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ウミガメのスープ 本家『ラテシン』 
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項目についての説明はラテシンwiki

MOTHER(問題ページ

績業で財を築き上げた西園寺家。

その西園寺家の現当主、西園寺響子の娘の名を亞莉珠という。

ある日、亞莉珠は西園寺家の家政婦である寿美子と共に買い物に出掛けたのだが、
寿美子が目を離した瞬間、亞莉珠は道路に飛び出し、車に撥ねられてしまった。

亞莉珠は重症を負ったが命は助かる。
医者からその話を聞かされた瞬間、寿美子は手術室に飛び込み、
手術台に横たわる亞莉珠のその細い首を締め付け、殺してしまった。

自分の娘のように亞莉珠を可愛がっていた寿美子。

寿美子はなぜこんな行動を取ったのだろうか?



水上のワンポイントアドバイス。
亞莉珠を打ち込むのが面倒なときはアリスでいいですよー。
15年07月18日 23:12
【ウミガメのスープ】【批評OK】 [水上]



解説を見る
い深い夜。

しっとりと西園寺家の庭の草木を濡らしていた雨は、
いつの間にか雷鳴と共に勢いよく窓にぶつかる風雨へと変わっていた。

夜中だというのに西園寺家ではガタガタと震える窓の音も、
切り裂くような雷鳴も負けてしまうような怒号が響き渡っている。

「手ぬぐいが足りん!それからお湯!さっさと持ってこんかえ!」
「ほれ!もっとしっかりいきみんさい!」

このご老体の大声も致し方ない。
産婆として呼ばれたのは彼女一人だけ。しかし産気づいたのは二人もいたのだ。

西園寺家の当主、西園寺響子。
またその西園寺家で代々住み込みで働いている家政婦の西宮寿美子。

こんな嵐の夜なのにコウノトリは二人いっぺんに赤ん坊を連れてきたのだった。

「オギャアアアア」
先に産声をあげたのは響子の子供。

「オンギャアアア」
遅れて5分後、次は寿美子の子供の産声が響き渡る。
いつの間にか嵐は止んでおり、朝の光がカーテンと共に揺れていた。



・・・・・・



寿美子はベッドに横たわる我が娘の顔を愛おしく眺めていた。
その隣のベッドには響子の娘。しかし母である響子は出産で体調を崩し
別室に臥せっている。

寿美子と二人の赤ん坊。今この部屋にいるのはこの三人だけ。
寿美子は産後の気だるい体を持ち上げ、二人の赤ん坊を見比べる。
響子から生まれた赤子のほうが品格のある顔になっているに違いないという
寿美子の先入観はすぐに霧散した。

産まれたての赤ん坊の顔にそれほどの個性はなかった。

(どっちがどっちの子かわかんないわね)
くすりと微笑み、わが子の頬を撫でる。

「どっちがどっちの子か、わかんないわね…」

寿美子は頭の中で思っていたことを知らずに口にしていた。
先ほどまでの微笑はさっぱり消えてしまっている。

寿美子の頭の中で蠢く黒い想念。
資産家である響子の娘としての人生。
その下で働く家政婦の娘としての人生。

その重量を持たない二つを天秤の上に乗せてしまった寿美子。
寿美子の望むほうに傾いたのは「響子の娘としての人生」だった。

三人しかいない部屋。その部屋を何度も見回す寿美子。

そして、その震える手で、

  響子の娘を自分のベッドに、

    自分の娘を響子のベッドに、

                   移し変えた。



・・・・・・



「重症ですが命は助かります。一刻も早く輸血の準備を

医者のその声で意識が戻る。

8年前の己が罪を思い出し一瞬忘我していた寿美子。

医者の吐いた言葉をもう一度頭の中で組み立てなおす。
輸血・・・医者は確かにそう言った。


それは、拙い。

寿美子の血液型はO型、その夫の血液型もO型。

亞莉珠が自分の娘であるならばO型でなければならない。

しかし、西園寺響子はB型、その夫はAB型。
この組み合わせではO型は生まれない。

血液型を調べられたら寿美子が亞莉珠の母親ではないことが明るみになってしまう。


自分が亞莉珠と名付けた響子の娘。
8年間、自分の娘のように可愛がって育ててきた。

しかし自分が愛しているのは西園寺響子が曜子と名付け、
西園寺家の長女として育てられている本当の自分の娘。


寿美子は自分の娘の明るい未来を守るために、亞莉珠がいる手術室に乗り込んだ。
総合点:6票  チャーム:1票  伏線・洗練さ:3票  物語:2票  


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チャーム部門letitia
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「多くの人が問題文を一目見て「あのトリックかな」と予想がつき、事実解説もその通りなのだが、その予想こそが先入観になる。「解けそう」なのに「しっくりとくる答えがなぜか掴めない」というこの絶妙な感覚。」
2016年01月13日19時
伏線・洗練さ部門letitia
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「隠された事実はたった一つだけ。決して複雑な謎ではないはずなのに、解説を知ってから何度も問題文と見比べなくては、真実の物語が消化できない。目の前に答えがあるのに3D映像のようにつかむことができない、大胆でいて緻密な表現に感服です。」
2016年01月13日19時
伏線・洗練さ部門ドタオング
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「物語の深さ、チャームの高さ、納得感、そして洗練された文章。畏敬の意を込めて投票させていただきます。」
2015年07月19日19時
伏線・洗練さ部門芳香
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「解説を読んだあと、意味を呑み込むために問題文を読み返すとその真にようやく気が付きました。美しい問題だと感じます。」
2015年07月19日02時
物語部門とかげ
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「家政婦は、当主の娘を自分の娘のように可愛がっていたのに、なぜ殺してしまったのか。複雑に思えた真相だが実は至極単純で、だからこガツンと心に来る。確かにこれは、母の愛なのだ。」
2016年08月27日12時
物語部門牛削り
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ネタバレコメントを見る
「人が人を殺すとはどういうことだろう。怒りや憎しみを抱えながらも、大抵の人がその手前で踏みとどまる「殺人」への境界には、一体何があるのだろう。当問題で問われているのは「主人公の殺人の理由」である。どんな理由があれば、主人公の犯罪に納得できるだろう。それは取りも直さず、「私(参加者)はなぜ、今まで人を殺さなかったんだろう」という根本的な問いを想起させる。その壮大な問いに答えることは、非常に困難に思える。しかし出題者は、主人公の抱える秘密と愛情を狂おしいほど赤裸々に描くことで、そのハードルを見事に越えてみせた。」
2016年02月09日15時

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