難病の少年ヘイジとプロ野球選手の大山は、ある約束をした。
次のシータートルズ戦で大山がホームランを打てたら、ヘイジも勇気を出して手術を受ける、と。
迎えた試合当日、大山はホームランを打てなかった。
しかしヘイジは勇気をもらい、手術を受けることにした。
どういうことだろう?
15年07月29日 20:56
【ウミガメのスープ】【批評OK】
[牛削り]
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ヘイジは思った。
大人はズルいと。
大山が最後の打席で三振した時、実況はこう言った。
「出たー! 大きなホームランです! 大山が奇跡を起こしました!!」
ヘイジの抱える症状は、目が見えないということである。
しかし画面を見ずとも、大山がホームランを打てなかったことはわかった。
観客席から聞こえる音の雰囲気は、ホームランの時のそれとはまるで違った。
実況は嘘をついているのだ。
あの約束──大山がホームランを打てば、ヘイジも手術を受けるという約束は、大山とヘイジの間だけで交わされた、はずだった。
しかし大山は、直後からメディアで盛んに喧伝した。
「僕はある全盲の少年と約束したんです。次のシータートルズ戦でホームランを打てたら、彼も目を治す手術を受けてくれるってね」
世間は情に厚いスラッガーと名も無き可哀想な少年への応援ムード一色となった。
ヘイジは思っていた。
大人はズルいと。
そしてそのズルさに気づいていない、と。
手術に対する不安は、痛みへの恐怖だけではない。
成功率が高いとは言え、失敗する可能性も十分にあるし、まだ見ぬ世界は目を背けたくなるほど醜い姿をしているかもしれない。両親の金銭的負担だってある。
勇気を出す、というのは、それらのハードルを越える決断をする、ということである。
第三者が美談に飛びつく安易さで決断させていいものではない。
大人はいい人でありたがる。
目の前に勇気を出せない少年がいれば、勇気を出させてあげるのが良いことだと思い込んでいる。
そのためには日々必死で練習している選手たちの努力を踏みにじってもいいし、全国に中継されている番組で虚偽の実況を行ってもいい。
だってその方が美しいから。
まるで善意による暴力だとヘイジは思った。
ヒーローインタビューは、大山だった。
「ヘイジ君、約束通りホームラン打ったよ! お前も勇気出して手術受け」
ヘイジはテレビの電源を切った。
しかし彼はその後、手術を受けることに決めた。
大山が三振を決めた時、彼の心の目は、確かに見ていたのだ。
"善意の暴力"に晒され、四面楚歌の中、それでも逃げ出さずに全力投球を貫いた、勇気ある投手の姿を。
【要約解説】
大山とヘイジの約束はメディアで喧伝され、世間が応援ムード一色となった。
しかしそんな中、あらゆるものを敵に回しても最後まで全力投球を貫いた相手投手の勇気ある姿に、ヘイジは感銘を受けたのである。
総合点:3票 物語:3票
物語部門YOUSUN【
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「『勇気』のない卑怯な人間からは『勇気』をもらうことは出来ないのです。本当の『勇気』とは何か、考えさせられます。」
2017年07月15日13時
物語部門芳香【
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「素晴らしい(ネタバレのため伏せ字)です。」
2015年07月31日20時
物語部門エリム【
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「スポーツファンとして・・・ここまでドラマチックではなくても、日々このようなことは起こっているのです。このことに気付いた聡明なヘイジに幸あれ。」
2015年07月30日00時