男はある宗教を深く信仰していたので、棄教した。一体なぜ?
棄教:宗教をやめること。
16年06月14日 15:01
【ウミガメのスープ】【批評OK】
[letitia]
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信じるものは救われる。
数多の過ちを犯し、絶望の中にいた男を救ったのは、信仰と一人の女だった。
過去にどんな罪があろうと、信じれば必ず赦され、死後は天国へ行ける。信仰は男に希望を与えた。
男にとって信仰と同じくらい大切だったのが、一人の女だった。彼女は宗教を持たなかったが、男を励まし、支え、生きる力を与えた。やがて女は妻になった。
男は幸福に包まれて、穏やかに慎ましく暮らした。
妻はなんの前触れもなく死んだ。男は嘆き悲しんだ。男にとって心の支えは信仰しかなくなった。
愛する彼女にもう一度会いたい。言えなかった言葉が、伝えられなかった思いがあった。
毎日幸せだったこと、いつも支えてくれたことへの感謝、そして口下手で言葉に出来なかったけれど、何ものにも代えがたく愛していること。
どん底から引き上げてくれた光であり、いつもそばにあった輝くような笑顔が、もう一度見たかった。
しかし男は気づいた。望みは全て叶わないことを。
信じるものは救われる。では信じないものは?
男は敬虔な教徒である。教徒以外は天国に行けず、みな等しく地獄へ堕ちると、誰よりもよく知っていた。
男は敬虔な教徒であった。自分は死後天国へ行き、そこに愛する女はいないと、誰よりもよく知っていた。
男は棄教した。最期までその教えを理解し、信じていたからこそ、彼は地獄へ堕ちることを選んだ。愛する女の待つ地獄へと。
【要約】
男の信仰する宗教では、教徒は死後天国へ行けるが、教徒以外は地獄へ堕ちる。男の愛する妻が無宗教であったため、死後地獄に堕ちたと信じる男は、自らも地獄に堕ちるため棄教した。
総合点:7票 チャーム:1票 納得感:1票 物語:5票
チャーム部門az【
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「さらりと語られる明白な矛盾。それが順接で繋がる背景には何があるのか、気になって解かずにはいられません。」
2017年01月12日02時
納得感部門牛削り【
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「我々のほとんどは、宗教というものに馴染みがない。したがって、宗教を信じる人の論理というものを、受け入れることができないと感じることは多々ある。当問題はまさに、信仰者の論理を問う問題であるが、信じている内容と背景にある事情とをしっかりと説明することで、全く価値観の違うはずの人間に感情移入することができるのだ。そして彼の思考が、信仰という観点に立ったとき、間違いなく論理的であるということを思い知るであろう。」
2016年07月19日20時
物語部門エリム【
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「投票していたつもりがしていなかった1問。大切なひとのために、拠り所すら捨てる深い愛に心を動かされます。」
2016年09月05日23時
物語部門ひゅー【
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「深い愛に満ちた物語。ベールは薄くないのだけれども、少ない問題数で解答が出ているのはこの物語の素晴らしさ故なのか。」
2016年09月04日22時
物語部門とかげ【
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「宗教を深く信仰していたので、その宗教をやめた男。信条というのは時に理解し合えないものだが、この男の気持ちは宗教を信じていない人にも伝わるだろう。合理的でありながらいかにも人間臭いこの行動に、心動かされた。」
2016年09月04日22時
物語部門牛削り【
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「信仰ゆえに棄教するという矛盾の解決。「【狂信者はかく語りき】」という有名な過去問がこれにひとつの答えを与えているが、当問題はまったく別方向の物語を紡ぎ出している。先例がサイコサスペンスであるならば、こちらは深い愛の物語。信仰していた宗教を棄てた彼の決断に震えろ。」
2016年07月19日20時
物語部門かもめの水平さん【
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「解説の物語性が素晴らしいです。信心深い教徒であるからこそ成立する物語。余談ですが日本にキリスト教が布教された頃の逸話を思い出します」
2016年06月17日14時