「まいわいふ・へびーらぶ・くれいじー」「1ブックマーク」
男は女に尽くした。
考えられる限り、全ての愛情を注いだ。
しかし女は素っ気なかった。
男は憤慨し、女に暴力を加えた。
しかしその結果、男は後悔した。
後日、男は人形を片手に笑っていた。
男は狂っていたのだ。
状況を補完してください。
考えられる限り、全ての愛情を注いだ。
しかし女は素っ気なかった。
男は憤慨し、女に暴力を加えた。
しかしその結果、男は後悔した。
後日、男は人形を片手に笑っていた。
男は狂っていたのだ。
状況を補完してください。
11年09月08日 22:16
【ウミガメのスープ】 [背中の骨]
【ウミガメのスープ】 [背中の骨]
解説を見る
一組の夫婦がいた。
夫婦は仲むつまじく、特に夫は傍目から異常とも言える愛情を妻に注いでいた。妻もそれにどうにか応えていた。
しかし、いつしか男の愛は妻を縛り付ける縄となる。妻が他の男と話しているだけで激昂し、三日三晩自宅に軟禁することさえあった。その間、夫は愛の言葉をずっと妻に囁き続けた。
「こんなにボクは君のことを愛しているのだから、君もボクの事を愛して当然だ」
それが夫の常套句だった。時には愛情を押しつけるあまり、暴力をも振るった。
妻はあまりに重すぎる愛情に堪えきれず、周囲の助けもあり、ついに夫の元から逃げ去った。
夫は、妻がいなくなったその日から、わずかに残っていた正気をさらにすり減らしていった。
狂いだした男の目に、いつだったか愛しい妻に贈った人形が写る。美しい金髪が妻に良く似ていたからプレゼントしたものだった。
男は、人形をじっと見つめ、笑った。
「お帰り。ボクの、愛しいヒト……」
そして男は、人形を愛し始めた。しかし人形は当然何も応えない。掌で男の顔を撫でることも、優しい言葉をかけることも、微笑みかけることさえしなかった。
愛情を、愛情で返すことはなく、人形はただ沈黙で返した。
男はいつかのように怒り、殴り、勢い余って人形を壊してしまった。我に返ったとき、足下にはかつて愛した『ヒト』の残骸が散らばっていた。
「ああ、なんてことだ、ボクは妻を、殺してしまった!」
男は二度も妻を失ってしまった悲しみにくれた。
途方にくれて街を歩く男の視界に店先で売られている人形が入る。
金髪の、少女をかたどった人形だった。
それも多数の。服も、表情も、大きさも様々なものがある。
立ち止まり、それらを見つめ、男が、笑った。
「ああ……なんだ。いっぱいいるじゃないか……!」
男は人形達に近づき、愛おしげに1つの顔を撫でた。
「もう、失うことなんか怖くない」
――そして、同じ事を繰り返していく。
夫婦は仲むつまじく、特に夫は傍目から異常とも言える愛情を妻に注いでいた。妻もそれにどうにか応えていた。
しかし、いつしか男の愛は妻を縛り付ける縄となる。妻が他の男と話しているだけで激昂し、三日三晩自宅に軟禁することさえあった。その間、夫は愛の言葉をずっと妻に囁き続けた。
「こんなにボクは君のことを愛しているのだから、君もボクの事を愛して当然だ」
それが夫の常套句だった。時には愛情を押しつけるあまり、暴力をも振るった。
妻はあまりに重すぎる愛情に堪えきれず、周囲の助けもあり、ついに夫の元から逃げ去った。
夫は、妻がいなくなったその日から、わずかに残っていた正気をさらにすり減らしていった。
狂いだした男の目に、いつだったか愛しい妻に贈った人形が写る。美しい金髪が妻に良く似ていたからプレゼントしたものだった。
男は、人形をじっと見つめ、笑った。
「お帰り。ボクの、愛しいヒト……」
そして男は、人形を愛し始めた。しかし人形は当然何も応えない。掌で男の顔を撫でることも、優しい言葉をかけることも、微笑みかけることさえしなかった。
愛情を、愛情で返すことはなく、人形はただ沈黙で返した。
男はいつかのように怒り、殴り、勢い余って人形を壊してしまった。我に返ったとき、足下にはかつて愛した『ヒト』の残骸が散らばっていた。
「ああ、なんてことだ、ボクは妻を、殺してしまった!」
男は二度も妻を失ってしまった悲しみにくれた。
途方にくれて街を歩く男の視界に店先で売られている人形が入る。
金髪の、少女をかたどった人形だった。
それも多数の。服も、表情も、大きさも様々なものがある。
立ち止まり、それらを見つめ、男が、笑った。
「ああ……なんだ。いっぱいいるじゃないか……!」
男は人形達に近づき、愛おしげに1つの顔を撫でた。
「もう、失うことなんか怖くない」
――そして、同じ事を繰り返していく。
「怖くなんてなーいさ」「1ブックマーク」
恐
いものが無いので男は恐怖した
何故?
【参加テーマ・これ恐いッス!】
いものが無いので男は恐怖した
何故?
【参加テーマ・これ恐いッス!】
13年08月12日 20:37
【ウミガメのスープ】 [アザゼル]
【ウミガメのスープ】 [アザゼル]
解説を見る
友
人が自作したというお化け屋敷に入った男
ドラキュラ・ゾンビ、人魂・幽霊、キョンシーに座敷わらしにゴブリン。出てくるお化けはジャンルがバラバラで、かつ演技力ゼロだった
つまらなそうに出口に差し掛かると白い化粧と布を纏った友人が飛び出して来た!
『どうだった?』と感想を聞く友人に素直な感想を言ってやった
・・・青ざめる友人、彼が言うにはこのお化け屋敷は自分一人で作ったものであり当然お化け役は自分一人だと。ゾンビや幽霊の手配などしてないと
て事は男が見たのは?
人が自作したというお化け屋敷に入った男
ドラキュラ・ゾンビ、人魂・幽霊、キョンシーに座敷わらしにゴブリン。出てくるお化けはジャンルがバラバラで、かつ演技力ゼロだった
つまらなそうに出口に差し掛かると白い化粧と布を纏った友人が飛び出して来た!
『どうだった?』と感想を聞く友人に素直な感想を言ってやった
・・・青ざめる友人、彼が言うにはこのお化け屋敷は自分一人で作ったものであり当然お化け役は自分一人だと。ゾンビや幽霊の手配などしてないと
て事は男が見たのは?
「エイリアン変身セット」「1ブックマーク」
男はどんな病気もすぐに治療出来る機械を試してみた。
結果男は軽い風邪が原因で死んだ。
なぜだろう?
結果男は軽い風邪が原因で死んだ。
なぜだろう?
11年07月17日 23:37
【ウミガメのスープ】 [ふわっふぁするよ]
【ウミガメのスープ】 [ふわっふぁするよ]
解説を見る
男は知り合いの研究者にある実験を頼まれた。
新しい医療ロボットのテスターである。
開発に成功すれば、多くの持病を抱える人を救えるらしい。
報酬は高額で、世紀の開発に携われるということもあったので、男は喜んで引き受けることにした。
ロボットの詳細はこうだ。
二の腕から肩、胸部の半分を覆う大きめな機械を取り付ける。
この中には数種類の薬剤が入っており、少々重たい。
使用者の血流や体温などを測定し、少しでも異常が観測された場合はすぐに薬剤を調合し、使用者に投与するのだ。
これが完成すると心臓発作などの持病を抱えた人間は命をつなぐことができ、一人暮らしの老人などにも医者が診なくても対処することが出来るらしい。
まさに高齢化社会の救世主とも呼べる開発だ。
男はその機械を取り付けて2日間過ごすことになった。
一日目、日中は特に何もなく過ごすことができた。
少し機械の重さに疲れを感じたが、その程度で薬を投与していてはキリがないので設定されていなかったらしい。
このまま何事もなく終わるのかな、と男は思っていた。
異変があったのはその夜の就寝時だ。
男はベットに入り、機械のせいで寝苦しさを感じながらも、疲れのせいですぐに熟睡した。
観測者も途中まで起きていたが、あとはカメラに任せることにして就寝した。
時刻は深夜三時。
男は腹を出して寝ていた。
そのせいで少し風邪をひいたらしい。
さっそく機械は解熱剤などを調合、即投与した。
針は毛穴程度の細いマイクロ針なので、ほとんど痛みを感じない。
だから男は投与に気付かず、そのまま夢の中にいた。
ここで終われば実験は大成功……だったのだが、残念なことにここでは終わりではない。
薬は病気を治すために有用なものだが、その分悪い点も存在する。
そう、副作用だ。
その解熱剤には身体の反応を鈍くする副作用があった。
そのためその副作用を治す薬の投与が始まってしまう。
当然その薬にも副作用があるわけで、また投与が始まった。
中には身体の痛みをなくす、鎮痛剤まで。
それを延々五時間続けたのだ。
男が目を覚ますと、何故か動けない。
あきらかに身体の調子がおかしい。
痺れで身体の感覚がない。
観測者が部屋に入り、男の身体を見て悲鳴をあげた。
「きゃああああああああああああああああ!!」
男の身体はぱんぱんに膨らんでいた。
薬を幾度となく投与され、とっくに身体に収まる量を超えていたのだが、それでも男は薬によって生かされていた。
しかしもう限界。
観察者が彼を起こそうと触れた瞬間に首筋が裂け、彼の体液が噴出した。
血?とは言い難い。
限界まで薄まって、若干赤さが残っている透明の液体。
男はまるでエイリアンのような最期を終えてしまった。
新しい医療ロボットのテスターである。
開発に成功すれば、多くの持病を抱える人を救えるらしい。
報酬は高額で、世紀の開発に携われるということもあったので、男は喜んで引き受けることにした。
ロボットの詳細はこうだ。
二の腕から肩、胸部の半分を覆う大きめな機械を取り付ける。
この中には数種類の薬剤が入っており、少々重たい。
使用者の血流や体温などを測定し、少しでも異常が観測された場合はすぐに薬剤を調合し、使用者に投与するのだ。
これが完成すると心臓発作などの持病を抱えた人間は命をつなぐことができ、一人暮らしの老人などにも医者が診なくても対処することが出来るらしい。
まさに高齢化社会の救世主とも呼べる開発だ。
男はその機械を取り付けて2日間過ごすことになった。
一日目、日中は特に何もなく過ごすことができた。
少し機械の重さに疲れを感じたが、その程度で薬を投与していてはキリがないので設定されていなかったらしい。
このまま何事もなく終わるのかな、と男は思っていた。
異変があったのはその夜の就寝時だ。
男はベットに入り、機械のせいで寝苦しさを感じながらも、疲れのせいですぐに熟睡した。
観測者も途中まで起きていたが、あとはカメラに任せることにして就寝した。
時刻は深夜三時。
男は腹を出して寝ていた。
そのせいで少し風邪をひいたらしい。
さっそく機械は解熱剤などを調合、即投与した。
針は毛穴程度の細いマイクロ針なので、ほとんど痛みを感じない。
だから男は投与に気付かず、そのまま夢の中にいた。
ここで終われば実験は大成功……だったのだが、残念なことにここでは終わりではない。
薬は病気を治すために有用なものだが、その分悪い点も存在する。
そう、副作用だ。
その解熱剤には身体の反応を鈍くする副作用があった。
そのためその副作用を治す薬の投与が始まってしまう。
当然その薬にも副作用があるわけで、また投与が始まった。
中には身体の痛みをなくす、鎮痛剤まで。
それを延々五時間続けたのだ。
男が目を覚ますと、何故か動けない。
あきらかに身体の調子がおかしい。
痺れで身体の感覚がない。
観測者が部屋に入り、男の身体を見て悲鳴をあげた。
「きゃああああああああああああああああ!!」
男の身体はぱんぱんに膨らんでいた。
薬を幾度となく投与され、とっくに身体に収まる量を超えていたのだが、それでも男は薬によって生かされていた。
しかしもう限界。
観察者が彼を起こそうと触れた瞬間に首筋が裂け、彼の体液が噴出した。
血?とは言い難い。
限界まで薄まって、若干赤さが残っている透明の液体。
男はまるでエイリアンのような最期を終えてしまった。
「至高のノート」「1ブックマーク」
僕は昨日学校を休んでしまい、友達にノートを借りてそれを写すことになった。
該当するページを開く。すると僕は驚いたが、ページをめくると「そういうことか」と少し落胆した。
何故?
該当するページを開く。すると僕は驚いたが、ページをめくると「そういうことか」と少し落胆した。
何故?
16年06月01日 19:14
【ウミガメのスープ】 [相須 楽斗]
【ウミガメのスープ】 [相須 楽斗]
解説を見る
借りたのは数学のノートである。
僕が該当するページを開くと、綺麗な正円がいくつも書かれていた。今時コンパスをマメに使うとも考えられないので、僕は素直に友達の技術に感心した。
しかし、ページをめくると、藁半紙のプリントが挟んであるではないか。プリントには円の図があり、その円は当然正円である。あーこれを写したのか、と僕は勝手に落胆した。
僕が該当するページを開くと、綺麗な正円がいくつも書かれていた。今時コンパスをマメに使うとも考えられないので、僕は素直に友達の技術に感心した。
しかし、ページをめくると、藁半紙のプリントが挟んであるではないか。プリントには円の図があり、その円は当然正円である。あーこれを写したのか、と僕は勝手に落胆した。
「虹の麓、山の貴方」「1ブックマーク」
最近ウミコがフェンスの内側から景色をながめていると、
見知らぬ男がやってくるようになった。
カメオというらしい。
数ヶ月後、
ウミコがフェンスの外側へ行くと、カメオは死んでしまった。
いったいなぜ?
状況を補完しご説明ください。
見知らぬ男がやってくるようになった。
カメオというらしい。
数ヶ月後、
ウミコがフェンスの外側へ行くと、カメオは死んでしまった。
いったいなぜ?
状況を補完しご説明ください。
17年06月06日 21:51
【ウミガメのスープ】 [うえすぎ]
【ウミガメのスープ】 [うえすぎ]

虹色スープ
解説を見る
窓から見える代わり映えしない景色に一人の人物が加わったーー
1
「あんた何してんの?」
自分一人だけだと思っていた空間に男の声が聞こえたものだから、
ウミコは仰天してバッと振り返った。
そこにはジャージを着た同い年くらいの男がいた。
訝しげな顔をしてこちらに近づいてくるので、ウミコはフェンスを握りしめた。
「け、景色を見てたんです」
「はぁ? わざわざマンションの屋上で? こんな家ばっかで病院くらいしか
目につくとこがないのに?」
「い、いいじゃないですか。……高いところにいると冷静になるんです」
俯いてぼそぼそと答えるウミコに男はふーんとだけ返した。
2
それから男ーーカメオはウミコが屋上にいると必ずやって来るようになった。
なぜこんなにタイミングよく現れるのだろうと疑問に思っていると、
「部屋から見えるんだよ」とだけ答えた。
どうやらご近所だったらしい。
カメオが来たからといって状況に大きな変化はない。
少しの時間、同じように景色を眺めて、言葉を交わし、別れる。
そんな日々が続くと、ウミコが屋上に行く目的が「自分を冷静にさせるため」を追うように
「カメオに会うため」が少しずつ大きくなっていた。
3
それから数ヶ月後のある日のこと。
カメオは屋上に人影が見えたので病室を出た。
いつも通り人目を気にしつつ病院の外へ向かう。マンションは住宅を数軒挟んだすぐそこ
だしウミコと会う時間はそう長いものではないので外出許可をとらずとも誤魔化しがきく。
幸運なことに検診などと被らない時間帯にやって来てくれるのでカメオも動きやすかった。
ーーあいつまさか自殺するつもりじゃないだろうな。
屋上でフェンスに手をかけその向こうを見つめるウミコを初めて見つけたときそう思った。
対面して覇気のないその顔を見て、少なくともその考えを持っていることを確信した。
見えるとこですんなよな。
カメオは監視も兼ねてウミコに会いに行くことにした。どうせ暇なのだ。
それに病院以外で誰かと話すのなんて久しぶりのことだったから、実はウミコの存在に
感謝していた。
今日は何を話そうと考えながら、病院から抜け出してからもう一度屋上に目をやりーー
血の気が引いた。
ウミコがフェンスに足を掛けていたのだ。
4
もう駄目だ。
もう無理だ。
痛い、苦しい、楽になりたい。
いつだってフェンス越しの景色は私を諭してくれた。
ーー怖いだろう
ーー飛び降りれないだろう
私にはできっこないのだと教えてくれる。
私がまだ生きたいのだと気づかせてくれる。
フェンスの向こう側に立ち、両手でフェンスを握り体を前に傾ける。
恐怖はあった。
しかしそれを上回る私の意志もあった。
ぼたぼたと涙が溢れていく。
水気を帯びた視界はどこか輝いてすらいた。
私を諭す声は聞こえない。
もうかける言葉がない。
だけど体がそれ以上先へ行くことはなかった。
誰かが私の腕を痛いくらい強く掴んだから。
5
自分の体のことなんて頭になかった。
「なに、を、やってんだ!!」
フェンスを掴むウミコの腕を掴み、もたつく彼女を無視して内側に引き戻した。
まだ状況が掴めてないのか呆然とした顔をするウミコに苛立ちが頂点に達し、痛む心臓を
押さえて怒鳴りつけた。
ふざけんな、何考えてんだ。
お前はいちいち溜め込みすぎなんだよ、ちょっとでいいから俺に話せバカ。
余計なお世話とか言うなよ、不謹慎だけど死ぬってのは案外簡単にできる。
でもその前に、何か他の方法を探してみろ。
相談とか、逃げるとか。
迷惑かかるとか考えんなよ。
こうやって死ぬのも何かしら迷惑かけるんだ。
色々やったって大したことねぇよ。
カメオが言いたいことを言っているあいだ、ウミコはぼたぼたと涙を零し続けていた。
彼女がここで涙を流すのは初めてのことだった。
カメオの苛立ちも急速に収まり、今はただ安堵の気持ちだけが残った。
「まあ、とりあえず、間に合っで、よがっだ……」
ぜぇぜぇと呼吸が荒くなっていく。
カメオの言葉に自分が短絡的な思考に陥っていたこと、こうやって自分を止めてくれた
彼の存在の大きさを知ったウミコは、その時ようやく違和感に気づいた。
なにか、おかしい。
下を向いたまま呼吸を荒げるカメオに、大丈夫かと声をかけたと同時に、
カメオの体は横へ崩れ落ちた。
6
声が反響している。
カメオは朧げな意識のなかで無意識にその声に答えていた。
大丈夫、そこの病院、ポケットの携帯で繋がる。
視界が明滅していて、まるで現実でないかのようだった。
誰かの泣き声が聞こえる。
身体が地面から離れ、揺れる。
大丈夫、気にすんな。
それは言葉にならないまま、僅かな吐息となって口から零れた。
身体から緩やかに力が抜け、意識が闇に飲まれていく。
笑ってほしい。
またいっしょに話したい。
心臓が止まるその瞬間まで、カメオはただそれだけを願っていた。
X
「虹の麓には幸せがあるんだって」
雨上がりの青い街の向こうに薄っすらと虹が架かっているのを見て、
ウミコはどこで聞いたかは忘れてしまった話を思い出した。
遠くの山と街を繋ぐようにアーチを描く虹は、
雨雲が切れるにつれその鮮やかさを増していっている。
「あぁ〜、らしいな」
「自分からは見えないけど、見る人にとっては自分が虹の麓にいるから、
実は幸せはすぐそこにあるってことなんだって」
「ふーん」
興味がなさそうな声にチラッとその横顔を伺う。
あんまりこういうの好きじゃなかったかな。
口にしなければよかったと後悔していると、
「そういえば」と今度はカメオが何かを思い出したようだった。
「虹じゃないけど、誰かの詩に山の向こうに幸せがあるって言うのがあったな。
山の向こうに幸せがあると聞いたから行ってみたけど、
何もないから涙を流し帰ってくる。
すると他の人はそのさらに向こうに幸せがあると言う……みたいな」
「うーん、何かで読んだことがあるような……」
「物理的に移動することじゃないんだろうな。虹も、山も。
今の自分が思い描く幸せは、今の自分では手に入らない。
どうやったら虹の麓に行けるだろうって考えたり、
人生だとか立ちはだかる困難だとか、そんな山を乗り越えて今の自分より先に進むことで、
自分にとっての幸せが見つかるってことなのかも……」
「……カメオくんって、」
「なんだよ」
「こういう話、好きなんだね」
「悪いかよ」
ううん、嬉しいの。
いつしか雨雲は消え、太陽が眩しいくらい街を輝かせていた。
嬉しい。
もう少し、もう少しだけ、頑張ってみたい。
【要約解説】
ウミコと打ち解けていくこと数ヶ月。
ある日ウミコがフェンスの外側へ行こうとする姿を見てしまったカメオは、慌てて全力疾
走で駆けつける。
間一髪ウミコを止めることはできたが、重い心臓病を患うカメオは激しい運動により心臓
発作が起きてしまい、そのまま心臓が止まってしまった。
カメオがそのまま亡くなってしまうか、それとも息を吹き返し
ウミコと再会を果たすかは皆さまの心のなかで。
1
「あんた何してんの?」
自分一人だけだと思っていた空間に男の声が聞こえたものだから、
ウミコは仰天してバッと振り返った。
そこにはジャージを着た同い年くらいの男がいた。
訝しげな顔をしてこちらに近づいてくるので、ウミコはフェンスを握りしめた。
「け、景色を見てたんです」
「はぁ? わざわざマンションの屋上で? こんな家ばっかで病院くらいしか
目につくとこがないのに?」
「い、いいじゃないですか。……高いところにいると冷静になるんです」
俯いてぼそぼそと答えるウミコに男はふーんとだけ返した。
2
それから男ーーカメオはウミコが屋上にいると必ずやって来るようになった。
なぜこんなにタイミングよく現れるのだろうと疑問に思っていると、
「部屋から見えるんだよ」とだけ答えた。
どうやらご近所だったらしい。
カメオが来たからといって状況に大きな変化はない。
少しの時間、同じように景色を眺めて、言葉を交わし、別れる。
そんな日々が続くと、ウミコが屋上に行く目的が「自分を冷静にさせるため」を追うように
「カメオに会うため」が少しずつ大きくなっていた。
3
それから数ヶ月後のある日のこと。
カメオは屋上に人影が見えたので病室を出た。
いつも通り人目を気にしつつ病院の外へ向かう。マンションは住宅を数軒挟んだすぐそこ
だしウミコと会う時間はそう長いものではないので外出許可をとらずとも誤魔化しがきく。
幸運なことに検診などと被らない時間帯にやって来てくれるのでカメオも動きやすかった。
ーーあいつまさか自殺するつもりじゃないだろうな。
屋上でフェンスに手をかけその向こうを見つめるウミコを初めて見つけたときそう思った。
対面して覇気のないその顔を見て、少なくともその考えを持っていることを確信した。
見えるとこですんなよな。
カメオは監視も兼ねてウミコに会いに行くことにした。どうせ暇なのだ。
それに病院以外で誰かと話すのなんて久しぶりのことだったから、実はウミコの存在に
感謝していた。
今日は何を話そうと考えながら、病院から抜け出してからもう一度屋上に目をやりーー
血の気が引いた。
ウミコがフェンスに足を掛けていたのだ。
4
もう駄目だ。
もう無理だ。
痛い、苦しい、楽になりたい。
いつだってフェンス越しの景色は私を諭してくれた。
ーー怖いだろう
ーー飛び降りれないだろう
私にはできっこないのだと教えてくれる。
私がまだ生きたいのだと気づかせてくれる。
フェンスの向こう側に立ち、両手でフェンスを握り体を前に傾ける。
恐怖はあった。
しかしそれを上回る私の意志もあった。
ぼたぼたと涙が溢れていく。
水気を帯びた視界はどこか輝いてすらいた。
私を諭す声は聞こえない。
もうかける言葉がない。
だけど体がそれ以上先へ行くことはなかった。
誰かが私の腕を痛いくらい強く掴んだから。
5
自分の体のことなんて頭になかった。
「なに、を、やってんだ!!」
フェンスを掴むウミコの腕を掴み、もたつく彼女を無視して内側に引き戻した。
まだ状況が掴めてないのか呆然とした顔をするウミコに苛立ちが頂点に達し、痛む心臓を
押さえて怒鳴りつけた。
ふざけんな、何考えてんだ。
お前はいちいち溜め込みすぎなんだよ、ちょっとでいいから俺に話せバカ。
余計なお世話とか言うなよ、不謹慎だけど死ぬってのは案外簡単にできる。
でもその前に、何か他の方法を探してみろ。
相談とか、逃げるとか。
迷惑かかるとか考えんなよ。
こうやって死ぬのも何かしら迷惑かけるんだ。
色々やったって大したことねぇよ。
カメオが言いたいことを言っているあいだ、ウミコはぼたぼたと涙を零し続けていた。
彼女がここで涙を流すのは初めてのことだった。
カメオの苛立ちも急速に収まり、今はただ安堵の気持ちだけが残った。
「まあ、とりあえず、間に合っで、よがっだ……」
ぜぇぜぇと呼吸が荒くなっていく。
カメオの言葉に自分が短絡的な思考に陥っていたこと、こうやって自分を止めてくれた
彼の存在の大きさを知ったウミコは、その時ようやく違和感に気づいた。
なにか、おかしい。
下を向いたまま呼吸を荒げるカメオに、大丈夫かと声をかけたと同時に、
カメオの体は横へ崩れ落ちた。
6
声が反響している。
カメオは朧げな意識のなかで無意識にその声に答えていた。
大丈夫、そこの病院、ポケットの携帯で繋がる。
視界が明滅していて、まるで現実でないかのようだった。
誰かの泣き声が聞こえる。
身体が地面から離れ、揺れる。
大丈夫、気にすんな。
それは言葉にならないまま、僅かな吐息となって口から零れた。
身体から緩やかに力が抜け、意識が闇に飲まれていく。
笑ってほしい。
またいっしょに話したい。
心臓が止まるその瞬間まで、カメオはただそれだけを願っていた。
X
「虹の麓には幸せがあるんだって」
雨上がりの青い街の向こうに薄っすらと虹が架かっているのを見て、
ウミコはどこで聞いたかは忘れてしまった話を思い出した。
遠くの山と街を繋ぐようにアーチを描く虹は、
雨雲が切れるにつれその鮮やかさを増していっている。
「あぁ〜、らしいな」
「自分からは見えないけど、見る人にとっては自分が虹の麓にいるから、
実は幸せはすぐそこにあるってことなんだって」
「ふーん」
興味がなさそうな声にチラッとその横顔を伺う。
あんまりこういうの好きじゃなかったかな。
口にしなければよかったと後悔していると、
「そういえば」と今度はカメオが何かを思い出したようだった。
「虹じゃないけど、誰かの詩に山の向こうに幸せがあるって言うのがあったな。
山の向こうに幸せがあると聞いたから行ってみたけど、
何もないから涙を流し帰ってくる。
すると他の人はそのさらに向こうに幸せがあると言う……みたいな」
「うーん、何かで読んだことがあるような……」
「物理的に移動することじゃないんだろうな。虹も、山も。
今の自分が思い描く幸せは、今の自分では手に入らない。
どうやったら虹の麓に行けるだろうって考えたり、
人生だとか立ちはだかる困難だとか、そんな山を乗り越えて今の自分より先に進むことで、
自分にとっての幸せが見つかるってことなのかも……」
「……カメオくんって、」
「なんだよ」
「こういう話、好きなんだね」
「悪いかよ」
ううん、嬉しいの。
いつしか雨雲は消え、太陽が眩しいくらい街を輝かせていた。
嬉しい。
もう少し、もう少しだけ、頑張ってみたい。
【要約解説】
ウミコと打ち解けていくこと数ヶ月。
ある日ウミコがフェンスの外側へ行こうとする姿を見てしまったカメオは、慌てて全力疾
走で駆けつける。
間一髪ウミコを止めることはできたが、重い心臓病を患うカメオは激しい運動により心臓
発作が起きてしまい、そのまま心臓が止まってしまった。
カメオがそのまま亡くなってしまうか、それとも息を吹き返し
ウミコと再会を果たすかは皆さまの心のなかで。