「リレー講義難」「15ブックマーク」
我々の大学には「リレー講義」なるものがある。
半期15回の授業毎に異なる教授が担当し、
各々の専門分野について講義する。
様々な分野の一端に触れることができるということで「~学系入門」などの科目に多い。
さて、この科目「気になった、興味を持った分野」
について1つレポートを提出するだけで単位が降って
くる楽単(簡単に単位を取得できること)……かと思いきや取得率は決して高くない、というか低いのだが一体何故だろうか?
半期15回の授業毎に異なる教授が担当し、
各々の専門分野について講義する。
様々な分野の一端に触れることができるということで「~学系入門」などの科目に多い。
さて、この科目「気になった、興味を持った分野」
について1つレポートを提出するだけで単位が降って
くる楽単(簡単に単位を取得できること)……かと思いきや取得率は決して高くない、というか低いのだが一体何故だろうか?
15年06月27日 20:51
【ウミガメのスープ】 [driving]
【ウミガメのスープ】 [driving]
解説を見る
提出されたレポートをチェックするのは#red#その分野について講義した教授である#/red#。学生が研究室に入る可能性もあるので教授が自分の目で確認する。
しかし、教授という生物は如何せん自分の研究分野にしか頭になく、#red#大学での教育活動……むろんレポートのチェックを含む……は非常に面倒#/red#なのである。
なんとかレポートチェックを(やる気のある学生だけに絞りつつ)少なくする方法は……
頭がまわる教授陣は気付く。
#red#自分のレポート課題を難しくすれば単位しか頭にない学生は残り14人の教授のレポート課題へ流れるではないか!#/red#
奇しくも15人全員がそう考えるため、結局全てのレポート課題が難しく学生は楽単かと思いきや落単(単位を落とすこと)で落胆……なのである。
しかし、教授という生物は如何せん自分の研究分野にしか頭になく、#red#大学での教育活動……むろんレポートのチェックを含む……は非常に面倒#/red#なのである。
なんとかレポートチェックを(やる気のある学生だけに絞りつつ)少なくする方法は……
頭がまわる教授陣は気付く。
#red#自分のレポート課題を難しくすれば単位しか頭にない学生は残り14人の教授のレポート課題へ流れるではないか!#/red#
奇しくも15人全員がそう考えるため、結局全てのレポート課題が難しく学生は楽単かと思いきや落単(単位を落とすこと)で落胆……なのである。
「あるがままに」「15ブックマーク」
「・・・もう待てない!」
だが、その酷い字を見て私は全てを受けいれ、破り捨てた。
自慢され、悪態をつかれ、拒まれたというのに。
「私」は何に気付いたのだろう?
11年05月04日 21:26
【ウミガメのスープ】 [笹アイス]
【ウミガメのスープ】 [笹アイス]
解説を見る
私
には大志を抱いて旅に出たフリーカメラマンの友人、進がいる。
出国して何年も経っているのに手紙一つ寄こさない。痺れを切らした私は彼に会うため飛行機の搭乗券を手に入れた。
・・・・・・そんな中、今頃になって彼からの手紙が届くとは!
差出人住所を調べてみると、遠国のスラム街の一角だ。
・・・・・・彼はアメリカで活動をしているはずだが・・・?
-----------------------------------------------------------------------------------
元気か?おれわ美味いことやつてるやつぽりおれの才能はあんなさつぽけな国じや収まらなかつたんだ!いまさよつと右手をけがして左で書いてるせいで字がひどいことになつているが気にするなよ各個笑い
またcameraかたてにせかいじうをまわつてみようと思う。いつしよに生きたいとかぬかすなよじやまになるに決まつてるから生きさきわおまえにわおしえてやらない。
何10ねんもかかる旅になるがくれくれもさがしにわ来るなよ。おまえわしんぽいしようだから言つておくがおれは手をけがした意外は何の問題も無いけんこうだし美味いめしも食ってる150さいまで生きるね!
これを書きおえたらしゆつぽつしよう。またあえるからしんぽいすんなbigになつてあいにいくぜ
おれの気がむいたらな各個笑い
すすむ
------------------------------------------------------------------------------------
左手で書いているとあるがこの間違え方はどう見ても外国人による代筆文字だ。
自力で手紙も書けず誤字にも気づかないということは、彼の視力・体力は・・・・・・
消印は二週間前だ。まともな医者にかかっているのだろうか?金は?食事は?
いや、思い悩むのはよそう。
「何10ねんもかかる旅」「さがしにわ来るな」と言っているんだ。
それが彼の願いだ。精一杯の矜持だ。おそらくは人生最期の。
私はNY行きの搭乗券を破り捨てた。
君は元気なんだね。異国でこの上ない成功を収めているに違いない。
ああ、足手まといになるから応援には行かないよ。
待っているとも、いつか必ず会おう。
嘘だけが私達に残された絆だった。
には大志を抱いて旅に出たフリーカメラマンの友人、進がいる。
出国して何年も経っているのに手紙一つ寄こさない。痺れを切らした私は彼に会うため飛行機の搭乗券を手に入れた。
・・・・・・そんな中、今頃になって彼からの手紙が届くとは!
差出人住所を調べてみると、遠国のスラム街の一角だ。
・・・・・・彼はアメリカで活動をしているはずだが・・・?
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元気か?おれわ美味いことやつてるやつぽりおれの才能はあんなさつぽけな国じや収まらなかつたんだ!いまさよつと右手をけがして左で書いてるせいで字がひどいことになつているが気にするなよ各個笑い
またcameraかたてにせかいじうをまわつてみようと思う。いつしよに生きたいとかぬかすなよじやまになるに決まつてるから生きさきわおまえにわおしえてやらない。
何10ねんもかかる旅になるがくれくれもさがしにわ来るなよ。おまえわしんぽいしようだから言つておくがおれは手をけがした意外は何の問題も無いけんこうだし美味いめしも食ってる150さいまで生きるね!
これを書きおえたらしゆつぽつしよう。またあえるからしんぽいすんなbigになつてあいにいくぜ
おれの気がむいたらな各個笑い
すすむ
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左手で書いているとあるがこの間違え方はどう見ても外国人による代筆文字だ。
自力で手紙も書けず誤字にも気づかないということは、彼の視力・体力は・・・・・・
消印は二週間前だ。まともな医者にかかっているのだろうか?金は?食事は?
いや、思い悩むのはよそう。
「何10ねんもかかる旅」「さがしにわ来るな」と言っているんだ。
それが彼の願いだ。精一杯の矜持だ。おそらくは人生最期の。
私はNY行きの搭乗券を破り捨てた。
君は元気なんだね。異国でこの上ない成功を収めているに違いない。
ああ、足手まといになるから応援には行かないよ。
待っているとも、いつか必ず会おう。
嘘だけが私達に残された絆だった。
「二ヶ月遅れのクリスマス」「15ブックマーク」
聖夜、カップルに人気と話題の映画を見るために事前に座席予約をした私たち。
その際、私たちはわざわざ隣同士にならないように座席を選択したのだが、いったいなぜだろう。
その際、私たちはわざわざ隣同士にならないように座席を選択したのだが、いったいなぜだろう。
15年02月26日 22:52
【ウミガメのスープ】 [緋色]
【ウミガメのスープ】 [緋色]
解説を見る
定員100人の映画館に集まった私たち非リア50人。
私たちは奇数番号の座席を全て占拠することによって
カップルの隣席、及びいちゃつきを阻止することに成功したのであった。
もちろん、当日目の前を行き来するキャラメルポップコーンにしょっぱい気持ちになるのは必至である。
私たちは奇数番号の座席を全て占拠することによって
カップルの隣席、及びいちゃつきを阻止することに成功したのであった。
もちろん、当日目の前を行き来するキャラメルポップコーンにしょっぱい気持ちになるのは必至である。
「ブラックカンパニー吉田」「15ブックマーク」
ここ『有限会社 ウミガメカンパニー』では、
休日だというのに今日も大勢の人間が真面目に働いている。
休日に仕事とかマジやってらんねー。
私は真面目に仕事をしている同僚を尻目にこっそり抜け出し、
人目につかない所で一服する。
すると、
そこに上司が鬼の形相でやってきた。抜け出すところを見られていたらしい。
私はそれはそれはこっぴどく怒られてしまった。
私はなぜ怒られたのだろう?
ちなみに、#b#仕事をサボったから怒られたわけではない。#/b#
休日だというのに今日も大勢の人間が真面目に働いている。
休日に仕事とかマジやってらんねー。
私は真面目に仕事をしている同僚を尻目にこっそり抜け出し、
人目につかない所で一服する。
すると、
そこに上司が鬼の形相でやってきた。抜け出すところを見られていたらしい。
私はそれはそれはこっぴどく怒られてしまった。
私はなぜ怒られたのだろう?
ちなみに、#b#仕事をサボったから怒られたわけではない。#/b#
14年01月24日 18:55
【ウミガメのスープ】 [ruxyo]
【ウミガメのスープ】 [ruxyo]

12の名称は「追加注文」に決定!
解説を見る
長い答え
ここ『有限会社 ウミガメカンパニー』では、マジシャンや大道芸人、及びそのアシスタントの派遣を行っている。
そこに所属する私は、同じく所属の同僚マジシャン『ブラック・マジシャン吉田』の
補佐として、遊園地のショーに派遣されてやってきた。
私の担当するマジックは古典的な『人体消失マジック』。
拘束され箱に入った私が消えてしまうというもの。
トリックは単純明快。
箱や拘束具に仕掛けがしてあり、演出に合わせて#b#こっそり抜けだして、#/b#
そのまま道具の移動とともに奥に引っ込めば完了である。
・・・
ショーが開幕した。休日だということもあり、客の入りは上々だ。
私は手筈通りに#b#こっそりと箱から抜け出し、#/b#
よくわからん派手な動きで観客の注意を集める吉田を尻目に、客から見えない舞台袖に引っ込んだ。
完璧だった。はずだった。
ひと仕事終えた私が舞台袖で水を飲んでいると、客席でショーの様子を見ていた上司がやってきてこう言った。
#big5#なんだあのマジックは!#/big5#
#big5#お前が箱から抜け出す所が観客に丸見えだったじゃないか!#/big5#
抜け出すところを、(観客に)見られていたらしい。
そりゃ怒るわな・・・。
短い答え
抜け出すところを見られていたから。
ここ『有限会社 ウミガメカンパニー』では、マジシャンや大道芸人、及びそのアシスタントの派遣を行っている。
そこに所属する私は、同じく所属の同僚マジシャン『ブラック・マジシャン吉田』の
補佐として、遊園地のショーに派遣されてやってきた。
私の担当するマジックは古典的な『人体消失マジック』。
拘束され箱に入った私が消えてしまうというもの。
トリックは単純明快。
箱や拘束具に仕掛けがしてあり、演出に合わせて#b#こっそり抜けだして、#/b#
そのまま道具の移動とともに奥に引っ込めば完了である。
・・・
ショーが開幕した。休日だということもあり、客の入りは上々だ。
私は手筈通りに#b#こっそりと箱から抜け出し、#/b#
よくわからん派手な動きで観客の注意を集める吉田を尻目に、客から見えない舞台袖に引っ込んだ。
完璧だった。はずだった。
ひと仕事終えた私が舞台袖で水を飲んでいると、客席でショーの様子を見ていた上司がやってきてこう言った。
#big5#なんだあのマジックは!#/big5#
#big5#お前が箱から抜け出す所が観客に丸見えだったじゃないか!#/big5#
抜け出すところを、(観客に)見られていたらしい。
そりゃ怒るわな・・・。
短い答え
抜け出すところを見られていたから。
「田舎のバスは3時間に一度。」「15ブックマーク」
兎美は少しずつ日常が不自由になるのを感じていた。
ある朝、兎美は目覚めるとその変化に驚愕した。
慌てて行きつけの亀夫の店まで飛んでいくと、彼は兎美に一杯のワインを差し出した。
それを飲み干すと、二人は言った。
「不便になってよかった!」
「ああ、まったく最高だ!」
なぜ?
ある朝、兎美は目覚めるとその変化に驚愕した。
慌てて行きつけの亀夫の店まで飛んでいくと、彼は兎美に一杯のワインを差し出した。
それを飲み干すと、二人は言った。
「不便になってよかった!」
「ああ、まったく最高だ!」
なぜ?
14年01月09日 00:03
【ウミガメのスープ】 [彩蓮燈]
【ウミガメのスープ】 [彩蓮燈]

12作目です。田舎での暮らしって少し憧れます。
解説を見る
西暦21××年。
急速に発展した電脳技術の影響により、バーチャルリアリティが日常となった世界。
私こと兎美は、ベッドの中で目を覚ました。
「…あと5分」
まだ少し眠気の残る頭でまどろみに浸り、再度布団をかぶろうとする。
…そこで気がついた。
・・・・・
眠気がある?
あまりの驚きに跳び起き、再度確認する。
驚きで少し目は覚めてしまったが、それでも頭はまだ軽くぼーっとして、睡眠を体に訴えている。
「嘘…すごい!眠気が再現されてる!」
昨日までは感じることのなかった感覚。
人間の三大欲求のひとつ。それが体の中にある実感。
私は急いで着替えると、飛びだすように家の扉を開いた。
「亀夫!」
「よお、兎美。やっぱり来たか」
玄関の扉を開いた先は、シックな雰囲気のバー。亀夫の経営している店だった。
彼はカウンターの中でグラスを磨きながら、慌てた様子の私に苦笑を浮かべている。
「亀夫、すごいよっ…!私、眠くなってる!」
「ああ、俺も驚いたよ。今回は随分と大幅にバージョンアップしたんだな…すごい処理能力だ」
「アバター全部を常時個別にスキャンしなきゃいけないもんね…外では何か新しい技術でも出来たのかな」
「かもな…まあ、なんにしろありがたいことだ」
「違いないね」
私たちの住むこの街は、現実ではない。
【サイバーヘヴン】と呼ばれるここは、文字通りに1と0で構成された仮想世界。
ここの住人は全員、自分の脳情報を電子化して創り出されたアバターで、建物も自然も全て「そういう情報」にすぎない。
けれど、この世界は従来のバーチャルリアリティと決定的に異なる点がある。
それは私たちにとって、ここが【現実】ということだ。
年老いて死を待つだけの人。
事故で助からない傷を負った人。
まともな肉体で生まれることの出来なかった人。
そんな人たちが肉体を捨てて、新しい命を求める場所。
電脳の楽園――サイバーヘヴン。
かくいう私も事故で肉体をなくして、ここにやってきた。
最初は戸惑ったけど、住めば都というとおり、ここも慣れれば良い世界だ。
老いることもなければ、病気になることもない。
…いや、老いることも、病気になることも『できない』。
どれだけ現実そっくりに形を作っても、ここは情報世界。
日々増え続けるアバターの全てを把握し、それに合わせて全ての現象を発生させるなんて無理な話だ。
たとえば、風をひとつ吹かせるにしても、個人でその感じ方は違う。
風のエフェクトひとつ発生させる度に、全アバターに「風を感じた」とパターンの異なる触覚情報を与えようと思ったら、それこそ膨大な演算能力が要求されるだろう。
だから基本的に、この楽園ではいろいろな「過程」が無視されてしまう。
食事をしようと思ったら、次の瞬間には食べた結果だけが残り。
どこかへ行こうと思ったら、扉を開いた途端にそこに到着し。
眠ろうと思ったら、一瞬で意識は翌日に。
一昔前のRPGみたいと思ってもらえばいいだろうか。
もちろんこれはすごく便利なことなんだけど、ここに「現実」を求める私たちからすると、不満もあるのだ。
だけどそう言った便利すぎる不都合も、サーバーの処理能力のアップに伴って少しずつ「不便」になってくる。
たとえば半年前くらいに、物が汚れるようになった。
それ以来、こうやってグラスを磨くのが亀夫の日課になった。
1月前に物が壊れるようになった時も驚いた。
これはなかなかの衝撃で、思わず亀夫の店のグラスを片っ端から叩き割って、後から思いっきり怒られた。
そして今回は眠気の導入。
これはかなり革新的だ。人生の楽しみをひとつ手に入れたといっても良いかもしれない。
あまりのことに興奮気味な私に、亀夫は意味ありげに笑みを浮かべて言った。
「驚くのはまだ早いと思うぞ、兎美」
「どういうこと?」
「これ、見てみろ」
そういって亀夫が差し出したのは、グラスに注がれたワイン。
でもこれがどうしたって…あれ?
「…ねえ、このワイン、匂いが…」
「そうだ。匂いがある…そして味もある」
「嘘っ!飲めるの!?」
「ほらな、驚いた。まあ、ようやくバーの本領を果たせるってところだ」
「うわ、うわー!もう…いゃっほう!」
思わず変なテンションで声が出た。
いや、でも仕方ないと思う。これは仕方ないと思う。
だって食だ。人間のもっとも根源的な娯楽と言ってもいい食なのだ。
私の心はこの新しい刺激にエンジン全開のフルスロットルで、キャラが崩壊してしまいかねない興奮っぷりだった。
差し出されたグラスを掲げ、ワインの豊潤な香りを堪能する。
ふと見ると、亀夫も同じようにグラスを掲げていた。彼も実はなかなか興奮しているらしい。
「ねえ、亀夫。乾杯しようよ」
「乾杯って、何に?」
「この不便な世界に!」
「ははっ、そりゃあいい」
グラスを打ち合わせる音が店内に響く。
そして二人は勢いよくワインを飲み干し。
「~~~っ!不便になってよかった!」
「ああ、まったく最高だ!」
生きている実感に、思わず頬を緩めるのだった。
急速に発展した電脳技術の影響により、バーチャルリアリティが日常となった世界。
私こと兎美は、ベッドの中で目を覚ました。
「…あと5分」
まだ少し眠気の残る頭でまどろみに浸り、再度布団をかぶろうとする。
…そこで気がついた。
・・・・・
眠気がある?
あまりの驚きに跳び起き、再度確認する。
驚きで少し目は覚めてしまったが、それでも頭はまだ軽くぼーっとして、睡眠を体に訴えている。
「嘘…すごい!眠気が再現されてる!」
昨日までは感じることのなかった感覚。
人間の三大欲求のひとつ。それが体の中にある実感。
私は急いで着替えると、飛びだすように家の扉を開いた。
「亀夫!」
「よお、兎美。やっぱり来たか」
玄関の扉を開いた先は、シックな雰囲気のバー。亀夫の経営している店だった。
彼はカウンターの中でグラスを磨きながら、慌てた様子の私に苦笑を浮かべている。
「亀夫、すごいよっ…!私、眠くなってる!」
「ああ、俺も驚いたよ。今回は随分と大幅にバージョンアップしたんだな…すごい処理能力だ」
「アバター全部を常時個別にスキャンしなきゃいけないもんね…外では何か新しい技術でも出来たのかな」
「かもな…まあ、なんにしろありがたいことだ」
「違いないね」
私たちの住むこの街は、現実ではない。
【サイバーヘヴン】と呼ばれるここは、文字通りに1と0で構成された仮想世界。
ここの住人は全員、自分の脳情報を電子化して創り出されたアバターで、建物も自然も全て「そういう情報」にすぎない。
けれど、この世界は従来のバーチャルリアリティと決定的に異なる点がある。
それは私たちにとって、ここが【現実】ということだ。
年老いて死を待つだけの人。
事故で助からない傷を負った人。
まともな肉体で生まれることの出来なかった人。
そんな人たちが肉体を捨てて、新しい命を求める場所。
電脳の楽園――サイバーヘヴン。
かくいう私も事故で肉体をなくして、ここにやってきた。
最初は戸惑ったけど、住めば都というとおり、ここも慣れれば良い世界だ。
老いることもなければ、病気になることもない。
…いや、老いることも、病気になることも『できない』。
どれだけ現実そっくりに形を作っても、ここは情報世界。
日々増え続けるアバターの全てを把握し、それに合わせて全ての現象を発生させるなんて無理な話だ。
たとえば、風をひとつ吹かせるにしても、個人でその感じ方は違う。
風のエフェクトひとつ発生させる度に、全アバターに「風を感じた」とパターンの異なる触覚情報を与えようと思ったら、それこそ膨大な演算能力が要求されるだろう。
だから基本的に、この楽園ではいろいろな「過程」が無視されてしまう。
食事をしようと思ったら、次の瞬間には食べた結果だけが残り。
どこかへ行こうと思ったら、扉を開いた途端にそこに到着し。
眠ろうと思ったら、一瞬で意識は翌日に。
一昔前のRPGみたいと思ってもらえばいいだろうか。
もちろんこれはすごく便利なことなんだけど、ここに「現実」を求める私たちからすると、不満もあるのだ。
だけどそう言った便利すぎる不都合も、サーバーの処理能力のアップに伴って少しずつ「不便」になってくる。
たとえば半年前くらいに、物が汚れるようになった。
それ以来、こうやってグラスを磨くのが亀夫の日課になった。
1月前に物が壊れるようになった時も驚いた。
これはなかなかの衝撃で、思わず亀夫の店のグラスを片っ端から叩き割って、後から思いっきり怒られた。
そして今回は眠気の導入。
これはかなり革新的だ。人生の楽しみをひとつ手に入れたといっても良いかもしれない。
あまりのことに興奮気味な私に、亀夫は意味ありげに笑みを浮かべて言った。
「驚くのはまだ早いと思うぞ、兎美」
「どういうこと?」
「これ、見てみろ」
そういって亀夫が差し出したのは、グラスに注がれたワイン。
でもこれがどうしたって…あれ?
「…ねえ、このワイン、匂いが…」
「そうだ。匂いがある…そして味もある」
「嘘っ!飲めるの!?」
「ほらな、驚いた。まあ、ようやくバーの本領を果たせるってところだ」
「うわ、うわー!もう…いゃっほう!」
思わず変なテンションで声が出た。
いや、でも仕方ないと思う。これは仕方ないと思う。
だって食だ。人間のもっとも根源的な娯楽と言ってもいい食なのだ。
私の心はこの新しい刺激にエンジン全開のフルスロットルで、キャラが崩壊してしまいかねない興奮っぷりだった。
差し出されたグラスを掲げ、ワインの豊潤な香りを堪能する。
ふと見ると、亀夫も同じようにグラスを掲げていた。彼も実はなかなか興奮しているらしい。
「ねえ、亀夫。乾杯しようよ」
「乾杯って、何に?」
「この不便な世界に!」
「ははっ、そりゃあいい」
グラスを打ち合わせる音が店内に響く。
そして二人は勢いよくワインを飲み干し。
「~~~っ!不便になってよかった!」
「ああ、まったく最高だ!」
生きている実感に、思わず頬を緩めるのだった。












