彼は毎年結婚記念日に彼女にプレゼントをする。
彼女もそれを毎年楽しみにしていた。
5年目のその日はちょっと趣向が変わっていた。
「手紙・・・?」
彼から手紙が届いたのだ。
手紙の指示通りにすると、彼女は大事なものを奪われてしまった。
毎年彼女に与えていた彼は、この時だけは奪ったのだ。
そのせいで二人は決別した。
状況を補完してください。
12年12月13日 22:01
【ウミガメのスープ】【批評OK】
[水上]
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今年は何が届くのかな?
彼女は彼からのプレゼントを心待ちにしていた。
結婚記念日のプレゼント。1年目は大きなクマのぬいぐるみ。2年目はそのクマに着せる為のベストと帽子。3年目はクマとお揃いの彼女の為のベストと帽子。4年目はそのクマより一回り小さい可愛らしいクマのぬいぐるみだった。
「手紙・・・?」
今年は1通の手紙。彼女は便箋を開け、手紙を読み始めた。
「ご無沙汰しています。元気にしてますか?あんまり元気なのも釈然としない俺は身勝手かも・・・。君が変わっていなければ明日はお休みのはずだよね?明日の午後14時に◯◯大学の俺の(といっても俺はもういないけど)研究室まできて欲しいんだ。何度か来たことあるし場所は大丈夫だよね。そこに今年のプレゼントを用意しておきます」
「彼の字…懐かしい、な」
手紙は1年目の結婚記念日の時以来だった。
彼はもうこの世にいない。それなのに突然プレゼントが届いた時はビックリしたものだ。
彼女は余命幾ばくかの自分と結婚してくれたのに、自分の命は一年も持たない…彼は彼女にバレないようにコッソリとサプライズを用意していた。
それが一緒に祝えなかった結婚記念日のプレゼントだった。
あくる日、彼女は手紙の指示に従って彼の研究室を訪れた。
「サエちゃん、久しぶり。お待ちしてました」
彼の親友であり、同じ研究者の田山が彼女を迎えた。
「ご無沙汰しています。今日は一体どういうことなのかな?手紙には詳しいことが書いてなくて…」
「うん、とりあえずサエちゃん、こっちにきてもらっていい?」
先導する田山について行き、いかにも研究室然とした一室に入ると、部屋の中央にポツンとおいてある椅子に彼女は座らされた。
「ゴメン、サエちゃん。ちょっとチクッとするよ」
なんの前触れもなく田山が彼女に何かを注射した。
「ちょ、ちょっと田山さん、一体何をする・・・」
彼女はそれ以上言葉を紡げなかった。意識はあるが体に全く力が入らない!?
「全くリョウのヤツ、こんな犯罪者みたいなことをさせやがって・・・、僕がホントに犯罪者だったらどうすんだよ」
田山は何かを準備しながらつぶやいている。
「ゴメン、サエちゃん怖い思いさせて。って、さっきから僕謝ってばっかだな・・・。リョウから手紙を預かってるんだ。僭越ながら僕が代わりに読ませてもらうね」
「サエコ。田山に何か乱暴なことはされてないかな?いや、あいつのことだから今頃俺の分まで謝っているんだろうな。俺の予想だと去年の今頃には俺たちの研究は成功しているはずだ。人間の記憶をピンポイントに消去させる、その方法で今から君の俺に関する記憶を失くしてもらうね。これが俺からの最後のプレゼント、俺のいない、新しい君の人生だ」
田山は途中嗚咽を漏らしながらも、手紙を読み切った。
「ゴメン、ゴメンね、サエちゃん。あいつのことを忘れるの嫌だよね?でもあいつの気持ちも分かるんだ・・・」
彼女は全く動かない自分の体に呪詛の言葉を吐きながら、頭の中で田山に懇願した。
(ダメ!絶対ダメ!!私からリョウ君を取らないでっ!イヤだっ!イヤーーーーーーッッッ!!!)
だが無常にも彼女の意識は薄れ、彼女は深い眠りに落ちていった・・・
3年後。
「次はどこいこっか?」
「俺もう疲れたよ、どっかに入って休みたい!」
「もう体力ないんだから、最後にあのぬいぐるみ屋さんに入らせて!」
「あんなファンシーな店、俺には無理じゃね?ってちょっと引っ張るんじゃない!・・・ってサエ、どしたん?」
どしたん?と聞かれても、彼女にも何がなんだかわからなかった。
ただ目の前のクマのぬいぐるみを見ていると、何故だか涙が止まらないのだ・・・
総合点:2票 物語:2票
物語部門SoMR【
投票一覧】
「「奪う」、なるほど。胸が痛い。」
2016年08月26日12時
物語部門とかげ【
投票一覧】
「結婚記念日に毎年彼女へプレゼントをしていた彼が、5年目には彼女の大事なものを奪ってしまう。切なく哀しく、そして温かいストーリーでした。タイトルも素敵です。」
2015年07月19日13時