ある日私は、今まで失っていたものを部屋の中で見つけた。
ずっと探していた。
無くなったと思っていたペン。
ずっと探していた。
あの時捨ててしまった母の形見の櫛。
私はそれらを見て、今までの遠回りな道のりをひどく後悔した。
一体どうしてだろう?
14年01月26日 01:44
【ウミガメのスープ】【批評OK】
[ruxyo]
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アパートに住む私は、時折、身の回りの小物が無くなってしまう事に頭を悩ませていた。
部屋を探しても見つからない。捨てた覚えもない。結局どこへ行ったかは分からなかった。
ペン、歯ブラシ、櫛、スプーン・・・無くなったものは多岐に渡る。
そんなある日、下の階に住む女が部屋から出て行くのを見届けた私は、かねてからの計画を実行に移すことにした。
その計画とは、彼女の部屋にベランダからこっそり忍び込むという計画。
何を隠そう、私は彼女の熱烈なストーカーなのだ。
・・・
彼女の部屋に忍び込んだ私は、猛烈に感動した。
私が今まで欲しいと思っていた「お宝」で溢れかえっている。
彼女の使ったストロー、彼女の使った箸、彼女の使ったコップ・・・
少し散らかった彼女の部屋は、私にとっては楽園としか思えなかった。
しかし、彼女の部屋には見覚えのあるものが余りにも多すぎた。
ペン、歯ブラシ、櫛、スプーン、挙句の果てには昨日捨てた弁当の割り箸・・・
私が無くしたものや、捨てたはずの小物たちが、彼女の部屋には溢れかえっていた。
一瞬意味がわからなかったが、同じ境遇の私には理解は容易であった。
私が今まで無くしたと思っていた物は、彼女のもとにあったのか。
なんと、彼女は私の熱烈なストーカーだったのだ。
それも、私よりずっと前から、私の部屋に忍び込んでは色んな物を盗んでいたのだった。
ああ、今まで、なんて遠回りな事をしていたんだろう。
ストーカーなんて回りくどいことをしていたからこそ気付かなかった。
私達は既に<両想い>だったのだ。
・・・
ストーカー同士の歪んだ恋を、気持ち悪いと思うだろうか?
もし、今ストーカーをしている人が見ていたら、どうか素直に気持ちを打ち明けて欲しい。
私のように後悔する前に。
まあ、警察を呼ばれても、責任は取れんがね。
総合点:10票 納得感:3票 伏線・洗練さ:1票 物語:5票 斬新さ:1票
納得感部門蓮華【
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「とても遠回りな道のりですが、歩き切った先は幸せなのでしょうか…?一行目の表現がうまいです。」
2016年07月03日23時
納得感部門からてちょっぷ【
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「その発想はなかったです 実際に起こり得る可能性は低いことだろうけれど、容易に想像できる情景でした〜 納得!」
2015年11月21日09時
伏線・洗練さ部門からす山【
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「この状況を思いつくだけでも凄いですが、それをこのきれいな表現の問題文に……。とてもまとまっていて見事です。」
2017年10月01日21時
物語部門からす山【
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「素敵な物語……のような、違うような……いろいろ考えさせられる、つまり上質な物語ということです。」
2017年10月01日21時
物語部門春雨【
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「こう表現するのかーという感動」
2015年09月23日22時
物語部門フィーカス【
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「「失くした物」を見つけた時に「遠回りだった」という語り手の心境。こんな話はなかなか思いつくものではないでしょう。解き進めるにつれて明らかになる驚愕のストーリーは必見です。」
2015年07月21日10時
物語部門とかげ【
投票一覧】
「なくした物を見つけた私の、後悔の理由がなんというかもう……ruxyoさんの頭の中はどうなっているのだろうと怖くなる、驚くべきストーリーです。」
2015年05月24日14時
物語部門牛削り【
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「美しくないようで美しい、あるいは美しくない、ある愛の物語。」
2015年05月04日12時
斬新さ部門エリム【
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「よくある『とある設定』が用いられているんですが、それをこう料理するのか!という驚きがあります」
2015年09月25日00時