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ウミガメのスープ 本家『ラテシン』 
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メッセージ(問題ページ

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あなたの元に、通信が入りました。


「助けてください!父さんが閉じ込められているんだ!」



---
これは亀夫君問題です。

あなたは直接物に触ったり、事件の場所に行くことはできません。

しかし、依頼人に指示を出したり質問することが可能です。

依頼人と通信しながら、問題を解決してください。
17年02月12日 10:05
【亀夫君問題】 [胡麻みそ]



解説を見る
る朝、私は一通のメッセージを受信した。
いよいよ“その日”が来たのだろう。一瞬の躊躇の後、私は覚悟を決めてそのメッセージを開いた。

しかし、それは予想したメッセージとは違うようだ。スクロールバーが小さくなるくらいに、非常に長い文章。
なんだか嫌な予感がした私は、慌てて車で飛び出した。“彼”の家までは1時間程で到着する。車内で、私はそのメッセージを音声再生した。



「親愛なる山内君へ。

突然のメッセージで驚いたことかと思う。恐らく、例の連絡だと思って緊張したのではないだろうか。それとも、研究熱心な君のことだからワクワクしてくれただろうか。

でも、残念だけれど君をワクワクさせることはできない。僕は一つの決断をしたことを、君に伝えなければならないんだ。

だけど、それを伝える前に少し振り返らせてくれないかな。長い文章になると思うけれど、時間がある時に読んでくれると嬉しい。


まず、君も知っての通り僕はHBVに侵されている。人体細胞の研究をしている僕だからこそ、発見はとても早かった。このウィルスはあっという間に全身に回るのが特徴だ。自覚症状が出る前に発見できるなんて、本当に奇跡的なことだったと思うよ。
とはいえ、一部の移植で済ませられるような状態でなかったね。君は心臓の移植を勧めてくれたけれど、やはりもう血液はウィルスで汚染されていた。僕に残された道は―――そう、僕と君の研究。クローン人間の作成と、記憶・意思系統の引継ぎだ。

君の尽力もあって、研究は成功した。本当になんと感謝をしたらいいんだろう。不可能だと思われていた、後天的な身体特徴の一致。DNAだけじゃなくて、指紋や虹彩まで全て同じ人間を作ることができた。
そしてその技術を使えば、脳の形成に関与―――すなわち、現時点の僕の記憶を引き継ぐことも可能となった。
それは一種の不老不死とも言えるかもしれない。厳密に言えば僕は死んじゃうけれど、死の瞬間まで君が脳のデータをクローンに移植してくれれば僕は死んだ瞬間まあ新しい僕になるわけだ。

僕らは数体クローンを作成した。しかし、僕の記憶を移動させた個体は皆すぐに死んでしまった。マウスを使った実験では成功したから、不可能というわけでは無いはずだ。僕は、ある程度クローン自身の脳や付随する身体機能を鍛えなければ20数年生きてきた僕の意思に耐えられないと仮説立てた。そこで、僕はクローン達を育成することにしたんだったね。

いやあ、大変だったよね!
もう、子育て!子育てってきっとあんな感じだよ。動かない分少し楽かもしれないけれどさ。皆ガンガン泣くし、なんで泣くのかわからないし。成長したらしたでワガママばっかり言うし。おまけにそれが僕そっくりの口調なんだよ?あれは腹が立ったね。僕は昔、母親にどんなに迷惑をかけたことだろう。君がいなかったらお手上げだった。

それでも、クローン人間はやはり難しい。意思を移植していない個体でも、1年程度で死んでしまった。その度に君が流した涙の意味を、僕は何度も考えたよ。何故なら、僕自身が自分の感情がよくわからなくなっていたからだ。そう、まるで―――わが子を失ったかのような。僕らにとってクローンの死は、研究の失敗と僕の死を意味する。そこに残るのは、落胆や恐怖だろう。でも、いつからか。いつからか僕は純粋に悲しんでいた。

そんな中、1体だけ生き残ってくれたクローン。真-Ⅴ。僕が仮に、真五と呼んでいた個体だ。

真五が誕生して3年9ヶ月。大きな異変もなく、彼はすくすくと育ってくれた。成長に関与して促進させたから、あっという間に見た目は僕と同じになったし、知能レベルも備わっている。僕の研究成果である彼を見て、君は喜んでくれたね。『これで先生は助かります!』ってさ。

しかし、3年9ヶ月…。長い。とても長い時間だ。真五との時間は楽しかった。カプセルベッドに横たわる彼に世界の話をすると、彼は目を輝かせた。いつか自分も見てみたいと笑う彼に、僕は得意げに話を続けた。寒い国では空に虹色のカーテンが広がることや、海の深く底には目の無い化け物が棲んでいること。太陽の下で、柔らかい芝生に寝転がる時間が最高なこと。話し終わった途端、彼は次の話をリクエストするんだ。

僕は彼を愛していた。しかし、時間は待ってくれない。僕は徐々に指先が動かし辛くなってきていたし、呼吸も浅くなってきた。痛み止めが切れれば、体中が痛くて失神してしまう程になった。そろそろ準備をしなければならない。僕は真五を睡眠状態にするために、ラボへと向かった。

催眠導入時、真五はうとうとしながら呟いたんだ。『カレーが食べたいなあ』って。僕は思わず答えちゃったんだ。『そうだね、久しぶりにひき肉たっぷりのドライカレーが食べたい。子供の頃から大好物でね。君も何度か食べたことがあるだろ?』ってね。そうしたら、真五どうしたと思う?眉間に皺を寄せて、こう言ったんだよ。


『僕は、この間食べた水っぽいえびカレーの方が好きだなあ』


愕然としたよ。ああ、この子は僕のコピーなんかじゃない。研究は失敗だってね。いくら意思を移植していないとは言え、彼は僕そっくりに成長するように作ったはずだった。当然、嗜好すらも。
だけどさ、何故か嬉しかったんだ。真五はこれから大きくなって、僕と違う人生を送るだろうと想像できたよ。僕の成し遂げられなかったことをするかもしれない。いいや、しなくてもいい。いつか見てみたいと言っていた世界を自分の目で見て、自分の意思で歩んでいくんだ。それがどうしようもなく尊くて、素晴らしいことに感じた。真五はどんな風に目を輝かせるだろう。きっと、最高だって笑ってくれるだろうね。





僕は、死を受け入れた。
真五は僕の子供だ。愛するべき家族を殺して、どうして生きられよう。僕は彼に意思を移植しないことを決断した。その代り、僕は彼に希望を託した。これは、親のちょっとしたわがままさ。幸せに、幸せに生きて欲しいんだ。彼にも―――そして、君にもね。

本当言うと、君のことちょっと疑っているんだよ。君さ、実は真五に自分の遺伝子をちょっと混ぜたりしていないかい?だってそうだろ?真五、君が作ったえびカレーが一番美味しいって言ったんだよ。納得いかないなあ。いや、ええと。勿論美味しいのだけどね。そう、君が作ったってところが最高!あれ、これじゃあ真五と同じ嗜好ってことになるかな?ハハ、君が呆れている顔が目に浮かぶようだよ!



ここまで読んでくれて有難う。さて、僕は真五が目を覚ます前に旅立つことにした。彼や君に、僕の最期を見せたくないんだ。愛した人の前では、カッコつけたいもんさ。

ああ!でもやっぱり死にたくないなぁ。真五とまたキャッチボールがしたい。今度は君が怒らないように、青空の下で。
お弁当持ってピクニックもいいな。あと少しすれば春だ。君が作った花見弁当を持って、真五に桜を見せてやりたい。それで『おい、息子よ』って杯を交わすんだ。うん?お酒…飲めるのかな。そういう研究もしとくんだった!
あはは、言っても尽きないね。でも、せめて。せめて一度くらい、君を抱き締めておくんだった。



君に3つだけお願いがある。1つめは、決して真五を恨まないこと。彼は、もはや僕と君の子供だ。彼を愛してあげてくれないだろうか。彼は今ラボで眠っている。予定では、君にこのメッセージが届いて家に到着する少し前に彼は目覚めるはずだ。制御装置も切ってあるから、自由に動き回れるだろう。色々混乱しているかもしれないから、優しく迎えてあげて欲しい。

2つめは、しばらく警察などの機関に内密にすること。もし真五が僕のクローン研究の成功例として見つかれば、普通の生活はできないだろうから。ある程度世間が落ち着くまでは、彼のことをそっとしてあげてほしい。その代わり、研究情報や栄誉は君の好きにしてくれて構わない。君はそれに値する研究者であるのだから。

3つめは…君のことだ。
勝手な男で君には本当に迷惑をかけた。君は泣いてしまうだろうか…それは、とても辛い。君は優秀な助手だった。けれど、それ以上に君を愛していた。僕と君の研究の成果として、世界初の不老不死人間になれなくてごめん。そして、君が死ぬその日まで生きていられなくてごめん。君は僕の生涯のパートナーだった。しかし、それも今日までだ。君はまだ若いんだし、他に良い男を見つけて幸せになってくれ。―――なんて、そんなことを言うと君は怒るだろうな。でもね、本当にそう思っているんだよ。君が幸せでいてくれたら、僕は幸せだ。




さようなら。幸せで。

布施 真」



メッセージを何度も繰り返しながら、私はやっと博士の家の前に着いた。
途中、何度か通信が入った気がする。しかし、博士のメッセージで頭が一杯の私は、それらを確認することはなかった。

博士は本当にもう行ってしまったのだろうか?なんて酷い人だろう。カッコなんかつかなくたって、私は最期まで傍にいたかったのに。いてくれるだけで良かったのに。絶望的な気持ちで、私は車から降りた。


『ウィィーン』


突然、目の前の扉が開く。それは、まるでいつも私の車のエンジン音を聞きつけて出迎える博士と同じ。いいや、まるでどころじゃない。扉の向こうから現れたのは、紛れもなく博士自身の姿だった。

「は…かせ…?博士!まだいらっしゃったんですか!?ああ!」

思わず抱き着いてしまった。彼はまだ生きている!私の愛した男は、まだこの世に存在していた!喜びで胸が一杯になった。―――しかし、残念ながらそうではないらしい。違和感に顔を上げると、“布施真”の顔は気まずそうに目を逸らした。

「ごめん、山内さん。僕は父さんじゃない」
「真五くん?」

彼はゆっくりと頷く。まさか外へ出てくるなんて!私は涙を拭いて、真五に笑ってみせた。それが、博士との約束だ。

「あのね、真五くん。君のお父さんはちょっとお仕事に出ているのよ。だから―――」
「いいんだ。知ってる。僕は父さんのクローンで、父さんはHBVを患っていた。そうだね?」
「どう、して」

視界がぐらりと揺れる。彼は全てを知っている。何故?
いや、そんなことはどうでもいい。彼は私達がしようとしたことを知っているのだ。私達が、彼を殺すために作ったことを。

「ああ…!ごめんなさい、そんな言葉で済む話じゃないけれど…ごめんなさい、ごめんなさい…!!」
「頭を上げてよ。僕は、父さんが生きていられるなら本当はこの体をあげたって良かったんだ。でも、父さんは行ってしまったんだね…」

真五くんは眩しそうに空を見上げた。その仕草は博士そのものなのに、子供のように好奇心でいっぱいの表情をしている。
やはり、この子は博士ではないのだ。同じ顔、同じ声、同じ指紋を持っていたとしても、彼は彼でしかないのだろう。

「これが青空、綺麗だ…」

でも博士、どうしてでしょうか。私も嬉しくてたまりません。あなたはどこかで死に向かっているというのに、私はこの存在が限りなく愛おしい。確かにこの子は、私とあなたの子供なのでしょう。

「…真五くん、私の家へ行こう。途中に芝生の公園があるから、そこに寄り道してね。そしたら、えびカレーを一緒に作ろうか」

真五くんは笑顔で頷いた。
博士、私達のしようとしたことは許されることではありません。だからこそ、彼をきっと幸せにしてみます。
でもーーー最後のお願いは、残念ながら聞けませんよ。




それから3年後、遺伝子学は大きな変容を遂げた。
天才研究者、布施真の死。彼の最後のテーマである記憶の引き継ぎは、失敗に終わったと研究を引き継いだ山内博士より発表された。これは医学会にとって非常に残念なニュースであった。

しかし、山内博士はHBVのウィルスに対する遺伝子学的研究を継続。不治の病とされたHBVであるが、感染した臓器に人工遺伝子を繋げることで、臓器が健全状態に戻ることが発見された。山内博士はこの大発見に対してこうコメントしている。

「今回の発見は、偉大なる布施真博士、そして私の優秀な助手が大いに力を貸してくれました。彼に最大の感謝を」

山内博士の助手に関しては、特にデータは存在しない。

しかし、1つ情報を加えるなら。今回の研究は、故 布施真博士が残した血液や皮膚組織のデータが元となったらしい。そして何故か、それらがHBVに感染していない状態で発見されたという噂も。









その数ヶ月後。
1人の女性と2人の顔がよく似た男性が小さな公園で花見をしていたことを、偶然通りがかったあなただけが知っている。
総合点:2票  亀夫君部門2票  


最初最後
亀夫君部門エリム
投票一覧
「サスペンスと見せかけて実は別ジャンルの物語。展開自体も見事ですが、冷たい真実を包む優しい物語がまた素晴らしいです。この題材につきものの倫理問題と向き合い、温かい答えに到達する登場人物達にじんわり来ます。」
2017年02月23日23時
亀夫君部門甘木
投票一覧
「さりげなく張られた伏線、しっかりとしたストーリー性。亀夫君問題の醍醐味である「ベールをはがして物語の情報が明らかにしていく過程」の魅力がより楽しめます。」
2017年02月14日21時

最初最後