女に言われたとおり、絵を買ってきた男。
だが男はその後、絵を破り捨てて自分の仕事を始めた。
その男の仕事ぶりを見て、女はほくそ笑んだ。
状況を説明してください。
13年11月24日 23:22
【ウミガメのスープ】【批評OK】
[ノックスR]
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「私、貴方の絵がまた見てみたいな……」
唐突に、病床の妻がそうつぶやいた。
「な、なにいってるんだ……」
そう言って俺は、力なく俯いた。
俺は昔は、名の通った画家として知られていた。
だがある時、交通事故によって、右腕を失ってしまったのだ。
もう絵がかけない───それは、俺を絶望に突き落とすのには充分であった。
もう絵なんか見たくない……!
俺はそのあと耐え切れなくなって、家にあった絵はすべて処分し、家に閉じこもる生活となってしまった。
「絵なんか……」
そんな俺を、ずっと献身的に面倒を見てくれたのが、妻であった。
だが、ある日過労がたたって、妻は倒れた───余命はいくばくもないらしい。
「っ!」
俺は慌てて病院を出て、自分の絵を捜し求めた。
ようやく見つけた一枚の絵。
ずいぶんと若い、それでいて全盛期の作品だった。
俺はすぐに、その絵を大金をはたいて持ち主から買い取った。
これで妻は喜ぶ……!
そう思ったとき、ふと一つの疑念が浮かんだ。
妻は、何を求めているんだ……?
いまさら絵を見たいなんて……
ひょっとして……ひょっとして、何か思い違いをしているんじゃないか?
その時、いつかの妻の言葉が思い浮かんだ。
それは、まだ結婚する前の、ずっと前の記憶───
「私、貴方の絵も好きだけど、楽しそうに絵を描いている姿はもっと好きよ」
「っ!」
───妻の想いが、結婚して数十年。
今やっと分かった気がした。
俺はその絵を破り捨てる。
妻が欲しいのは「過去」じゃない。
「今」なんだ───!
───数時間後。
妻が危篤との連絡を受けて、俺は急いで妻の病室に向かった。
病室に入って。
医師や看護師が目を丸くする。
服は絵の具だらけ。髪はボサボサ。
そして左手に、なにかを抱えているものをまじまじと見つめた。
妻にゆっくりと近づく。
妻も俺の様子に気付き、そして目を丸くした。
「ごめん……今の……左腕だけの俺じゃ、こんな絵しかかけなかった……!」
そういって、おそらく画家人生の中で最低の出来ともいえるかもしれない絵を見せた。
───その時の妻の表情は、おそらく一生忘れない。
そしてそっと、絵の表面に触れた。
「───まるで、子供が描いた絵ね……」
「……うるせいよ」
「───これで、いいのよ」
妻はそう言って、そっとほくそ笑んで、息を引き取った。
どうやら俺は、最後の最後まで妻に迷惑をかけたらしい。
俺はこれからも、画家としてやっていけそうだ。
「これで、いいのよ」その言葉を、いつも胸に刻みながら───。
総合点:1票 物語:1票
物語部門牛削り【
投票一覧】
「解説だけでも楽しめます。感動。」
2015年01月13日19時