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ウミガメのスープ 本家『ラテシン』 
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うしけずりのはつこいのはなし 〜その3・ばいばい〜(問題ページ

えた卒業式の日。
校長の話を聞き流しながら、牛削りは3年間の中学校生活を思い返していた。

1年生。クラスメイトの芽訪れさんに恋をした。放課後におしゃべりをするのが楽しくて仕方なかった。
2年生。クラスが別々になり、話す機会もなくなった。もう一度仲良くなろうと奮起するも実らず。
3年生。もはや奮起することさえ諦めて、恋心を鎮火しようと無駄な努力をした。

そして高校は別々になってしまった。

今までも会う機会は少なかったが、来春を迎えればもっと会えなくなる。
このままでいいのか?

長い自問自答の末、式典の終わり頃になって、ようやく牛削りは決意した。


よくない。芽訪れさんに気持ちを伝えたい。


するともう居ても立ってもいられなくなり、最後のホームルームを終えるとすぐに、

学校を飛び出し全力で駆け出した。



……ってなんで? 芽訪れさん放っとくの?
14年10月18日 20:34
【ウミガメのスープ】【批評OK】 [牛削り]



解説を見る
*

「うしけずりのはつこいのはなし 〜その1・あくしゅ〜」
http://sui-hei.net/mondai/show/12288
「うしけずりのはつこいのはなし 〜その2・せなか〜」
http://sui-hei.net/mondai/show/12440




雪のちらつく3月吉日。
市内の高校はほぼすべて、今日卒業式を迎えている。
芽訪れさんも今頃、寒さに手を擦り合わせながら校長の話を聞いているのかな。
壇上でいろんな人が話をしたが、僕の耳には残らなかった。

思えば高校時代、僕はいつもどこか上の空だったかもしれない。
初恋の人、芽訪れさんと過ごした中学時代のわずかな時間を、四六時中思い返していたのだ。
高校では新しい友達もできたし、部活にも打ち込んだ。
それなりに楽しいこともあったはずなのに、卒業式の今日、思い出してしまうのはやはり中学校の3年間の思い出ばかりだ。

芽訪れさんの進路は風の噂で聞いている。関西の大学に行くらしい。
どんなことを勉強するのかはわからない。いつか、作曲家になるのが夢だと言っていた。そっち方面の大学だったらいいなと、なんとなく思う。

僕は関東のつまらない大学に進学が決まっていた。
もう下宿先も決めてきた。

今までは同じ地域に住んでいたから、たまに見かけることもあったけれど、来春からそう簡単には会えなくなる。

いいのか、このままで。

僕は式の間中自問し、そして決意した。
故郷を離れる前に、彼女に気持ちを伝えようと。

式が終わると僕は、芽訪れさんの高校に向かって一目散に走り出した。
1秒でも早く、彼女に会いたかった。
跳ね返る雪解け水がスーツのズボンを濡らしても、気にならなかった。

最後の曲がり角に差し掛かった時だった。

「あ」

思わず声が出た。
真っ赤な振袖姿の芽訪れさんが、小さな傘を差して歩いていた。

「あ」

彼女も僕に気づいたようだった。

「もしかして、牛削り君? どうしたの、こんなところで」
「あー、えーと」

何も考えていなかったことに気づく。
感情だけで走ってきたのだ。

「でも久しぶりだねー。そっちも卒業式?」
芽訪れさんが話題を変えてくれた。

「ねえ、ちょっと話す時間ある?」
「え? うん、クラス会始まるの、夕方だから。……あ、入る?」
傘を差し出してくれた。
「いや、小雪だから」

粉雪の降る中、僕たちは中学時代の話をした。
あの頃は話しかけられずにいたのに、話してみれば、話題はすらすらと出てくる。
雑談の合間に、いつ思いを告げようかとタイミングを伺っていた。

「そういえば関西の大学に行くって聞いたけど」
「うん、音大に行くんだ」
「おお、前に作曲家になりたいって言ってたもんね」
「よく覚えてるね。……あのね、星野さんのいる大学なんだ
「え?」
「星野さん。覚えてるでしょ?」

覚えている。芽訪れさんの好きだった人だ。

「星野さん、指揮者になりたくて勉強中なんだって」

憧れの人のことを語る彼女の顔は、いつか見たのと同じように、すごく嬉しそうで、眩しかった。


──そっか。


「私も星野さんと同じ環境で勉強して、一緒に夢を叶えられたらいいなって」


不思議に、悔しくも悲しくもなかった。
僕は、好きな人のことを語るときの笑顔も含めて、芽訪れさんのことが好きなんだ。

「ねえ」
語り続ける芽訪れさんを制した。

「なに?」
芽訪れさんが僕の方をまじまじと見る。

「あのさ」



初恋は──


「時々、星野さんとの話聞かせてね。応援してるよ」


──初恋は、粉雪のように静かに。


静かに、散っていく。




──────────────────
易解説

高校の卒業式で、中学時代を思い返していた。
高校は別々だから、芽訪れさんに会いに行くため学校を飛び出した。
総合点:1票  伏線・洗練さ:1票  


最初最後
伏線・洗練さ部門SoMR
投票一覧
「実にじっくりとした丁寧な伏線と刷り込みからの水平思考!殆どあのワードが割れたらFAなのに,30越えるというのは,問題文の優秀さの表れ.質問2と19の「芽訪れさんはホームルーム後、学校内にいますか?」にYESNO分かりません←これが良い.絶対ニヤニヤしながらタイプしていたと思う.「学校に~」という質問が来たら,「YESNO分かりません」という回答ができる問題構成は恐らくは意図したものだと思う.こういう「おもしろ良質」ができる事を想定して問題を作るのも楽しいかもしれない.解説も素敵です.」
2016年11月17日03時

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