私はL国の秘境に住むある部族について実地調査を行った。
道を歩いていた部族の老人(仮にモハメドとする)に声をかけ、鳥を指差し、彼らの言語であれは何かと問いかけると、彼は「ワッチェ」と答えた。
別の鳥を指差すと、「ホガッチェ」「ゴゴクジュッチェ」などと次々に答えてくれた。
同じ質問を他の人にもしてみると、皆ほとんどの鳥に関し口を揃えて「ンゴヤギギ」と答えた。
「ンゴヤギギ」という単語は、これまでに判明している彼らの言語の中には存在しない単語だった。
「わからない」という意味ではないらしい。
その後の調査によって、私は「ンゴヤギギ」が何を指しているのかを知った。
それはいったい何だろうか。カタカナ4文字で答えよ。
16年05月06日 12:32
【20の扉】【批評OK】
[牛削り]
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その後の彼らとの交流により、私が最初に声をかけた老人(仮にモハメドとしていた)が、他の皆から「ンゴヤギギ」と呼ばれていることがわかった。
どうやら「ンゴヤギギ」とは、その老人の名前のようである。
ンゴヤギギ以外の人々はこう言っていたのである。
「(鳥の名前なら)ンゴヤギギ(に訊いてくれ)」
と。
鳥の名前を正確に知っていたのは、ンゴヤギギだけだったようだ。
私は彼らと5年間にわたり定期的に交流を続けた。
その間にンゴヤギギは衰弱し、家にこもりきりになった。
若者たちはわからないことがあるとンゴヤギギのもとへ行き、質問した。
ンゴヤギギはいつも温かい笑顔でそれに応じていた。
そして2年前、他界した。
最後の瞬間まで、彼はかすれる声で周りの若者に何かを伝えようとしていた。
文字を持たない彼らにとって、生き字引である老人の価値は偉大である。
男は食料を持ち帰り、女は子を育てる。老人はほとんど動けないが、様々な知識で皆を助ける。
互いの価値を痛感し合わなければ、この厳しい自然を生き抜いてくることはできなかったのであろう。
対して我々は文字を持ち、飽和するほどの伝達手段を持っている。
しかしそれと引き換えに、何か大切なものを見過ごしてしまっているのではないだろうか。
鳥の名前を尋ねる若者たちの目や、それを教えるンゴヤギギのゆったりとした口の動きなどを見て、私はそんなことを感じずにいられなかった。
彼らは今でも、見知らぬ鳥の名前を訊かれれば「ンゴヤギギ」と答える。
それらの鳥に、新しい名前を付けることなど決してしない。
言語による表現の幅をほとんど持たない彼らは、失ったものの大きさよって、大切なものの存在を保存しているのである。
ンゴヤギギが死に、永遠に名前を失った鳥たち。
膨大な鳥たちの中の一角を占めるその大きな空虚は、紛れもなく、彼らが慈しんだ、ンゴヤギギその人の形をしている。
【答え】
「ンゴヤギギ」=「モハメド(と仮に呼んだ老人)」
総合点:9票 20の扉部門9票
20の扉部門ShiMa【
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「人間誰しも持っている暗黙の了解を覆される感覚を味わえます。」
2017年10月21日23時
20の扉部門ナ。ビスコ【
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「うん!素晴らしい問題です。答えは問題文に表記されていたのですね。ぜひとも納得部門に投票したいです。」
2017年06月13日20時
20の扉部門SoMR【
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「これぞ水平思考と言う他はない.」
2016年11月17日03時
20の扉部門春雨【
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「カタカナ4文字という指定が、様々な役割を果たし納得感を上げています。チャーム・物語性を兼ね備えた味のある一品」
2016年07月26日20時
20の扉部門蓮華【
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「美しいトリックです。アイデアをどのように問題に料理するのか、牛削りさんの脳内を見てみたいです。物当てになりがちな20の扉でここまで質の高い水平思考問題はなかなかないと思いました。」
2016年05月11日09時
20の扉部門ごがつあめ涼花【
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「騙されました。これまで想像もできないほど鮮やかなトリックです………!」
2016年05月10日21時
20の扉部門のりっこ。【
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「素晴らしい。 推考意欲を増進させる高チャームの扉であり、本当に納得の解説。 ストーリー性も高く、凄く魅力的な水平思考問題です。」
2016年05月10日21時
20の扉部門ツォン【
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「トリック部門に投票したい一品です」
2016年05月10日20時
20の扉部門屋上【
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「モハメドで油断させておいて解説の重さに震え止まらず。20の扉でここまでの提言を突きつける牛削り氏はもはや巨匠の域」
2016年05月10日20時