会社の新商品開発のために、協力者達に毎日の食事内容をメールしてもらっているのに、上司はそのメールのデータを捨てるよう指示した。
どういうことだろう?
15年02月20日 22:53
【ウミガメのスープ】【批評OK】
[とかげ]
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次々に送信されるメールを確認し、サケカワは上司のイワシタに声をかけた。
「アンケートに協力してくださった消費者の方々ですが、毎日きちんと食事の内容をメールしてくださってるっす。一週間分溜まったんすけど、どうしたらいいっすか?」
ウミガメ・コーポレーションはこのたび、新商品開発のための手始めとして、消費者の日頃の食事について調査しているのだ。
この後データを分析して、商品開発に生かすのだけれど、イワシタの指示はサケカワの予想を大きく外れたものだった。
「ああ、そのデータは捨ててくれ」
「はい、わかり……ええっ!? マジっすか!?」
サケカワは思わずイワシタに詰め寄る。
「イワシタさん、せっかくアンケートにご協力いただいたのに、データ捨てちゃうだなんて、失礼っすよ! 何のためにアンケート取ってるんスか!?」
サケカワが慌てるのも無理はない。結構な人数の消費者に参加してもらっているし、そのための謝礼もきちんと用意している。市場調査としてはそれなりに大きなプロジェクトとして進めてきたのだ。
「アンケートはもちろん活用する。ただ、最初の1週間分のデータはいらない」
「え……なんでっすか? 皆さん、すっげー気合い入れてるみたいで、かなりウマそうな料理の写真とか、豪勢なメニューが並んでるんすよ…?」
「だからだ」
イワシタは、サケカワが持ってきたデータを具体的に示し始めた。
「この人、最初は主菜に副菜何品か、汁物、デザートとメニューが何種類もあって、食卓も華やかだけれど、7日目の今日は品数も減ってるし、見た目も地味だ。こっちの人は多国籍料理みたいなのをつくってたけど、昨日の夕飯はザ・家庭料理という感じ。これはこれでウマそうだがな」
「まあ……確かに、序盤と一週間後の今日では、ちょっと変わってきている人もいるみたいっすけど……」
「仕方ないことなんだよ。普通、アンケートで毎日食事の内容を送れって言われて、自分ならどうする? 正直に毎日の食事を送るか?」
「いやー……カップ麺とビールとかだったりするんで、いつもの食事はちょっと見せられないっすねー。買ってくるにしても見栄張って豪華にしたり、普段料理しないのに作ってみたりするかもしれないっすねー……」
「そう、ということは、見栄を張った食事は、本当の普段の食事ではないってことになる」
なるほど、とサケカワはうなずく。
「だからこその長期にわたるアンケートなわけっすね。最初のうちは気合い入れていつもと違う食事になるけど、ずっとは気合いを入れ続けられないから、しばらくすると普段通りの食事になるわけっすか」
「そうだ。そして、そういった普通の食事こそ、わが社が今求めているデータなんだよ」
イワシタの説明に大いに納得したサケカワは、おとなしく席に戻ろうとした。しかし。
「サケカワ君、わが社は食品加工会社なんだから、社員の君も、ちゃんとした食事を摂るようにね」
「……善処するっす」
END
見栄を張った協力者達が、普段より豪勢な食事や品数のレポートを書いてきてしまうため、序盤のデータは分析に使えないと判断したため。
総合点:4票 納得感:3票 伏線・洗練さ:1票
納得感部門フィーカス【
投票一覧】
「聞けばナルホドの納得感、実生活でも応用できそうです。」
2015年05月15日04時
納得感部門ディダムズ【
投票一覧】
「実社会でもあり得るというだけあって抜群の納得感。【ネタバレ防止】の重要さが実感できる問題です。」
2015年03月01日19時
伏線・洗練さ部門kinnsada【
投票一覧】
「データというのは見る側面によって姿を変えるもの。その楽しさを再確認させてもらいました。」
2016年06月02日21時