「カフェ・ラテ3~注文の少ない喫茶店~」「1ブックマーク」
注文された品を、客のところへ持っていくと、突然その客は怒りだした。
私は確かに注文通りの品を持って行った筈だ。
なのに何故。
私は確かに注文通りの品を持って行った筈だ。
なのに何故。
11年05月14日 14:17
【ウミガメのスープ】 [アイゼン]
【ウミガメのスープ】 [アイゼン]
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「ナポリタンを一つ」
とあるお客様が、私にそう言いました。
私は早速、スパゲッティ・ナポリタンを作り、お客様のところへ持って行きました。
この喫茶店で食事を召し上がるなんて珍しいな、と調理中に思いましたが、まあ一見様なのでそうなるでしょうね。
お客様のテーブルにナポリタンを置いた時、それを見たお客様が私に言いました。
「頼んだものと違うじゃないか!」
私は首を傾げました。
確かにナポリタンを頼まれた筈なのに、それをちゃんと持ってきたのに何故注文と違うのか。
「これがナポリタンですが……」私がお客様にそう言ったところ、お客様はこう仰いました。
「俺が頼んだナポリタンは、ナポリタンアイスのことなんだけど」
ナポリタンアイス。バニラ、苺、チョコの三色アイスのことだと、後で知りました。
どうやらお客様も、メニューに書かれていた「ナポリタン」を勘違いしたようです。
その後、ちゃんとメニューは「スパゲッティ・ナポリタン」と「ナポリタンアイス」と書き直しました。
「ナポリタンを一つ」
今ではそのお客様も常連様。
私はすぐに、ナポリタンアイスを運びました。
すると、お客様はちょっと苦笑いして、
「今日はスパゲッティの方が食べたかったんだけどなぁ」
と、仰いました。
とあるお客様が、私にそう言いました。
私は早速、スパゲッティ・ナポリタンを作り、お客様のところへ持って行きました。
この喫茶店で食事を召し上がるなんて珍しいな、と調理中に思いましたが、まあ一見様なのでそうなるでしょうね。
お客様のテーブルにナポリタンを置いた時、それを見たお客様が私に言いました。
「頼んだものと違うじゃないか!」
私は首を傾げました。
確かにナポリタンを頼まれた筈なのに、それをちゃんと持ってきたのに何故注文と違うのか。
「これがナポリタンですが……」私がお客様にそう言ったところ、お客様はこう仰いました。
「俺が頼んだナポリタンは、ナポリタンアイスのことなんだけど」
ナポリタンアイス。バニラ、苺、チョコの三色アイスのことだと、後で知りました。
どうやらお客様も、メニューに書かれていた「ナポリタン」を勘違いしたようです。
その後、ちゃんとメニューは「スパゲッティ・ナポリタン」と「ナポリタンアイス」と書き直しました。
「ナポリタンを一つ」
今ではそのお客様も常連様。
私はすぐに、ナポリタンアイスを運びました。
すると、お客様はちょっと苦笑いして、
「今日はスパゲッティの方が食べたかったんだけどなぁ」
と、仰いました。
「【ラテクエ錠】タンゴ」「1ブックマーク」
娘と一緒に晩御飯を食べていた。
食べ終わった後、娘はいきなり泣き出した。
何があったのだろうか。
食べ終わった後、娘はいきなり泣き出した。
何があったのだろうか。
11年04月30日 23:42
【ウミガメのスープ】 [アイゼン]
【ウミガメのスープ】 [アイゼン]
解説を見る
「ど、どうしたの? お魚さんの骨が喉に刺さったの?」
今日の晩御飯は焼き魚と味噌汁とご飯。一般的な日本の食卓だ。
パパは帰ってくるのが遅く、私と娘の二人だけの、けれど楽しい食卓。
だった筈なのに、晩御飯を食べ終わると、娘はいきなり泣き出した。
心配になって、魚の骨が喉に刺さったのか、と訊いたら、彼女は首を横に振った。
「ちがうの。あのね、あのねママ」
娘はしゃくり上げながら、ゆっくりと喋り出した。
どうやら昼、友達と遊んでいた時に、一匹の魚で喧嘩していた猫を見かけたらしい。
だから、自分は争わずに食べちゃってよかったのか、と小さいながらも罪の意識に苛まれたらしい。
それを母に話すと、母は笑って、「あんたも同じような事あったじゃない」と言った。
晩御飯で泣いた記憶なんてなかったから、私はどういうことかと訊いた。
「あんた、あんなに泣いてたのに忘れたの?」母はまた笑って、話し始めた。
私が、私の娘ぐらいの年齢だった頃、近所の黒猫と仲が良かったらしい。
元々私が生まれる前から近所にいて、母もよく餌付けをしていたせいか、黒猫も私たち一家に懐いていた。
母は、その猫はまるで私のお兄さんというか、私を守る騎士のようだったと言った。
私が近くをよちよちと散歩する時は、いつも付き添っていたらしい。
私もその黒猫が大好きで、「わたしのこいびとなのよ!」とよく自慢げに母に話していたという。
「黒猫のタンゴか」と思ったわ、と笑いながら言う母の声が受話器を通して聞こえた。
うーん……思い出せそうで思い出せない……
ある日、小さな私は、野良猫に襲われた。
それを助けてくれたのが、その黒猫だった。
二匹の戦う鳴き声は結構遠くまで響いたらしく、近所の人たちみんなが外に出た。
人間たちが大勢来たからか、その野良猫は退散した。
そこまで聞いた時、私の記憶の鍵が外れる音が聞こえた気がした。
けたたましい猫の鳴き声。夕暮れ時の赤い陽光。
そしてアスファルトに広がる……
「もういいよお母さん……もういい。思い出しちゃった……」
黒猫は、冷たいアスファルトに横たわり、弱く息をしていた。
腹から流れ出た大量の血に、私は何も言えなくなったのだ。
怖くて、野良猫のことが、黒猫が死ぬことが、怖くて怖くて、何も言葉が出てこなかった。
黒猫が死ぬまで、時間はそうかからなかった。
その日の晩御飯は焼き魚。黒猫が好きだった魚を見て、その死の瞬間を思い出したのか、私はずっと泣き続けていたらしい。
目の前で初恋の相手を喪った。そのショックから、私は無意識のうちにこの記憶に鍵をかけていたようだ。
涙が、膝の上に落ちた。ズボンに転々とできるシミは、数を増していく。
どこに埋めたかな。お墓参りして、そして忘れててごめんって謝らなきゃ。
そう思った時、母が突然思い出したように口を開いた。
「そうだ、ねえ、あの黒猫に名前つけてたじゃない? シュヴァルツって」
「ああうん……そういえばそうだったね」
「いやぁ……あんたがさ、それをシュヴァちゃん、シュヴァちゃん呼ぶのは流石に止めてほしかったわ。笑い堪えるのに必死だったから。それじゃあシュヴァルツネッガーじゃないかって(笑)」
私は、母のあまりの空気の読めなさに絶句した。
今日の晩御飯は焼き魚と味噌汁とご飯。一般的な日本の食卓だ。
パパは帰ってくるのが遅く、私と娘の二人だけの、けれど楽しい食卓。
だった筈なのに、晩御飯を食べ終わると、娘はいきなり泣き出した。
心配になって、魚の骨が喉に刺さったのか、と訊いたら、彼女は首を横に振った。
「ちがうの。あのね、あのねママ」
娘はしゃくり上げながら、ゆっくりと喋り出した。
どうやら昼、友達と遊んでいた時に、一匹の魚で喧嘩していた猫を見かけたらしい。
だから、自分は争わずに食べちゃってよかったのか、と小さいながらも罪の意識に苛まれたらしい。
それを母に話すと、母は笑って、「あんたも同じような事あったじゃない」と言った。
晩御飯で泣いた記憶なんてなかったから、私はどういうことかと訊いた。
「あんた、あんなに泣いてたのに忘れたの?」母はまた笑って、話し始めた。
私が、私の娘ぐらいの年齢だった頃、近所の黒猫と仲が良かったらしい。
元々私が生まれる前から近所にいて、母もよく餌付けをしていたせいか、黒猫も私たち一家に懐いていた。
母は、その猫はまるで私のお兄さんというか、私を守る騎士のようだったと言った。
私が近くをよちよちと散歩する時は、いつも付き添っていたらしい。
私もその黒猫が大好きで、「わたしのこいびとなのよ!」とよく自慢げに母に話していたという。
「黒猫のタンゴか」と思ったわ、と笑いながら言う母の声が受話器を通して聞こえた。
うーん……思い出せそうで思い出せない……
ある日、小さな私は、野良猫に襲われた。
それを助けてくれたのが、その黒猫だった。
二匹の戦う鳴き声は結構遠くまで響いたらしく、近所の人たちみんなが外に出た。
人間たちが大勢来たからか、その野良猫は退散した。
そこまで聞いた時、私の記憶の鍵が外れる音が聞こえた気がした。
けたたましい猫の鳴き声。夕暮れ時の赤い陽光。
そしてアスファルトに広がる……
「もういいよお母さん……もういい。思い出しちゃった……」
黒猫は、冷たいアスファルトに横たわり、弱く息をしていた。
腹から流れ出た大量の血に、私は何も言えなくなったのだ。
怖くて、野良猫のことが、黒猫が死ぬことが、怖くて怖くて、何も言葉が出てこなかった。
黒猫が死ぬまで、時間はそうかからなかった。
その日の晩御飯は焼き魚。黒猫が好きだった魚を見て、その死の瞬間を思い出したのか、私はずっと泣き続けていたらしい。
目の前で初恋の相手を喪った。そのショックから、私は無意識のうちにこの記憶に鍵をかけていたようだ。
涙が、膝の上に落ちた。ズボンに転々とできるシミは、数を増していく。
どこに埋めたかな。お墓参りして、そして忘れててごめんって謝らなきゃ。
そう思った時、母が突然思い出したように口を開いた。
「そうだ、ねえ、あの黒猫に名前つけてたじゃない? シュヴァルツって」
「ああうん……そういえばそうだったね」
「いやぁ……あんたがさ、それをシュヴァちゃん、シュヴァちゃん呼ぶのは流石に止めてほしかったわ。笑い堪えるのに必死だったから。それじゃあシュヴァルツネッガーじゃないかって(笑)」
私は、母のあまりの空気の読めなさに絶句した。
「Lilie」「1ブックマーク」
勇敢な女性がいた。
彼女はずっと、見知らぬ人からの電話に悩まされていた。
電話に出ても中々相手は喋ろうとしない。
悪質な悪戯だと思い、彼女はキツい口調で、迷惑だと言い電話を切った。
それ以降、電話はかかってくることがなかったが、彼女は大変後悔した。
何故彼女は後悔したのだろうか。
彼女はずっと、見知らぬ人からの電話に悩まされていた。
電話に出ても中々相手は喋ろうとしない。
悪質な悪戯だと思い、彼女はキツい口調で、迷惑だと言い電話を切った。
それ以降、電話はかかってくることがなかったが、彼女は大変後悔した。
何故彼女は後悔したのだろうか。
11年04月23日 23:18
【ウミガメのスープ】 [アイゼン]
【ウミガメのスープ】 [アイゼン]
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間違い電話が止んだ数週間後、彼女は信じられない知らせを受けた。
一番仲の良かった、大好きだった幼馴染が死んだらしい。会社での虐めを苦にした自殺だそうだ。
信じられないという気持ちのまま、彼女は幼馴染の葬式に行った。
葬式は数人の親族と、彼女だけの非常にささやかなもので、より寂しさを感じられた。
葬式の後、彼女は幼馴染の母親から、「遺書に渡すように書いてあったから」と缶の箱を手渡された。
幼馴染が大切にしていたものが詰まっているものらしい。彼女は複雑な気持ちながら、幼馴染の遺志なら、とそれを受け取った。
家に帰り、蓋を開けると、一番上に手紙が置いてあった。
彼女は手紙の封を開け、中の手紙を読むと、息を呑んだ。
「ごめんね」で始まり、「ごめんね」で終わる手紙。幼い頃の思い出から、今に至るまでの経緯、思いが書き綴られた手紙。
ぽたり、ぽたりと落ちる涙が、便箋のインクを滲ませた。
「私、ちょっと頼り過ぎてたみたい。ごめんね、迷惑だったよね。言ってくれてありがとう」
この一文を読み、彼女は全てを悟った。あの電話は幼馴染からの電話だったのだと。
彼女は、幼馴染に頼られる事が嬉しかった。あの子の為なら何でもしてあげられると思っていた。
なのに、あの子の願いを断ち切ってしまった。大好きな、愛していたあの子を死に追いやったのは私だ!
手紙を握り締めたまま、彼女は崩れ落ちた。自責の念に押し潰されそうだった。
溢れ出る涙は、枯れることなく流れ続ける。止まらない、止められない。
「ごめんね」を連呼しながら、泣き崩れる彼女の脳裏には、百合のように白い肌の、柩の中で眠る幼馴染の姿があった。
一番仲の良かった、大好きだった幼馴染が死んだらしい。会社での虐めを苦にした自殺だそうだ。
信じられないという気持ちのまま、彼女は幼馴染の葬式に行った。
葬式は数人の親族と、彼女だけの非常にささやかなもので、より寂しさを感じられた。
葬式の後、彼女は幼馴染の母親から、「遺書に渡すように書いてあったから」と缶の箱を手渡された。
幼馴染が大切にしていたものが詰まっているものらしい。彼女は複雑な気持ちながら、幼馴染の遺志なら、とそれを受け取った。
家に帰り、蓋を開けると、一番上に手紙が置いてあった。
彼女は手紙の封を開け、中の手紙を読むと、息を呑んだ。
「ごめんね」で始まり、「ごめんね」で終わる手紙。幼い頃の思い出から、今に至るまでの経緯、思いが書き綴られた手紙。
ぽたり、ぽたりと落ちる涙が、便箋のインクを滲ませた。
「私、ちょっと頼り過ぎてたみたい。ごめんね、迷惑だったよね。言ってくれてありがとう」
この一文を読み、彼女は全てを悟った。あの電話は幼馴染からの電話だったのだと。
彼女は、幼馴染に頼られる事が嬉しかった。あの子の為なら何でもしてあげられると思っていた。
なのに、あの子の願いを断ち切ってしまった。大好きな、愛していたあの子を死に追いやったのは私だ!
手紙を握り締めたまま、彼女は崩れ落ちた。自責の念に押し潰されそうだった。
溢れ出る涙は、枯れることなく流れ続ける。止まらない、止められない。
「ごめんね」を連呼しながら、泣き崩れる彼女の脳裏には、百合のように白い肌の、柩の中で眠る幼馴染の姿があった。
「黒猫は泣いた」「1ブックマーク」
女は、友達が沢山いて、幸せだった
しかし彼女の最期は不幸だった
彼女は何者かに殺された。愛する人と共に
犯人はそこにいたが、誰にも見つからず、とうとう罪を問われる事はなかった
状況を補完して下さい
あっさり系スープです。瞬殺歓迎!
しかし彼女の最期は不幸だった
彼女は何者かに殺された。愛する人と共に
犯人はそこにいたが、誰にも見つからず、とうとう罪を問われる事はなかった
状況を補完して下さい
あっさり系スープです。瞬殺歓迎!
11年04月04日 19:52
【ウミガメのスープ】 [アイゼン]
【ウミガメのスープ】 [アイゼン]
解説を見る
とあるところに、一人の可愛らしい女の子がいた。
彼女には友達が沢山いた。友達といっても、彼女は引っ込み思案で、人間の友達はいない。
彼女の友達は、彼女の部屋に沢山置かれたぬいぐるみだった。
中でも、一番の親友は黒猫のぬいぐるみだった。青と緑の綺麗な目の黒猫は、女の子にとても愛された。
だから奇跡が起きたのだろう。いつの日からか、黒猫は彼女と会話するようになった。
女の子には両親はいない。彼女が小さい頃、死んでしまったのだ。ぬいぐるみは、彼女の本当の両親が買ってくれたものだ。黒猫の目も、元々は両方とも青だったのだが、片方が取れ、失ってしまったものを、母親が緑で代用して、縫い付けた。もしかしたら、彼女が黒猫のぬいぐるみを愛したのは、その緑の目に母親の姿を見ていたからかもしれない。
両親が死んでから、女の子は親戚の夫婦の家に引き取られた。が、その夫婦は自分のストレスを、女の子で発散する為に、彼女を引き取った。
引き取られてから毎日、彼女は虐待を受け続けた。一日の中で彼女が安らげる時間といえば、自分の部屋として割り当てられた物置で、黒猫と話している時間だけだった。
ぬいぐるみだけが友達。そんな女の子にとって、友達に囲まれている時間は、幸せの絶頂であった。
だが、女の子は死んだ。一人で死んだ。言うまでもなく、虐待で死んだのだ。
夫婦は、彼女を殺したのを隠すため、ぬいぐるみと一緒に女の子を燃やした。
パトカーのサイレン音。どうやら、この家で殺人事件が起こったらしい。
被害者はこの家に住んでいた夫婦。死体は、寄り添うようだったと聞いた。
一人で死んだのに! あの子は一人で寂しく死んだのに!! 犯人は腹立たしげに叫んだ。
死体の傍らには、凶器のナイフと、手帳から引き千切られたと見られる紙きれが落ちていた。
紙切れにはこう書かれていたらしい。
1/2 11:12
わあわあ泣くだけで、コミュニケーションも取れやしない
たいへんなんだろうけど可愛いと思わない事もないんだ
しぜんに、懐かなくてもただ傍にいてくれるだけでいいかな
ハンバーグが、あの子のだいこうぶつだったな。作ってあげよう
この紙切れから、夫婦が女の子を愛している事が分かった。
全く、馬鹿な奴だよ。と犯人が笑っても、警察は気付かなかった。
犯人は頬に夫婦の血を付けたまま、愚かな人々をじっと見ていた。
あれから十五年。
取り壊しを待つあの家の物置に、焦げた黒猫のぬいぐるみが落ちていた。
ぬいぐるみに付いた血のシミは、まるで泣いているようだった。
彼女には友達が沢山いた。友達といっても、彼女は引っ込み思案で、人間の友達はいない。
彼女の友達は、彼女の部屋に沢山置かれたぬいぐるみだった。
中でも、一番の親友は黒猫のぬいぐるみだった。青と緑の綺麗な目の黒猫は、女の子にとても愛された。
だから奇跡が起きたのだろう。いつの日からか、黒猫は彼女と会話するようになった。
女の子には両親はいない。彼女が小さい頃、死んでしまったのだ。ぬいぐるみは、彼女の本当の両親が買ってくれたものだ。黒猫の目も、元々は両方とも青だったのだが、片方が取れ、失ってしまったものを、母親が緑で代用して、縫い付けた。もしかしたら、彼女が黒猫のぬいぐるみを愛したのは、その緑の目に母親の姿を見ていたからかもしれない。
両親が死んでから、女の子は親戚の夫婦の家に引き取られた。が、その夫婦は自分のストレスを、女の子で発散する為に、彼女を引き取った。
引き取られてから毎日、彼女は虐待を受け続けた。一日の中で彼女が安らげる時間といえば、自分の部屋として割り当てられた物置で、黒猫と話している時間だけだった。
ぬいぐるみだけが友達。そんな女の子にとって、友達に囲まれている時間は、幸せの絶頂であった。
だが、女の子は死んだ。一人で死んだ。言うまでもなく、虐待で死んだのだ。
夫婦は、彼女を殺したのを隠すため、ぬいぐるみと一緒に女の子を燃やした。
パトカーのサイレン音。どうやら、この家で殺人事件が起こったらしい。
被害者はこの家に住んでいた夫婦。死体は、寄り添うようだったと聞いた。
一人で死んだのに! あの子は一人で寂しく死んだのに!! 犯人は腹立たしげに叫んだ。
死体の傍らには、凶器のナイフと、手帳から引き千切られたと見られる紙きれが落ちていた。
紙切れにはこう書かれていたらしい。
1/2 11:12
わあわあ泣くだけで、コミュニケーションも取れやしない
たいへんなんだろうけど可愛いと思わない事もないんだ
しぜんに、懐かなくてもただ傍にいてくれるだけでいいかな
ハンバーグが、あの子のだいこうぶつだったな。作ってあげよう
この紙切れから、夫婦が女の子を愛している事が分かった。
全く、馬鹿な奴だよ。と犯人が笑っても、警察は気付かなかった。
犯人は頬に夫婦の血を付けたまま、愚かな人々をじっと見ていた。
あれから十五年。
取り壊しを待つあの家の物置に、焦げた黒猫のぬいぐるみが落ちていた。
ぬいぐるみに付いた血のシミは、まるで泣いているようだった。
「【ラテクエ5】薄紅の誓い」「1ブックマーク」
桜の木の下に制服のあの人がいた。
私を見ると、その人は謝まりだした。
なぜ?
嘘はなしです
私を見ると、その人は謝まりだした。
なぜ?
嘘はなしです
11年04月03日 23:07
【ウミガメのスープ】 [アイゼン]
【ウミガメのスープ】 [アイゼン]
解説を見る
ぽかぽかとした陽気に誘われ、私は瞼を開いた。
周囲を見渡す。しまった、私が一番出遅れてしまった。
去年は一段と寒い冬だったもんなぁ……と私は思いながら、風に枝を揺らす。
土手を彩る桜の樹の一つである私は、ずっと待っている人がいた。
今年は、ちゃんと来るかしら。
4月。風に漂ってきた桜の花びらに誘われて、あたしはいつもとは違う道を通り、学校へ向かっていた。
土手の両脇に、一定の間隔で並ぶ桜。その中に、何かを探しているような、あの人の姿を見つけた。
彼は、一本の、他のとは少し小さい桜の樹の下に立ち止まると、突然その樹に向かって頭を下げた。どうやら、謝っているようだ。
「悠、何やってるの?」
「えっ……ああ、ちょっとな」
話しかけられて、初めてあたしに気付いたのか、彼はちょっと戸惑った様子を見せる。
昔から、一つの事に集中すると周りが見えなくなるんだから。
「桜に謝ってたんでしょ?」
「そうだよ。ちょっと、忘れちゃってて」
「何?」
「こいつとの約束」
約束? ああ、そんなこともあったね。
彼がまだ小さく、私がまだ苗木からちょっと成長したぐらいの時、彼は泣きながらこの道を通っていた。
「ねえ、こわくないの?」
その時、偶然私を見つけた彼が、私にそう問いかけた。
「おおきなきにかこまれて、きみはこわくないの?」
「ぼくはみんなよりもちっちゃいから、みんながこわいんだ」
いじめられている、というわけではなさそうだ。
自分よりも、周囲の子が大きいから、怖くて話しかけられない。それで友達ができない、といったところか。
『怖くないよ。だってみんな友達だから』
私はそう答えた。きっと、聞こえないだろうけど。
しかし、彼はキョトンとして、首を傾げた。
「ともだち? みんな、ぼくなんかとともだちになってくれるかなぁ」
子供とは不思議なものだ。大人はアニミズムという言葉で片付けるが、子供の中には私たちの声を聞く事ができる子もいる。
『大丈夫さ。きっとみんな優しいから』
私がそう言って、枝を震わすと、彼は大きく頷いた。
「わかった! ぼくにともだちができたら、いちばんにきみにいうね!」
彼は笑顔でそう言って、私に手を振って、歩いて行った。
「そんなことがねぇ。あたし、全然知らなかったな」
「そりゃそうだよ。お前に会うずっと前だから」
「でも信じられないな」
あたしは桜を見上げた。
青い空をバックに、薄紅色の花が揺れる。
桜の樹が喋るなんて、やっぱり信じられないな。
「夢でも見たんじゃないの?」
「そうかもしれないけど、やっぱり、今の俺があるのはこいつのお陰なんだ」
『立派になったね』『あんなおチビさんがこんなに大きくなって』『可愛いガールフレンドもできちゃって』
周りの樹が、さわさわと揺れながら、そんな話をしている。確かに、立派になったね。
約束を守らなくても、思い出してくれただけでいい。
『おめでとう』
私はそう呟いて、彼の頭に花弁を一つ落とした。
聞こえたのか聞こえなかったのか、彼はこちらを見て、「ありがとう」と言った気がした。
周囲を見渡す。しまった、私が一番出遅れてしまった。
去年は一段と寒い冬だったもんなぁ……と私は思いながら、風に枝を揺らす。
土手を彩る桜の樹の一つである私は、ずっと待っている人がいた。
今年は、ちゃんと来るかしら。
4月。風に漂ってきた桜の花びらに誘われて、あたしはいつもとは違う道を通り、学校へ向かっていた。
土手の両脇に、一定の間隔で並ぶ桜。その中に、何かを探しているような、あの人の姿を見つけた。
彼は、一本の、他のとは少し小さい桜の樹の下に立ち止まると、突然その樹に向かって頭を下げた。どうやら、謝っているようだ。
「悠、何やってるの?」
「えっ……ああ、ちょっとな」
話しかけられて、初めてあたしに気付いたのか、彼はちょっと戸惑った様子を見せる。
昔から、一つの事に集中すると周りが見えなくなるんだから。
「桜に謝ってたんでしょ?」
「そうだよ。ちょっと、忘れちゃってて」
「何?」
「こいつとの約束」
約束? ああ、そんなこともあったね。
彼がまだ小さく、私がまだ苗木からちょっと成長したぐらいの時、彼は泣きながらこの道を通っていた。
「ねえ、こわくないの?」
その時、偶然私を見つけた彼が、私にそう問いかけた。
「おおきなきにかこまれて、きみはこわくないの?」
「ぼくはみんなよりもちっちゃいから、みんながこわいんだ」
いじめられている、というわけではなさそうだ。
自分よりも、周囲の子が大きいから、怖くて話しかけられない。それで友達ができない、といったところか。
『怖くないよ。だってみんな友達だから』
私はそう答えた。きっと、聞こえないだろうけど。
しかし、彼はキョトンとして、首を傾げた。
「ともだち? みんな、ぼくなんかとともだちになってくれるかなぁ」
子供とは不思議なものだ。大人はアニミズムという言葉で片付けるが、子供の中には私たちの声を聞く事ができる子もいる。
『大丈夫さ。きっとみんな優しいから』
私がそう言って、枝を震わすと、彼は大きく頷いた。
「わかった! ぼくにともだちができたら、いちばんにきみにいうね!」
彼は笑顔でそう言って、私に手を振って、歩いて行った。
「そんなことがねぇ。あたし、全然知らなかったな」
「そりゃそうだよ。お前に会うずっと前だから」
「でも信じられないな」
あたしは桜を見上げた。
青い空をバックに、薄紅色の花が揺れる。
桜の樹が喋るなんて、やっぱり信じられないな。
「夢でも見たんじゃないの?」
「そうかもしれないけど、やっぱり、今の俺があるのはこいつのお陰なんだ」
『立派になったね』『あんなおチビさんがこんなに大きくなって』『可愛いガールフレンドもできちゃって』
周りの樹が、さわさわと揺れながら、そんな話をしている。確かに、立派になったね。
約束を守らなくても、思い出してくれただけでいい。
『おめでとう』
私はそう呟いて、彼の頭に花弁を一つ落とした。
聞こえたのか聞こえなかったのか、彼はこちらを見て、「ありがとう」と言った気がした。