純血の吸血鬼であるコウタは、苦手なものしかないラーメン屋さんの常連。いつも我慢してラーメンと餃子を食べている。
なぜ?
17年06月23日 22:14
【ウミガメのスープ】
[日比野でんぱ]
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エリは特殊な血の持ち主。吸血鬼が生きるために飲まなければならない血液型の人間だった。
その特殊な血液型は世界にはもうエリしかおらず、吸血鬼にとって彼女は生命線といっても過言ではない存在だ。
コウタがエリを見つけた日。なんとあろうことか、彼女は手首を切って自殺しようとしていた。慌てて取り押さえるコウタ。
「いや、離して! 死なせてよ!」
言うことも聞かずに死のうとする彼女。「それは困るよ」とコウタは嘆く。
「何があったの? 僕でよければ相談に乗るよ」
彼の優しい微笑みに、エリはポツリポツリと語る。
「……実は私の中華店が大赤字で借金だらけで。もう生きていけないの」
これは一大事と、コウタは咄嗟にとんでもないことを口走っていた。
「僕が通うよ。君の店」
「え?」
「だから、僕が通う。毎日ラーメン食べに行く。チャーハンも、餃子も欠かさず食べる」
「でも、あなた吸血鬼だからニンニクはダメなんじゃないの?」
「構うもんか。君が死んだら僕も死ぬんだ。それぐらい我慢するよ。それに——」
「それに?」
「なんでもない。とにかく、僕が通う間は自殺なんて考えないでおくれ」
考えてみれば不思議な約束だ。しかし、それが彼女を踏みとどまらせて、彼を生きながらえさせている。
今日もまた、コウタはラーメンを食べにやって来た。暖簾をくぐると心地よい声が聞こえる。
「いらっしゃいませ。ありがとうございます」
コウタはいつも通りの笑顔のまま、彼女に言った——。
「いただきます」
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チャーム部門エリム【
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「解説を読めば、もしかしたら似た物語を考えたことがあるひともいるかもしれない。けれど、問題文に『ラーメンと餃子』をチョイスするのが実に美味しい。具体性があるが故に本質を隠し、具体性であるが故にとんでもない取り合わせのインパクトを高めている。」
2017年08月25日01時