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ウミガメのスープ 本家『ラテシン』 
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【猛者のスープ】存在喪失ダイアリー(問題ページ

紙に筆記体でdiaryと綴られたシンプルな日記帳。

8月23日
ずっと友達だった。ずっとそれが続いていくのかと思ってた。
私にとってそれはすごく嬉しくて少し寂しいこと。
でもその関係は今日唐突に終わりを迎えた。
竜二くんから告白された。
自分が思っていた以上に嬉しかった。
私は今日から竜二くんの彼女になったんだ。
でも付き合うって何したらいいんだろうね。

8月30日
竜二くんに初めてデートに誘われた。
そのことを考えると頭の中が幸せでいっぱいになる。
竜二くんの車でドライブ。何着ていこうかな。
記念すべき初デートなのに、どうやら明日は雨みたい。天気のバカ。
でも竜二くんと一緒なら絶対楽しいはず。
早く明日が来ますように。

10月5日
時間が過ぎるのは早い。
竜二さんと付き合ってもう一ヶ月以上も経っている。
彼はずっとそばにいてくれて、不安定な私を支えてくれる。
私は大丈夫。きっと大丈夫。
竜二さんまだ起きてるかな? ちょっとだけ、会いたいな。

今から会いに行きます。



初めて早苗の日記を読んだ竜二は、そこに僅か1cmにも満たない直線を何本か書き足した。
それを見た早苗は竜二をもっと好きになった。

そして今、10月17日の日記を書き終えた早苗は自分の手首にカッターナイフで直線を描いている。
自らを死に至らしめるために。

早苗の日記の内容から彼女が自殺行為に至る理由を考察せよ。
16年09月23日 21:00
【ウミガメのスープ】【批評OK】 [ポトフ]



解説を見る
皮製の黒無地の表紙、シンプルな手帳

8/24
頭がわれるように痛い
人生初の二日よい
サナ姉のあんなうれしそうな表情はじめて見た
オレはいつも弟あつかい
ああウツだ。死ぬる

8/31
交通事故、イチ兄サナ姉こんすい?
〇〇市〇〇町2-55
〇〇県立総合病院
部屋 308号

もう3時だ
だめだねれる気がしない
イチ兄、いきなりすぎるよ
オレあの日からぜんぜん話せてないじゃん
もっと話したかった、言いたいことたくさんあった
明日そうしきだってさ
ひさしぶりに愛護院のみんなが集まるよ
あいつらちゃんとも服持ってんのかな?
なあイチ兄。なに死んでんだよ。サナ姉のことどうすんだよ

9/2
サナ姉が目覚めた
でも忘れてた
オレのこともイチ兄のことも愛護院のみんなのことも全て
そんなことあんの? なあイチ兄、オレどうすればいい?

9/3
ひさしぶりに入ったサナ姉のアパート
保険証さがしてたら日記があった
イチ兄の名前が多い
竜一くん竜一くん竜一くん竜一くん
気がついたらペンを持ってた
ごめんイチ兄

9/10
オレをさん付けで呼ぶサナ姉
それでもいい。今はいっしょにいれるだけでいい
サナ姉にたよられている。それだけでオレはなんでもできる
これからはオレが早苗を支えていく
イチ兄は、もういない

10/17
早苗がオレを呼び捨てで呼んだ
竜二、ごめんなさいだって
あやまるのはオレのほう
ちゃんとあやまらせてほしい
早苗、サナ姉、電話に出てくれよ


【要約解説】
竜一竜二兄弟はそれぞれ早苗に対して恋心を抱いていた。

8月23日、竜一は早苗に告白し、早苗はそれを受け入れた。

8月31日、ドライブデート中の二人。
車を運転していた竜一は飛び出してきた猫を避ける為にハンドル操作を誤り、電信柱に激突。
竜一はその事故で死亡。早苗は記憶障害で過去の記憶を失ってしまう。

9月3日、保険証を探しに早苗の部屋へ入った竜二はそこで一冊の日記を見つける。
表紙に筆記体でdiaryと綴られたシンプルな日記帳。早苗の日記である。
日記を開くと竜一との思い出の羅列。まだ早苗への思慕を断ち切れていない竜二は、
竜一の「一」に直線を付け足し、竜「一」から竜「二」に変えた。

改竄された自分の日記を見た早苗は過去に自分が竜二と付き合っていたと誤認。
竜二のことは弟のように可愛がっていたが、その記憶はなくなり、恋人として竜二と接するようになった。

10月17日、早苗の記憶が戻った。
死んでしまった竜一への思慕。日記を改竄するほど自分への恋心を募らせていた竜二の想い。
早苗は両者の顔を思い浮かべ、竜一への想いを貫く道を選択した。

早苗は日記に「今から会いに行きます」とだけ書き、そして自分の手首にカッターナイフで直線を描いた……

























































8月30日
8/30
あれからちょうど一年。
あれからちょうど一年たった
あなたのお墓の前。
イチ兄のはかの前
神妙に目を瞑っている竜二の横顔が
いっしょに手をあわせてるサナ姉は
なんだか少し頼もしい。
前にすすむことを決めたみたいだ
だから
だから
私は大丈夫。
安心しろよ



さようなら、竜一くん。もう忘れないよ。

総合点:8票  伏線・洗練さ:5票  物語:3票  


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伏線・洗練さ部門弐閃
投票一覧
「細かな一つ一つの要素が練りこまれています」
2017年08月28日02時
伏線・洗練さ部門けんこうこつ
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「早苗の日記に配置されたクルーはどれも、文章の雰囲気を損なうことなく自然に溶け込んでいる。竜二の日記との対比も素晴らしい。細かな表現にも出題者の気遣いが感じられる、美しい構成の良問。」
2016年10月10日22時
伏線・洗練さ部門松神
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「「もっと好きになった」という言葉にここまで唸らされる日が来ようとは。元から好きであるということに間違いはなく、もっと好きになったという言葉にも偽りはない。この言葉の好きの度合いの違いに思い至らせない巧妙な問題文、そしてそこに最終的に至るように仕組まれたあからさまな謎たち。大切な言葉の力を何一つ損なうことなく完成されたこの問題はまさに洗練されたものであると言って良いと思います。」
2016年09月24日11時
伏線・洗練さ部門エリム
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「問題文を一読するとわかる違和感。何だ簡単じゃないか・・・と思うなかれ。では、竜二の引いた直線の意味とは? そして日記の真の意味とは? これが全て明かされて解説に進むと・・・。日記形式という表現を最大限に生かした問題であり、物語でもあります。問題の要素と直接関係はありませんが、物語性豊かな解説の終盤の描写、構成の美しさにうならされます。」
2016年09月24日01時
伏線・洗練さ部門春雨
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「「竜一」を誘う竜二という名前、敬称の変化、天気、「ドライブ」、「不安定」、「会いに行く」、「日記」……素晴らしいクルーの数々を正に「直線」で結んだ美しさ。解説の視点・口調の変化、日付のフォーマットなんかも小粋です。」
2016年09月24日00時
物語部門からす山
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「悲劇に次ぐ悲劇、救いようのない物語……と思わせて、しかし、最後はハッピーエンド、前を向いて生きる二人。最後の「もう忘れないよ」の一言が印象的で、感動的です。」
2017年08月20日09時
物語部門ゴトーレーベル
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「登場人物それぞれの思いがしっかり考え込まれています。それがすべて日記の内容に落とし込まれ、ウミガメの問題になりました。正統物語派問題と言いたいです。なかなか、ここまで真正面なものは作れないものなのです。」
2017年08月19日13時
物語部門かもめの水平さん
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「実際に一つの小説としてありそうなトリックと、悲恋性、ミステリ小説か純文学として読みたい一作」
2016年10月12日08時

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