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ウミガメのスープ 本家『ラテシン』 
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みんなのブックマーク

【ラテクエ5】薄紅の誓い「1ブックマーク」
桜の木の下に制服のあの人がいた。
私を見ると、その人は謝まりだした。
なぜ?

嘘はなしです
11年04月03日 23:07
【ウミガメのスープ】 [アイゼン]



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ぽかぽかとした陽気に誘われ、私は瞼を開いた。
周囲を見渡す。しまった、私が一番出遅れてしまった。
去年は一段と寒い冬だったもんなぁ……と私は思いながら、風に枝を揺らす。
土手を彩る桜の樹の一つである私は、ずっと待っている人がいた。
今年は、ちゃんと来るかしら。


4月。風に漂ってきた桜の花びらに誘われて、あたしはいつもとは違う道を通り、学校へ向かっていた。
土手の両脇に、一定の間隔で並ぶ桜。その中に、何かを探しているような、あの人の姿を見つけた。
彼は、一本の、他のとは少し小さい桜の樹の下に立ち止まると、突然その樹に向かって頭を下げた。どうやら、謝っているようだ。

「悠、何やってるの?」

「えっ……ああ、ちょっとな」

話しかけられて、初めてあたしに気付いたのか、彼はちょっと戸惑った様子を見せる。
昔から、一つの事に集中すると周りが見えなくなるんだから。

「桜に謝ってたんでしょ?」

「そうだよ。ちょっと、忘れちゃってて」

「何?」

「こいつとの約束」



約束? ああ、そんなこともあったね。
彼がまだ小さく、私がまだ苗木からちょっと成長したぐらいの時、彼は泣きながらこの道を通っていた。

「ねえ、こわくないの?」

その時、偶然私を見つけた彼が、私にそう問いかけた。

「おおきなきにかこまれて、きみはこわくないの?」
「ぼくはみんなよりもちっちゃいから、みんながこわいんだ」

いじめられている、というわけではなさそうだ。
自分よりも、周囲の子が大きいから、怖くて話しかけられない。それで友達ができない、といったところか。
『怖くないよ。だってみんな友達だから』
私はそう答えた。きっと、聞こえないだろうけど。
しかし、彼はキョトンとして、首を傾げた。

「ともだち? みんな、ぼくなんかとともだちになってくれるかなぁ」

子供とは不思議なものだ。大人はアニミズムという言葉で片付けるが、子供の中には私たちの声を聞く事ができる子もいる。
『大丈夫さ。きっとみんな優しいから』
私がそう言って、枝を震わすと、彼は大きく頷いた。

「わかった! ぼくにともだちができたら、いちばんにきみにいうね!」

彼は笑顔でそう言って、私に手を振って、歩いて行った。


「そんなことがねぇ。あたし、全然知らなかったな」

「そりゃそうだよ。お前に会うずっと前だから」

「でも信じられないな」

あたしは桜を見上げた。
青い空をバックに、薄紅色の花が揺れる。
桜の樹が喋るなんて、やっぱり信じられないな。

「夢でも見たんじゃないの?」

「そうかもしれないけど、やっぱり、今の俺があるのはこいつのお陰なんだ」


『立派になったね』『あんなおチビさんがこんなに大きくなって』『可愛いガールフレンドもできちゃって』
周りの樹が、さわさわと揺れながら、そんな話をしている。確かに、立派になったね。
約束を守らなくても、思い出してくれただけでいい。
『おめでとう』
私はそう呟いて、彼の頭に花弁を一つ落とした。
聞こえたのか聞こえなかったのか、彼はこちらを見て、「ありがとう」と言った気がした。
星々の夜へ「1ブックマーク」
僕は愛を知り、そして殺した
けれど、それは僕に大きな後悔を残す結末になってしまった
何故だろうか
11年03月31日 20:17
【ウミガメのスープ】 [アイゼン]



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僕は、退屈しのぎに夜の散歩に出かけた。空を見上げても、家の明かりが多すぎて星は見えない。
星とは程遠い、下品な明かりだ、と思った僕は、眉を顰めた。
視線を前に戻した僕は、前から女性が歩いてくるのに気付いた。女性はどこか寂しそうな表情をしていた。その表情の理由が知りたくて、僕は彼女に惹かれたのだろう。

その次の日、彼女のことが忘れられない僕は、頑張って昼間に外に出ることにした。太陽は嫌いなんだけどなぁ……
捜すのに苦労はしなかった。すぐに見つけられた彼女は、友達であろう人間たちと一緒に笑っていた。彼女の笑顔は、太陽のように明るかったが、太陽ほど嫌いではなかった。
しかし、昨夜のあの表情をしっている所為か、その笑顔も仮面のようにしか思えなかった。

彼女が寂しげにする理由はすぐに分かった。どうやら彼氏とやらに捨てられたらしい。恋愛なんて分からない。何故人間はそんな薄っぺらいものに振り回されるのだろうか。僕には彼女の気持ちなんて理解できなかったが、その彼氏とやらのことはどうにも許せなかった。
だから殺した。僕には簡単なことだった。ちょっと名簿を書き変えるぐらい、どうってことなかった。
しかし、彼女の寂しさは、悲しみに変わった。何で、何で何で何で。裏切られたんだ。もう愛する理由なんてないのに。人間って分からない。僕は頭を掻き毟った。
彼女を寂しがらせる男なんて死んでしまえばいいんだ。愛しきれない奴なんて近付くな。僕なら最期まで彼女を――

気付いた。これが「愛」だということを。本当にどうしようもない、悪魔のような、けれども天使のような感情。ああ、僕も振り回されてしまった。
そしてもう一つ気付いた事があった。しかし、もう、手遅れだったのだ。
気付くのが遅かった。もし気付ければ、こうにはならなかった。

だから、社長はあんなことを言ったのか。
「人間の愛を理解しようとしてはいけない」なんてこと。やっと分かったよ。
あまりの自分の愚かさに、僕は乾いた笑い声を漏らした。
その間にも、彼女は階段を上がっていき、屋上の扉を開ける。
「やめときなよ、そんなこと」「あの男にそんな価値なんてない」
僕はそう言ったが、彼女には聞こえない。触れる事もできない。視認される事もないのだから。

フェンスが揺れる音。夜風が彼女の綺麗な神を揺らす。
上には黒一色の夜空。下には煩い星が散りばめられた、人工の夜空。

僕は、とある愚かな死神は、「死」に愛された女性が星空へと堕ちていく様を、ただ唇を噛み締めて見つめるばかりだった。
イノセンスな殺人鬼「1ブックマーク」
大量殺人を犯す女がいた
人々は彼女の行為に感謝した
どういうことだろう
11年03月23日 22:44
【ウミガメのスープ】 [アイゼン]



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女は小説家だった。
彼女の手により、何組ものカップルが生まれ、何人もの人が死んでいった。
人々は女の書いた小説を読み、楽しむ。
中には、彼女の書いた小説により、人生を動かされた者もいただろう。


もしかすれば、人間というものは空想の中に生きているのかもしれない。
私も、貴方も、誰かの話の中の登場人物という可能性もある。
存在なんて、所詮曖昧なものなのだろう。

勿論、彼女に人を直接殺す度胸なんてない。
玄関からトントンとノックをされる音がした。ドアを開けると「Trick or Treat」と声がした。
私は次の日、その部屋から出て行った。
一体なぜだろう?
11年10月29日 21:33
【ウミガメのスープ】 [アイゼン]

ハートフルストーリー




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それは、何度目かに聞く小さなノック音だった。
私はいつもの通り、その音源、玄関の扉を開ける。

「Trick or Treat」

小さなノック音は止み、代わりに小さな声が聞こえた。
ハロウィンの常套句。しかし今日はハロウィンではない。
決まった時間ではないが、毎日一回はこんな不思議な現象が起こる。
最初は気味が悪かったが、出ていっても行く当てがないので、仕方なく住んでいるうちに慣れてしまった。
別に幽霊でも、毎日扉を開けないと声が聞こえないということは、部屋の中に入っていないわけだし。

「え? ノックの音?」
管理人さんは私の話を聞くと、首を傾げた。
その後、何かを思い出したように手をぽんっと打った。
「ああ、それね、多分幽霊だよ。そういえばあの子、ずっと部屋から出たがっていたみたいだったからねぇ」
「……部屋から?」
背筋に寒気が走った。そして記憶を手繰り寄せる。
毎日聞いていたハロウィンの常套句。それは、背後から聞こえてきた。
恐ろしくなった俺は、後先考えず契約を解除し、その部屋から飛び出した。


後で今の住所に来た管理人さんからの手紙によると、あの部屋には元々母子が住んでいたらしい。
その母親というのが酷いもので、どうやら育児放棄をしていたようだ。
数年前、出かけていったまま戻らない母親を待ち続け、その子供は死んでしまったようだ。
テレビで見て、この言葉を言ったら大人たちは優しくしてくれると思ったのだろうか。
「Trick or Treat」大人に会うたびに子供は、そう言った。それが、その子供なりのSOSだったのだ。
母親を待ち続けてる間、ずっと助けを求めるために玄関を叩いていたらしい。
そして玄関の扉が開いた時、その子はこう言うつもりだったのだろう。
「Trick or Treat」と。


手紙を読み終わった私は、あの部屋当てに小包を送った。
中身はカボチャのバスケットにチョコレート菓子が詰まったもの。
だって、Trick or Treatだろ?
此処まで悪戯されに来たらかなわないもんな。
悪戯好きな子供に頭を悩ませる女がいた。
女が子供を叱ることは日常茶飯事で、夫はいつもそんな彼女を宥めていた。

ある日、子供が女の大切なものを壊した。
女は激しく怒った。夫の言葉すら彼女の耳には届かなかった。
そして、女は死んだ。
何故
11年06月09日 00:18
【ウミガメのスープ】 [アイゼン]



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お母さんはいつも僕を怒る。
だから反抗して、もっと悪戯してやりたくなるんだ。
だって、どうせ僕は悪い子なんだから。もっともっと悪いことしてやるぞ!

ということで、僕はお母さんの化粧道具で遊んでいた。
この化粧水、お母さん毎日つけてるんだよなぁー
あっ、落としちゃった。あーあ


息子がまた悪戯したみたいだ。
私の寝室の方で、硝子が割れる音が聞こえた。
怪我はしていないか。心配になってそこへ行った。

床に散乱する硝子、よりもぶちまけられた液体に目がいった。
嘘だ。あれは私の化粧水じゃない。でも瓶が、あの瓶は――
どうして。何故何故何故!
あれは、あれは高かったのよ。とてもとてもとても! 高い高い高い高い高い高い高い……

「ああああああああああああああああああああああああああ!」
「何てことしてくれたのよ! これはすっごく高い化粧水なんだから! 何てことしてくれたの?
あんた一体何がしたいの! 毎日毎日毎日毎日私を怒らせて! 憎い? 自分をこの世に産み落とした私が憎いの?
じゃあ勝手に死ねばいいじゃない! 死ね! 私を巻き込むな! 私を不幸にすんな!
出ていけ! どこへでも行って野垂れ死んでしまえ! こんなことなら産まなければよかった!
お前なんか私の子供じゃない!」

「お、おいっ……お前、興奮するな!」

「出ていけ! 死ね! 殺してや」


僕は茫然としながら、激昂するお母さんを見ていた。
聞いていて、泣きたくなった。心がとても痛かった。
僕は愛されていなかったんだ。
「殺してやる」お母さんはきっとそう言おうとした。
でも、全部言う前に、お母さんは倒れてしまった。
動く気配がない。

「お母さん? どうしたの? 謝るから、ねえ、何だってするから。起きてよ……お母さん」

僕はお母さんにしがみついた。
あの時の、温かくあり、冷たくもあるお母さんの体温は、ずっと忘れる事ができないだろう。


妻が倒れた。息子が駆け寄った。
彼女が倒れた瞬間、私は彼女の死を覚った。
あれだけ注意したのに。
高血圧の彼女にとって、過ぎた興奮は死を意味していた。
だから私はずっと彼女に言い聞かせた。けど、彼女はそれでも息子を叱り続けた。
でないと、これから息子が苦労するだろうと。彼女なりの愛だったから、私は強くは言えなかった。

けど、これは違う。
さっきの彼女には、愛情なんてものは欠片もなかった。
ただの自己愛と、高価なものへの執着心。
私はのろのろとした動作で、119番へと電話をかけた。

彼女の堪忍袋の緒と同時に、頭の血管も切れてしまった。
けれど、それ以上に、彼女の家族への愛や絆が切れてしまった事が、何よりも悲しかった。