
気が付いたらカメオは番号札を掲げていた。
提示額は300万。ここで人1人分を買うのには十分すぎる値段だ。
そうしてカメオは無事に息子を連れ帰ることが出来た。
息子「ありがとう...父さん。」
カメオ「いや、自分の息子のためなら、俺は何でもするよ」
息子「...本当に、ありがとう。父さん」
「約束の拘束」「2ブックマーク」
ある日を境にお洒落をやめた女と、ある日を境に女に頼ることをやめた男。
しばらくすると男は女に、一人では絶対外せない鎖をつけた。
その日を境に男はファッションを勉強し、その日を境に女は男に頼るようになった。
状況を補完し、男が一人では絶対外せない鎖を女につけた真意を解明してください。
しばらくすると男は女に、一人では絶対外せない鎖をつけた。
その日を境に男はファッションを勉強し、その日を境に女は男に頼るようになった。
状況を補完し、男が一人では絶対外せない鎖を女につけた真意を解明してください。
13年04月01日 23:12
【ウミガメのスープ】 [水上]
【ウミガメのスープ】 [水上]

80問目。今回も長文解説で。
解説を見る
もう、ヒロはホントにしかたないんだから…
義姉のサヨの口癖である。
あの頃の俺は思い出すだけでも恥ずかしい… サヨ姉に甘えっぱなしだった。
何をするにも姉と一緒。泳げない俺をスパルタで泳げるようにし、夏休みの宿題は半分以上サヨ姉がやってくれた。お風呂も…いや、流石に小学校卒業とともに一緒に風呂に入るのは卒業したよ? ん?それでも遅いって?
兎にも角にも、当時の俺は重度のシスコンでサヨ姉に頼りっぱなしで育っていった。
#b#あの日#/b#がくるまでは。
#b#あの日#/b#は忘れもしない…ヒロが中学2年生、私が成人したばかりの時だった。
その当時のヒロはなんだか子供から大人に変わる途中っていうか、ちょっと胸板も厚くなってきて、あの可愛らしい甲高い声から男っぽい声に変わって、生意気に身長も私より大きくなっちゃって、以前の可愛らしいヒロもすごく良かったんだけど、こっちはこっちでなかなか…
って、話がそれっちゃったね。私ってば重度のブラコンで、弟の話になるとつい…
そうそう、二階の部屋でヒロがちっちゃい時の写真を眺めてウットリしてる時だった。
下の居間から今眺めてる写真のヒロからは想像もできない怒鳴り声が聞こえてきたの。
急いで下に駆けつけてみると、ヒロがお父さんに食ってかかっていた。
どうやらヒロは自分が貰われっ子だということを何かで知ったらしい。
お父さんを跳ね除け、振り返った時に私と目があった。
ヒロは一瞬戸惑いの表情を浮かべたけど、すぐに目を逸らして家を飛び出して行ってしまった。
「私、追っかけてくる!」
私は両親にそう告げて、ヒロを追っかけるために家を飛び出しんだ。
俺はこの家の実の子供ではないと知って親父に問い詰めた時、悲しい気持ちもあったが、実は嬉しい気持ちもあったんだ。
サヨ姉が実の姉ではない…
その事実が持つある可能性に俺は希望を見出してしまった。
そして、今俺がこの家を飛び出せば、サヨ姉が追っかけてくれるだろうと浅はかで愚かしい考えも浮かんだ。
親父を跳ね除け、振り返り、そのサヨ姉と目があった時、全てを見透かされたような気がした。
俺は羞恥で顔が赤く染まっていくのを感じ、すぐに目を逸らした。
先ほどの愚かな打算も吹っ飛んで、俺は靴も履かずに飛び出した。
すぐにサヨ姉が追っかけてきた。
俺はなんだか合わせる顔がなくて、どこまでも走って逃げた。
サヨ姉はどこまでも追っかけてきた。信号が赤に変わっているのに…
気付けば私は宙に浮いていた。
全てがスローモーション。
驚いているヒロの顔も視認できる。
地面がゆっくり近づいていき、そこで
私の意識は途切れた。
サヨ姉は奇跡的に無事だった。しかし失ったものが一つ。
#red#彼女の右手。#/red#
車に撥ね飛ばされ着地の際に、側溝に右手が引っ掛かり、そのまま千切れてしまった。
その右手もグシャグシャになってしまい、再生治療は不可能だった。
サヨ姉は右手首から先を失ってしまったのだ。愚かな俺の行動のせいで。
俺は自分を呪い、恥じ、責めた。
サヨ姉が入院中、学校にも行かずに自室に引きこもり、3日経った時に鍵が掛かっているドアが蹴破られた。
#b#鬼の形相の親父#/b#だった。
有無を言わさずぶん殴られる。
「いきなり何すんだっ!!」
「お前が今やるべきことはなんだ!? ここで不貞腐れていることか?サヨが帰ってきて今のお前を見てどう思う?お前が今優先すべきことを考えろッ!!」
「・・・」
そう、俺の優先すべきことはサヨ姉だ。俺が引きこもることで事態は何一つ好転しない。
「俺、殴られたの、生まれて初めてだ…」
「俺はお前の父親、だからな」
「・・・」
「…どした?」
「いや…殴られたところが超痛てぇ…」
そう言って俺は親父の胸に顔を埋めた。サヨ姉が入院中でホントに良かったと思った。
ううむ、やってしまった。右手までなくしたのに、傷ついて出て行ったヒロを抱きしめてあげられなかったとは…
しかも#b#アレ#/b#もなくしちゃうし…
利き手がなくなるとオシャレがめんどくさい。
着る服は簡単なものだけで、化粧もあっさりメイクになっちゃった。
そ・れ・に・し・て・も・だ。退院してからヒロが冷たい。
右手を失くして不自由なお姉ちゃんにかまってくれない!
あれだけおねぇちゃ〜ん、おねぇちゃ〜んって甘えていたヒロが一体どうしてこうなったのだ?
俺はガムシャラに勉強した。
クラスで中の下だった俺の成績は、学年3位にまで上がった。
地元の高校へ進学してからは三年間、学年1位の座を譲らなかった。
そして当時は試験を受けることさえも想像していなかった県外の難関大学に合格した。
「右手を無くして不自由な私をおいて行くのね、ヨヨヨ…」
「もう左手だけでなんでもできんじゃん。大学出たらこっちに戻ってくるからさ」
「チッ、4年間長え、まじ長え、まじパねえ」
「…月に一回は戻ります」
私とヒロとの別れは意外とあっさりしたものだった。
私はヒロの負担にならないようにと快く彼を送り出したのでした。
4年後…
地元で大手の会社に就職した俺は、ある決心をしていた。
プロポーズ、である。
決行はサヨ姉の誕生日。プレゼントは指輪ではなく…
「ブレスレット?」
「うん、今付けてあげる」
俺はサヨ姉の#b#左手首#/b#にブレスレットを着けてあげた。
「昔の記憶だとサヨ姉はいっつもブレスレット着けてたイメージがあるんだ。だから社会人になって初めてのプレゼントはブレスレットにしようって決めてたんだ」
「私、別にブレスレット好きだったわけじゃないよ?」
「…え?マジ?俺なんかやらかしちゃったっぽい?」
「でもヒロの記憶は間違いではない。ていうかちゃんと覚えてなさいよ。私が毎日着けていたのはヒロからの初めてのプレゼントだったから。まあ、縁日で買ってもらった安物だったけど」
「え?………え?」
「ヒロからブレスレット貰うのは二回目だと言っております。一回目のはゴメン。#b#あの時#/b#壊れちゃったんだ… だから、すごく…嬉しいよ」
「そう、だったんだ。…うん、喜んで貰えたのならこっちも嬉しいよ。あとこのブレスレットにはもう一つ意味があるんだ」
「ん?なに?」
「右手首だと抜けちゃうから、左手首にしか着けれない。でも左手首だと着けるのも外すのもサヨ姉一人じゃ絶対に無理なんだ」
「………ホンマや!?」
「これからは俺がブレスレットを着けてあげる。ブレスレットだけじゃない、俺はこれからずっとサヨ姉のそばにいて、サヨ姉を支えたいんだ。ようやくサヨ姉を支えられるだけの力を手に入れることができたから」
「…それってプロポーズってこと?」
「いやっ………じゃない、うん、プロポーズだ。サヨ姉、俺と結婚してください!」
「私達は義理とはいえ姉弟なんだよ? そんなの無理に決まってるじゃない。 ちゃんとわかって言ってるの? でも超うれしい。結婚式はどこがいいかな?海外もいいね!」
「どっち!?」
「フフッ、でも本当に私達が結ばれるには色んな障害が出てくるね。ヒロが何とかしてくれるの?」
「おうとも! 世界中を全て敵に回してもサヨ姉を守って見せる!」
「その台詞はダセぇ! …でも嬉しいよヒロ」
「俺と結婚してくれますか?」
「ホントに…しかた、ないんだから…ヒロはぁ…」
今までふざけながら何とか我慢していた涙腺が決壊してしまった。
私は自然とヒロの胸に吸い込まれた。
生意気にもちょうど私の顔の位置にヒロの胸板がある。
私はそこに顔をうずめ、さらにワガママを重ねる。
「私、もっとオシャレしたい、ヒロが着せてくれる?」
「うん、俺もファッション勉強するよ。サヨ姉をカッコ可愛い女にするのだ」
「あんまり、料理のレパートリー多くないよ?」
「サヨ姉のカレーがあれば、半年続いても楽勝」
「一年続いたら?」
「カレーうどんにアレンジして食う」
「ハハッ、合格だ。ヒロ…結婚、しよ?」
一年後…
昼下がりの公園。
散歩をしているカップル。
彼女は右手首から先が無い。
しかし、全然悲壮な感じはしない。
むしろ、この公園の中で一番幸せそうだ。
左手首には銀色のブレスレット。
お揃いの指輪が薬指にはまっている。
その手を強く握っている男の顔も、
彼女の次に幸せそうな顔をしている。
義姉のサヨの口癖である。
あの頃の俺は思い出すだけでも恥ずかしい… サヨ姉に甘えっぱなしだった。
何をするにも姉と一緒。泳げない俺をスパルタで泳げるようにし、夏休みの宿題は半分以上サヨ姉がやってくれた。お風呂も…いや、流石に小学校卒業とともに一緒に風呂に入るのは卒業したよ? ん?それでも遅いって?
兎にも角にも、当時の俺は重度のシスコンでサヨ姉に頼りっぱなしで育っていった。
#b#あの日#/b#がくるまでは。
#b#あの日#/b#は忘れもしない…ヒロが中学2年生、私が成人したばかりの時だった。
その当時のヒロはなんだか子供から大人に変わる途中っていうか、ちょっと胸板も厚くなってきて、あの可愛らしい甲高い声から男っぽい声に変わって、生意気に身長も私より大きくなっちゃって、以前の可愛らしいヒロもすごく良かったんだけど、こっちはこっちでなかなか…
って、話がそれっちゃったね。私ってば重度のブラコンで、弟の話になるとつい…
そうそう、二階の部屋でヒロがちっちゃい時の写真を眺めてウットリしてる時だった。
下の居間から今眺めてる写真のヒロからは想像もできない怒鳴り声が聞こえてきたの。
急いで下に駆けつけてみると、ヒロがお父さんに食ってかかっていた。
どうやらヒロは自分が貰われっ子だということを何かで知ったらしい。
お父さんを跳ね除け、振り返った時に私と目があった。
ヒロは一瞬戸惑いの表情を浮かべたけど、すぐに目を逸らして家を飛び出して行ってしまった。
「私、追っかけてくる!」
私は両親にそう告げて、ヒロを追っかけるために家を飛び出しんだ。
俺はこの家の実の子供ではないと知って親父に問い詰めた時、悲しい気持ちもあったが、実は嬉しい気持ちもあったんだ。
サヨ姉が実の姉ではない…
その事実が持つある可能性に俺は希望を見出してしまった。
そして、今俺がこの家を飛び出せば、サヨ姉が追っかけてくれるだろうと浅はかで愚かしい考えも浮かんだ。
親父を跳ね除け、振り返り、そのサヨ姉と目があった時、全てを見透かされたような気がした。
俺は羞恥で顔が赤く染まっていくのを感じ、すぐに目を逸らした。
先ほどの愚かな打算も吹っ飛んで、俺は靴も履かずに飛び出した。
すぐにサヨ姉が追っかけてきた。
俺はなんだか合わせる顔がなくて、どこまでも走って逃げた。
サヨ姉はどこまでも追っかけてきた。信号が赤に変わっているのに…
気付けば私は宙に浮いていた。
全てがスローモーション。
驚いているヒロの顔も視認できる。
地面がゆっくり近づいていき、そこで
私の意識は途切れた。
サヨ姉は奇跡的に無事だった。しかし失ったものが一つ。
#red#彼女の右手。#/red#
車に撥ね飛ばされ着地の際に、側溝に右手が引っ掛かり、そのまま千切れてしまった。
その右手もグシャグシャになってしまい、再生治療は不可能だった。
サヨ姉は右手首から先を失ってしまったのだ。愚かな俺の行動のせいで。
俺は自分を呪い、恥じ、責めた。
サヨ姉が入院中、学校にも行かずに自室に引きこもり、3日経った時に鍵が掛かっているドアが蹴破られた。
#b#鬼の形相の親父#/b#だった。
有無を言わさずぶん殴られる。
「いきなり何すんだっ!!」
「お前が今やるべきことはなんだ!? ここで不貞腐れていることか?サヨが帰ってきて今のお前を見てどう思う?お前が今優先すべきことを考えろッ!!」
「・・・」
そう、俺の優先すべきことはサヨ姉だ。俺が引きこもることで事態は何一つ好転しない。
「俺、殴られたの、生まれて初めてだ…」
「俺はお前の父親、だからな」
「・・・」
「…どした?」
「いや…殴られたところが超痛てぇ…」
そう言って俺は親父の胸に顔を埋めた。サヨ姉が入院中でホントに良かったと思った。
ううむ、やってしまった。右手までなくしたのに、傷ついて出て行ったヒロを抱きしめてあげられなかったとは…
しかも#b#アレ#/b#もなくしちゃうし…
利き手がなくなるとオシャレがめんどくさい。
着る服は簡単なものだけで、化粧もあっさりメイクになっちゃった。
そ・れ・に・し・て・も・だ。退院してからヒロが冷たい。
右手を失くして不自由なお姉ちゃんにかまってくれない!
あれだけおねぇちゃ〜ん、おねぇちゃ〜んって甘えていたヒロが一体どうしてこうなったのだ?
俺はガムシャラに勉強した。
クラスで中の下だった俺の成績は、学年3位にまで上がった。
地元の高校へ進学してからは三年間、学年1位の座を譲らなかった。
そして当時は試験を受けることさえも想像していなかった県外の難関大学に合格した。
「右手を無くして不自由な私をおいて行くのね、ヨヨヨ…」
「もう左手だけでなんでもできんじゃん。大学出たらこっちに戻ってくるからさ」
「チッ、4年間長え、まじ長え、まじパねえ」
「…月に一回は戻ります」
私とヒロとの別れは意外とあっさりしたものだった。
私はヒロの負担にならないようにと快く彼を送り出したのでした。
4年後…
地元で大手の会社に就職した俺は、ある決心をしていた。
プロポーズ、である。
決行はサヨ姉の誕生日。プレゼントは指輪ではなく…
「ブレスレット?」
「うん、今付けてあげる」
俺はサヨ姉の#b#左手首#/b#にブレスレットを着けてあげた。
「昔の記憶だとサヨ姉はいっつもブレスレット着けてたイメージがあるんだ。だから社会人になって初めてのプレゼントはブレスレットにしようって決めてたんだ」
「私、別にブレスレット好きだったわけじゃないよ?」
「…え?マジ?俺なんかやらかしちゃったっぽい?」
「でもヒロの記憶は間違いではない。ていうかちゃんと覚えてなさいよ。私が毎日着けていたのはヒロからの初めてのプレゼントだったから。まあ、縁日で買ってもらった安物だったけど」
「え?………え?」
「ヒロからブレスレット貰うのは二回目だと言っております。一回目のはゴメン。#b#あの時#/b#壊れちゃったんだ… だから、すごく…嬉しいよ」
「そう、だったんだ。…うん、喜んで貰えたのならこっちも嬉しいよ。あとこのブレスレットにはもう一つ意味があるんだ」
「ん?なに?」
「右手首だと抜けちゃうから、左手首にしか着けれない。でも左手首だと着けるのも外すのもサヨ姉一人じゃ絶対に無理なんだ」
「………ホンマや!?」
「これからは俺がブレスレットを着けてあげる。ブレスレットだけじゃない、俺はこれからずっとサヨ姉のそばにいて、サヨ姉を支えたいんだ。ようやくサヨ姉を支えられるだけの力を手に入れることができたから」
「…それってプロポーズってこと?」
「いやっ………じゃない、うん、プロポーズだ。サヨ姉、俺と結婚してください!」
「私達は義理とはいえ姉弟なんだよ? そんなの無理に決まってるじゃない。 ちゃんとわかって言ってるの? でも超うれしい。結婚式はどこがいいかな?海外もいいね!」
「どっち!?」
「フフッ、でも本当に私達が結ばれるには色んな障害が出てくるね。ヒロが何とかしてくれるの?」
「おうとも! 世界中を全て敵に回してもサヨ姉を守って見せる!」
「その台詞はダセぇ! …でも嬉しいよヒロ」
「俺と結婚してくれますか?」
「ホントに…しかた、ないんだから…ヒロはぁ…」
今までふざけながら何とか我慢していた涙腺が決壊してしまった。
私は自然とヒロの胸に吸い込まれた。
生意気にもちょうど私の顔の位置にヒロの胸板がある。
私はそこに顔をうずめ、さらにワガママを重ねる。
「私、もっとオシャレしたい、ヒロが着せてくれる?」
「うん、俺もファッション勉強するよ。サヨ姉をカッコ可愛い女にするのだ」
「あんまり、料理のレパートリー多くないよ?」
「サヨ姉のカレーがあれば、半年続いても楽勝」
「一年続いたら?」
「カレーうどんにアレンジして食う」
「ハハッ、合格だ。ヒロ…結婚、しよ?」
一年後…
昼下がりの公園。
散歩をしているカップル。
彼女は右手首から先が無い。
しかし、全然悲壮な感じはしない。
むしろ、この公園の中で一番幸せそうだ。
左手首には銀色のブレスレット。
お揃いの指輪が薬指にはまっている。
その手を強く握っている男の顔も、
彼女の次に幸せそうな顔をしている。