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ウミガメのスープ 本家『ラテシン』 
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歯車(問題ページ

しぶりに職務に復帰した裁判官が復帰後初めて担当したのは、ある轢き逃げ事件の裁判だった。

被告は、通行人を車ではねてそのまま逃走したという若い男。男は罪を認めており、証拠も問題なく揃っている。
少なくとも有罪は間違いないだろう……そう思っていた裁判官だが、事件の経緯を調べるうち、自分はこの男を裁くべきではないのかもしれないという不安に駆られ始めた。
いったい何故だろう?
17年03月29日 18:04
【ウミガメのスープ】【批評OK】 [az]



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臓の病気を患い、しばらく仕事を離れて入院していた裁判官。もはや移植しか治療の手段がない状態だったが、思いのほか早く適合するドナーが見つかり、移植手術を受けることができた。術後の経過も順調で、手術から2ヶ月後には仕事に復帰することとなった。


そして今。

裁判官の目の前には、担当する轢き逃げ事件の経緯をまとめた資料がある。
資料によると、被告の男は車で通行人の女性をはね、適切な措置を取ることなく現場から逃走。女性は病院に搬送されたが、処置が遅れたことも災いし、程なくして脳死の判定がなされたという。
その後……女性が事前に意思表示をしていたこともあり、いくつかの臓器が移植に使われたそうだ。

どの臓器が誰に移植されたのか、それは資料には記されていない。調べる術もない。だが……。

裁判官は考える。
タイミング的には、自分が手術を受けた時期とちょうど一致するのではないか?つまり……移植に使われた肝臓は、この女性のものだったのではないか?

裁判官はさらに考える。
では……もし男が事件を起こさなければ、自分はどうなっていたのだろう? あるいは事故を起こしても、その場ですぐに救急車を呼んでいれば? 女性に何事もなければ、無事に助かっていれば……自分はどうなっていたのだ? 未だ病院のベッドの上か、あるいは……。

つまりこの被告の男は、結果的に自分にとって命の恩人なのではないか?


確かめる術はない。まったくの思い過ごしかもしれない。だが、思い過ごしだと言い切ることもできない。裁判官の脳裏を、苦しい闘病の記憶がよぎる。己の体はいつまで持ちこたえるのか、果たして明日の朝は来るのか、不安に震えて眠る夜……。


命の恩人かもしれないと思いながら、男を、男の罪を、客観的に裁くことができるだろうか? 冷静に、公正に裁判を進められるだろうか? 事件を起こしてくれてありがとうなどと思わないでいられるだろうか?

それとこれとは別だと、頭ではわかっている。だが、そう割り切って考えられるか、裁判官は自分に自信が持てなかった。客観的に裁判を進められる自信が持てない以上、自分はこの被告を裁くべきではないのかもしれない……。裁判官は頭を抱えた。


【要約】
臓器移植によって病気療養から復帰した裁判官。轢き逃げ事件の経緯を調べるうち、この事件の被害者が自分に臓器を提供したドナーである可能性に思い至る。結果的には、ある意味で被告の男によって命を救われたとも言えるかもしれない。そう考えた裁判官は、自分が冷静に、客観的に被告を裁くことができるか、自信が持てなくなった。
総合点:3票  伏線・洗練さ:1票  物語:2票  


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伏線・洗練さ部門SoMR
投票一覧
「(SpMRと書いてはありますがはっきり言って僕は本当に何もしていないので堂々と投票します笑) 「裁くべきではないかもしれない」という若干曖昧な表現が本当に「裁くべきではないかも」。物語としては相当複雑な部類に入ると思うが、それは決していたずらに難易度を高めるための複雑さではなく、作者のやりたい事はむしろシンプル、この複雑さで結末がスッと入ってくるのは、作者が普段から意識していると思われる“問題文を洗練させる”という試行錯誤の賜物としか言いようがない。ウミガメ基礎力というのはこういうところで生きてくるのだ。」
2017年03月29日20時
物語部門甘木
投票一覧
「極めて高いストーリー性を含んだうえで、見事にウミガメ問題として成立させています。」
2017年09月25日01時
物語部門ロゴス=バイアス
投票一覧
「「裁判官」という職業においては絶対に持ち込んではいけない私情。それでもなお、納得してしまう物語性に一票を。」
2017年03月29日21時

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