あなたの元に、通信が入りました。
「助けてください!父さんが閉じ込められているんだ!」
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これは亀夫君問題です。
あなたは直接物に触ったり、事件の場所に行くことはできません。
しかし、依頼人に指示を出したり質問することが可能です。
依頼人と通信しながら、問題を解決してください。
ご参加有り難う御座いました。
あなたのお名前と、お父さんが閉じ込められている状況について詳しく教えてください。
僕はシンゴ。父さんは、隣の部屋に閉じ込められているようなんだ。 [良い質問]
父さんはどんな人ですか?
父さん?明るくて、話上手だよ。ああそうだ、仕事はいわゆる博士。研究内容は詳しく知らないんだけれど…。って、それって何か関係する? [良い質問]
今現在は何年何月何日ですか?
ええと、ちょっと待ってください…3017年2月12日みたい [良い質問]
あなたは今どこにいるのですか?あたりのようすを詳しく教えてください。
今は家にいます。部屋の中には机、椅子、本棚、冷蔵庫と自動調理キッチン。あと…父さんの姿が見える、窓がある。 [良い質問]
申し遅れました。私は今日も元気と申します。よろしくお願いします。あなたのことを教えて頂けますか、シンゴさん?
今日も元気さん、はじめまして。僕のこと?ええと…父さんの子供で、年齢は4歳?しばらくベッドで寝ていたから、あまり辺りのことは詳しくないよ。 [編集済] [良い質問]
父さんと連絡は取れない?携帯電話やドア越しに話しかけたりできるかな?
さっきから窓に向かって呼びかけているけれど、父さんも何か言ってるみたいなんだ。でも、声は聞こえない。 [良い質問]
「父さんが閉じ込められている」というと、あなた自身は閉じ込められていないのですか?
家の中にいるのは、閉じ込められているっていうのかな?…あ、でも… [良い質問]
今家にいるのは、あなたとお父さんの二人だけですか?
うん、そうみたいだ。
念のためだけど、シンゴ君は人間?
人間だよ? [良い質問]
警察へ連絡をしてみよう! [編集済]
警察は駄目だって、父さんのメモがある。 [編集済]
お父さんがいる隣の部屋は何の部屋でしょうか?
ううん?何の部屋なんだろうか…よく知らない。
シンゴ君が寝る前は、お父さんはどこにいましたか?
寝る前は、僕のベッドの傍にいたよ。話をしていたから。 [良い質問]
12 何の話をしたのか、よかったら教えてくれる?
父さんはひき肉たっぷりのドライカレーが好きなんだって。でも、僕はこの間食べた水っぽいえびのカレーの方が美味しかったって言ったんだよ。そうしたら父さんびっくりしてさ。「お前は僕とは違う人間なんだなぁ」って。皆はどんなカレーが好き? [正解]
父さんが誰かに閉じ込められているところを見たかい?父さんが自分で部屋に入って、部屋に籠ったわけではないのかな
見ていないけれど、なら僕が心配しているのを見て戻ってくるんじゃないかな?
3 この時代で過去や未来への行き来は当たり前になったっけ?
いや、それはまだ不可能だって父さんが言ってたよ。
ここは地球かな?
そう、地球であり日本。
7 でもなんでしょうか?
外へ出るには父さんの指紋認証がなければならないはずだ。つまり、父さんが戻らなければ僕も出られないんだって気づいたから…。 [良い質問]
いまお父さんがいる部屋には窓以外に出入り口などありますか?
無さそう。
シンゴ君は、「自分は他の子と違う人間だ」というような何か心当たりはある? [編集済]
さあ?でも、兄弟と比べて体も強いし頭も良いって褒めてもらったことはあるかな。 [良い質問]
シンゴ君、「アンドロイド」っていう言葉に聞き覚えはあるかな?
アンドロイドーーーああ、人工知能のロボット?知ってはいるけれど、実物は見たことがない。
2 お父さんの研究分野が関係あるかもしれないので,知っていることを教えてくれますか?
多分、薬関係じゃないのかな?ウィルスがどうとか言ってた気がするし、下にはそういうものが沢山あるから。 [良い質問]
シンゴくんはお父さんから薬を投与されたことはありますか?
…あるけれど。 [良い質問]
19 その「兄弟」ってどんな人?
さあ…? [良い質問]
どうしてお父さんが閉じ込められていると分かるのですか?
窓から父さんの姿が見えるんだ。僕に向かって、何か困った顔をしている。
シンゴ君は今どうやって私たちとお話をしているのかな? [編集済]
父さんの通信機器を借りているよ。文字通信だから、少しラグがあるかもしれないけれど。
シンゴ君、お母さんの事を教えてくれる?
母さんと呼べる人には会ったことがない。恐らくいるはずだけど…父さんがそういった話をしないから、聞いてはいけないことなのかもと思ってた。 [良い質問]
22 それはシンゴ君が風邪を引いたときのこと?
そういう時もあったかな
兄弟とあったことはありますか?
無い…かな。声は聞いたことがある。 [良い質問]
シンゴくんは家の外に出たことがありますか?
無い。 [良い質問]
22 薬飲んだ時どんな状態になったことがあるか教えて。
病気が良くなったり、体の調子が良くなったり…?薬ってそういうものだよね?
28 それは父さんが会わせてくれないのかな?
そうではないと思うけれど。
28 その声って自分の声と似てる?
似てたね。そりゃあ、兄弟だもの。父さんともよく似てるよ。 [良い質問]
28 どんな声だった?
ちょっと弱々しい声だったかな…?体が弱かったみたいだし。
17、29 それってシンゴ君の方がむしろ閉じ込められているみたいなんだけど、どうだろう?
いや、外に出たことが無いのは起き上がれなかったからだったんだ。ずっとベッドにいたからね。 [良い質問]
4 机や本棚に気になるものはない?例えば、父さんの研究内容についての本とか。
あ、本棚に付箋が貼ってある本が2冊。【HBV 破壊ウィルス】【遺伝子研究の未来】だって。 [良い質問]
もしかして君はコールドスリープしていたのかもしれないね。
冷凍保存?でも、父さんは僕が眠る前と変わらない姿でそこにいるよ。
父さんとシンゴくんの顔は似ていますか?
さあ…でも似てるんじゃないかな?親子だし。 [良い質問]
今初めてベッドから起きたのですか? [編集済]
たまにちょっとした運動はしてたけど、2階に来たのは初めてだ。 [良い質問]
34 シンゴくんは今も起き上がれないの?
いや、起き上がれてる。とりあえず、体におかしいところは無いみたい。
シンゴくん、自分の顔を見ることはできますか? [編集済]
自分の顔を…?ど、どうやって?
35 その本読んでみようか。
どっちから読めばいい?
じゃあ、【HBV 破壊ウィルス】の方から読んでみようか。
『ーーー死の心臓破壊ウィルス(Heart Break Virus)感染すると血液から全身に広がる。初期症状として、胸の圧迫感、喉の閉塞感が挙げられる。血液検査で発見することが可能。』なんだか怖い話だな… [良い質問]
お父さんはシンゴくんが二階に上がってきたので驚いているのでは?
そうなのかな?だけどいつもは頻繁に会いに来てくれたし、長く出かける時は教えてくれたよ。だからいつもと違うのは確かなんだ。
21、38 シンゴ君、前は1階にいたの?
あれ?言わなかったっけ。1階のベッドにいたんだよ。 [良い質問]
37 シンゴ君、鏡を見たことはある?
鏡?無いけれど [良い質問]
38 どんな運動してたの?
筋トレとか、歩いてみたりとか…ああ!楽しかったのはキャッチボール!父さん昔は野球部だったから、息子とするのが夢だったって言ってたよ。
外へ出る指紋認証をシンゴくんが自分の指で試してみることはできますか?
え、でもこれって研究内容の機密漏洩防止だから…違えばなんかえらいことになりそうだけど
遺伝子研究の未来のほうも読んでもらえますか?
『ーーー親子、兄弟、さらには一卵性双生児であったとしても指紋や瞳の虹彩は異なる。DNAが一致していたとしても、それらの形成は後天的であるためだ。』ふうん? [編集済] [良い質問]
12 シンゴ君が寝る前に、お父さんは薬をくれたのかな?
ああ、そういえばそうだった。 [良い質問]
じゃあせめて窓を反射させて顔みられる?
うーん…難しいな、うまく反射しない。あ、違うよ父さん!なんでもないんだ! [良い質問]
42 一応聞いておくけど、シンゴ君は胸や喉は苦しくないかな? [編集済]
無い…ね、良かった。僕はHBVじゃないみたいだ。 [良い質問]
シンゴ君とシンゴ君の兄弟は双子かな?
違うはずだ。年齢も違ったし。
窓のお父さんは君が右手をあげたとき左手をあげてない?
え?…あれ、本当だ。 [良い質問]
50はじめましてシンゴ君、やまふみだよ。お父さんから何かレスポンスがあったのかな?
いや、何も…口をパクパクするだけだ。聞こえない。
お父さんや兄弟は胸の圧迫感とか喉の閉塞感とか訴えたことは無いかな?
…そういえば、父さんたまに胸を押さえてるみたいだった。 [良い質問]
26、28 じゃあ、シンゴ君が知っているのはお父さんだけなのね?
ええと、後は山内さんくらいかな?
44 一階のベッドがあった部屋のことを教えてもらえるかしら?
僕がずっといた場所。ベッドと、大きなモニター、後は薬の棚があるよ。 [良い質問]
シンゴ君、自分がどのくらい眠っていたか分かるかい?
普通じゃないかな…?
もしかして君はいわゆる実験体じゃないのかな?
…!父さんはそんな人じゃない!
5 シンゴ君、自分の年齢がはっきりわからないようだけど、どうしてかな?
いや、正しくは3年と9ヶ月。でもそれなら3歳か? [良い質問]
いままでお父さんがお薬をくれた時は、なんと言ってくれたか覚えている?
…それを聞いてどうするの?薬の被験者って言いたいの?
父さんの顔がどう見えるか教えて。
どう…?心配そうな顔だよ
55もしかして、お父さんはHBVで、君に遺伝している、て思ったんじゃないかな?だから君にワクチンみたいなものを投与したんじゃない?
父さんがHBV…?でも、ワクチンが効くのかな。あれ、もうひとつ付箋のページがあるみたいだ。 [良い質問]
53 窓に見えるお父さんはお父さんでなく,おそらく君自身が窓に反射して見えているのではないかな? [編集済]
…!まさか、そんな? [正解]
君がお父さんだと思っているのは、君の鏡に映った姿なんじゃない?君は4歳だと思っているけど、本当はかなりの時間眠っていて、今君はお父さんぐらいの年齢なんじゃないかな?
僕は、こんなにも父さんにそっくりだったのか…?だけど、そんなに長い間眠っていた気はしない。 [正解]
63 付箋のページよんでもらえますか?
『ーーー治療法は投薬による症状緩和、遅延行為のみ。全身転移前であれば心臓移植での完治も理論上可能であるが、HBVの特徴である転移スピードの速さより、完治した例は未だ皆無。』そんな、じゃあ父さんは… [良い質問]
シンゴ君、あなたが本当に3歳か4歳なら、さっき読んでくれたような難しい本は読めないと思わない?
わからない、一般的な3歳はそうなの? [良い質問]
以前と比べて、自分の体に何か違和感はない?
無い…かな。別に、前からこうだったと思う。 [良い質問]
お父さんがあなたのことを「違う人間」って言っていたのは、HBVウィルスに感染していなさそうだったからうれしかったんじゃない?
そうなのかな?だったら嬉しい…でも、父さんはどこへ?
君がその「父さん」って可能性はないの?
そんなまさか!だって、父さんは実在したんだ。
64 本物のお父さんは家の中には見当たりませんか?
見当たらない、どこへ行ったんだろう…
66 お父さんは君の心臓が欲しくて君を作ったのかもね
そんな馬鹿な!大体、読む限りじゃ心臓移植は初期のみだ。子供を育てるなんて時間がかかる方法に頼るなんておかしいじゃないか! [良い質問]
72 そのための薬の投与じゃないかな?その効果で君は4歳にして大人並みに育った.
違う、そんなことない! [良い質問]
お父さん倒れてないか窓から見えない?
窓は…鏡だったみたいだ…
シンゴ君のいる部屋には、ドアがあるでしょう?そうでなければ、あなたはその部屋に入れなかったよね?あるいは誰かがあなたをその部屋に連れて来れなかったよね。ドアを見てどうなっているか教えてくれる? [編集済]
1階のドア?階段の前にドアはあるけれど、特に鍵はかかっていない。
そういえば、前に言っていた「山内さん」って誰?
山内さんは父さんの助手の人。女の人だよ。えびのカレーは山内さんが作ったんだ。 [良い質問]
57 一階の部屋の薬の棚,調べられますか?
薬の名前はそこまで詳しくないな…難しい名前が多い、とだけ。
シンゴ君、あなたの苗字はなんていうの?お父さんの名前も教えてくれる? [編集済]
フセだよ、父さんはフセマコト。漢字は…あれ、どう書くんだったかな。ええと… [良い質問]
67 そうよ、3歳、4歳くらいだとあなたが読んでくれたような難しい漢字は読めないの。シンゴ君、勉強はどこでしたの?
父さんだよ。父さんが毎日ベッドに来て教えてくれたんだ。
57 大きなモニターはどういう用途のものですか?
父さんや山内さんが研究に使うものだと思うよ。起動方法はわからないなぁ。
17 君が家を出るにはお父さんの指紋が必要だ。君はおそらくお父さんのクローンだが48からdnaが同じでも指紋は異なる。家を出たければまずお父さんを見つける必要がある。
僕がクローン?だからこんなに似ているのか?そうか、そうだったのか…。いや、それはどうでもいい。僕の父さんには変わりがないんだから。どうやって父さんを見つけよう? [正解]
お父さんとの連絡手段は何かないかな?いま我々と通信しているような。
これは父さんの通信機なんだ。だからーーー父さんは、何も持って行かなかったんだと思う。
毎日お食事はどうしてるの?誰かが持って来てくれるんでしょう?
父さんとか山内さんとか。冷蔵庫に食材がたくさんあるから、自動調理キッチンを使えばしばらく食事には困らないかな。
82 では山内さんはどうかな
ああ、そうか!一旦失礼。ピッーーーあ、もしもし?山内さん出ないんだ。ここへもいつも車で来てるらしいから、運転中かもしれない。一応メッセージは送ったよ。
78 お父さんの名前の漢字思い出した?
何かに書いてあった気がするんだ、さっき見たような… [良い質問]
85 「遺伝子研究の未来」に書いてあったんじゃ?
えっ…ああ、本当だ!【遺伝子研究の未来 布施真】これは父さんの本なんだ! [良い質問]
76エビのカレー、別に変わったところとかなかった?薬が混ぜられていたんじゃないかな?
そんなわけないよ、皆で一緒に食べたから!
もしかして、君の体はお父さんの体なんじゃないかな?
父さんの体?
つまり、シンゴ君は薬で心臓が発達した。その心臓をお父さんは自分に移植した。心臓移植をしたら、ドナーに思考や性格がそっくりになることがある。つまり君は、中身はシンゴ君だけど、体はお父さん。だから、君の指紋で部屋から出られるはずだよ。
そんな馬鹿な!僕は僕だ。証明のしようがないけれど…僕は父さんじゃない。眠る前と、体は何も変わらない。
シンゴ君、君の身長を教えてくれるかな?
身長計は無いけれど…入口のドアよりも少し低いくらいだよ。
86 お父さんの専門は遺伝子の研究だったわけだ。「遺伝子研究の未来」の中にもっとお父さんや君に関わることが書いてないかな?
さっきの続きから読んでみよう。『ーーーしかし、今回の研究で指紋、虹彩の形成メカニズムが判明。これにより、“自分と全く同じ人間”の作成への道が開けた。いずれは脳の形成、すなわち、人体間で意思や記憶の引き継ぎが可能となるだろう。』指紋?記憶の引き継ぎ?それじゃあ、まさかーーー!!? [編集済] [良い質問]
91 それによると、どうやらお父さんは君を第二の肉体として作ったようだ。記憶はまだ引き継がれていないようだが、指紋は同じはずだから出たければ出られるはずだ。
そんな、父さんが…!?信じられない!父さんは優しくて、色々な話をしてくれてーーーでも、あなたの言うことは論理的だ。それは…真実、なんだろう。 [正解]
じゃあ、一階に行って、外に出るドアに指をかざしてみる? [編集済]
…いいえ、僕は出ません。 [正解]
93 ではお父さんをまちますか?
…はい。
94 それはつまり記憶の引き継ぎを行いたいということ?
だって、父さんはそのために僕を作ったんだろう?僕は、自分が生きる為に父さんが死ぬのは嫌だ。やっぱり父さんが好きだから。 [良い質問]
もしかして父さんは君が起きて記憶を引き継ぐのを狙っていたのかもね。そうすれば父さんが病気で死んでもあなたの肉体は生き続けられるのだから。
…でも、それなら眠っている間にやればいいんじゃないかな?そうだ、父さんはどこへ行ったんだ? [良い質問]
お父さんはもう死んじゃってるってことはない?
…!?そんな、なんで…? [良い質問]
いや、HBVだったならいつ死んでもおかしくないかなと。もしかしたらお父さんは記憶の引き継ぎを躊躇したのかも。
躊躇…? [良い質問]
ほら、クローンであっても全く同じ人間というわけではないでしょ?お父さんはもしかしたら自分の人生をシンゴ君に押し付けることに戸惑ったんじゃないのかなあ。
自分の人生…僕は、やっぱり僕なんだ…。 [正解]
96 で君が言ったように眠っているときにできたはずだ。おそらく育てている間に情が湧いたのでは?
情…父さんは、父さんなんだね。 [良い質問]
96 シンゴ君、お父さんは最初はあなたの体を使って自分が生き延びる事を考えていたのかもしれない。でもあなたを育てるうちにきっと考え直したのよ。あなたと彼は「親子」だったんでしょう?つまりね、親というものは、自分が傷ついたり死んだりしても子供を守りたいものなの。お父さんはきっと、シンゴ君はシンゴ君として生きて欲しいと願っていたと思う。だから記憶の継承をしなかったのだと思うよ。
僕は僕として生きる…か。ありがとう、それが真実なら少し救われた。だけど、もう父さんはどこにもいないんだ。外へ…出なくちゃ。 [正解]
「これが…青空、そして太陽」
ドアが開いた先には、1人の女性がいた。息を切らして、目を赤く腫らす彼女。
あの人の顔を見ていたら、本当に父さんはもういないんだなぁって実感してしまった。
「ーーーありがとう、皆さん。僕は僕として生きていくことにするよ」
通信は、そこで途絶えた。
[編集済]
当然、鏡は何も映すことが無いでしょう。
『助けてください!父さんが閉じ込められているんだ!』
あなたは鏡に【閉じ込められていた】、彼自身を映した【父さん】を助けることに成功しました。[編集済]
いよいよ“その日”が来たのだろう。一瞬の躊躇の後、私は覚悟を決めてそのメッセージを開いた。
しかし、それは予想したメッセージとは違うようだ。スクロールバーが小さくなるくらいに、非常に長い文章。
なんだか嫌な予感がした私は、慌てて車で飛び出した。“彼”の家までは1時間程で到着する。車内で、私はそのメッセージを音声再生した。
「親愛なる山内君へ。
突然のメッセージで驚いたことかと思う。恐らく、例の連絡だと思って緊張したのではないだろうか。それとも、研究熱心な君のことだからワクワクしてくれただろうか。
でも、残念だけれど君をワクワクさせることはできない。僕は一つの決断をしたことを、君に伝えなければならないんだ。
だけど、それを伝える前に少し振り返らせてくれないかな。長い文章になると思うけれど、時間がある時に読んでくれると嬉しい。
まず、君も知っての通り僕はHBVに侵されている。人体細胞の研究をしている僕だからこそ、発見はとても早かった。このウィルスはあっという間に全身に回るのが特徴だ。自覚症状が出る前に発見できるなんて、本当に奇跡的なことだったと思うよ。
とはいえ、一部の移植で済ませられるような状態でなかったね。君は心臓の移植を勧めてくれたけれど、やはりもう血液はウィルスで汚染されていた。僕に残された道は―――そう、僕と君の研究。クローン人間の作成と、記憶・意思系統の引継ぎだ。
君の尽力もあって、研究は成功した。本当になんと感謝をしたらいいんだろう。不可能だと思われていた、後天的な身体特徴の一致。DNAだけじゃなくて、指紋や虹彩まで全て同じ人間を作ることができた。
そしてその技術を使えば、脳の形成に関与―――すなわち、現時点の僕の記憶を引き継ぐことも可能となった。
それは一種の不老不死とも言えるかもしれない。厳密に言えば僕は死んじゃうけれど、死の瞬間まで君が脳のデータをクローンに移植してくれれば僕は死んだ瞬間まあ新しい僕になるわけだ。
僕らは数体クローンを作成した。しかし、僕の記憶を移動させた個体は皆すぐに死んでしまった。マウスを使った実験では成功したから、不可能というわけでは無いはずだ。僕は、ある程度クローン自身の脳や付随する身体機能を鍛えなければ20数年生きてきた僕の意思に耐えられないと仮説立てた。そこで、僕はクローン達を育成することにしたんだったね。
いやあ、大変だったよね!
もう、子育て!子育てってきっとあんな感じだよ。動かない分少し楽かもしれないけれどさ。皆ガンガン泣くし、なんで泣くのかわからないし。成長したらしたでワガママばっかり言うし。おまけにそれが僕そっくりの口調なんだよ?あれは腹が立ったね。僕は昔、母親にどんなに迷惑をかけたことだろう。君がいなかったらお手上げだった。
それでも、クローン人間はやはり難しい。意思を移植していない個体でも、1年程度で死んでしまった。その度に君が流した涙の意味を、僕は何度も考えたよ。何故なら、僕自身が自分の感情がよくわからなくなっていたからだ。そう、まるで―――わが子を失ったかのような。僕らにとってクローンの死は、研究の失敗と僕の死を意味する。そこに残るのは、落胆や恐怖だろう。でも、いつからか。いつからか僕は純粋に悲しんでいた。
そんな中、1体だけ生き残ってくれたクローン。真-Ⅴ。僕が仮に、真五と呼んでいた個体だ。
真五が誕生して3年9ヶ月。大きな異変もなく、彼はすくすくと育ってくれた。成長に関与して促進させたから、あっという間に見た目は僕と同じになったし、知能レベルも備わっている。僕の研究成果である彼を見て、君は喜んでくれたね。『これで先生は助かります!』ってさ。
しかし、3年9ヶ月…。長い。とても長い時間だ。真五との時間は楽しかった。カプセルベッドに横たわる彼に世界の話をすると、彼は目を輝かせた。いつか自分も見てみたいと笑う彼に、僕は得意げに話を続けた。寒い国では空に虹色のカーテンが広がることや、海の深く底には目の無い化け物が棲んでいること。太陽の下で、柔らかい芝生に寝転がる時間が最高なこと。話し終わった途端、彼は次の話をリクエストするんだ。
僕は彼を愛していた。しかし、時間は待ってくれない。僕は徐々に指先が動かし辛くなってきていたし、呼吸も浅くなってきた。痛み止めが切れれば、体中が痛くて失神してしまう程になった。そろそろ準備をしなければならない。僕は真五を睡眠状態にするために、ラボへと向かった。
催眠導入時、真五はうとうとしながら呟いたんだ。『カレーが食べたいなあ』って。僕は思わず答えちゃったんだ。『そうだね、久しぶりにひき肉たっぷりのドライカレーが食べたい。子供の頃から大好物でね。君も何度か食べたことがあるだろ?』ってね。そうしたら、真五どうしたと思う?眉間に皺を寄せて、こう言ったんだよ。
『僕は、この間食べた水っぽいえびカレーの方が好きだなあ』
愕然としたよ。ああ、この子は僕のコピーなんかじゃない。研究は失敗だってね。いくら意思を移植していないとは言え、彼は僕そっくりに成長するように作ったはずだった。当然、嗜好すらも。
だけどさ、何故か嬉しかったんだ。真五はこれから大きくなって、僕と違う人生を送るだろうと想像できたよ。僕の成し遂げられなかったことをするかもしれない。いいや、しなくてもいい。いつか見てみたいと言っていた世界を自分の目で見て、自分の意思で歩んでいくんだ。それがどうしようもなく尊くて、素晴らしいことに感じた。真五はどんな風に目を輝かせるだろう。きっと、最高だって笑ってくれるだろうね。
僕は、死を受け入れた。
真五は僕の子供だ。愛するべき家族を殺して、どうして生きられよう。僕は彼に意思を移植しないことを決断した。その代り、僕は彼に希望を託した。これは、親のちょっとしたわがままさ。幸せに、幸せに生きて欲しいんだ。彼にも―――そして、君にもね。
本当言うと、君のことちょっと疑っているんだよ。君さ、実は真五に自分の遺伝子をちょっと混ぜたりしていないかい?だってそうだろ?真五、君が作ったえびカレーが一番美味しいって言ったんだよ。納得いかないなあ。いや、ええと。勿論美味しいのだけどね。そう、君が作ったってところが最高!あれ、これじゃあ真五と同じ嗜好ってことになるかな?ハハ、君が呆れている顔が目に浮かぶようだよ!
ここまで読んでくれて有難う。さて、僕は真五が目を覚ます前に旅立つことにした。彼や君に、僕の最期を見せたくないんだ。愛した人の前では、カッコつけたいもんさ。
ああ!でもやっぱり死にたくないなぁ。真五とまたキャッチボールがしたい。今度は君が怒らないように、青空の下で。
お弁当持ってピクニックもいいな。あと少しすれば春だ。君が作った花見弁当を持って、真五に桜を見せてやりたい。それで『おい、息子よ』って杯を交わすんだ。うん?お酒…飲めるのかな。そういう研究もしとくんだった!
あはは、言っても尽きないね。でも、せめて。せめて一度くらい、君を抱き締めておくんだった。
君に3つだけお願いがある。1つめは、決して真五を恨まないこと。彼は、もはや僕と君の子供だ。彼を愛してあげてくれないだろうか。彼は今ラボで眠っている。予定では、君にこのメッセージが届いて家に到着する少し前に彼は目覚めるはずだ。制御装置も切ってあるから、自由に動き回れるだろう。色々混乱しているかもしれないから、優しく迎えてあげて欲しい。
2つめは、しばらく警察などの機関に内密にすること。もし真五が僕のクローン研究の成功例として見つかれば、普通の生活はできないだろうから。ある程度世間が落ち着くまでは、彼のことをそっとしてあげてほしい。その代わり、研究情報や栄誉は君の好きにしてくれて構わない。君はそれに値する研究者であるのだから。
3つめは…君のことだ。
勝手な男で君には本当に迷惑をかけた。君は泣いてしまうだろうか…それは、とても辛い。君は優秀な助手だった。けれど、それ以上に君を愛していた。僕と君の研究の成果として、世界初の不老不死人間になれなくてごめん。そして、君が死ぬその日まで生きていられなくてごめん。君は僕の生涯のパートナーだった。しかし、それも今日までだ。君はまだ若いんだし、他に良い男を見つけて幸せになってくれ。―――なんて、そんなことを言うと君は怒るだろうな。でもね、本当にそう思っているんだよ。君が幸せでいてくれたら、僕は幸せだ。
さようなら。幸せで。
布施 真」
メッセージを何度も繰り返しながら、私はやっと博士の家の前に着いた。
途中、何度か通信が入った気がする。しかし、博士のメッセージで頭が一杯の私は、それらを確認することはなかった。
博士は本当にもう行ってしまったのだろうか?なんて酷い人だろう。カッコなんかつかなくたって、私は最期まで傍にいたかったのに。いてくれるだけで良かったのに。絶望的な気持ちで、私は車から降りた。
『ウィィーン』
突然、目の前の扉が開く。それは、まるでいつも私の車のエンジン音を聞きつけて出迎える博士と同じ。いいや、まるでどころじゃない。扉の向こうから現れたのは、紛れもなく博士自身の姿だった。
「は…かせ…?博士!まだいらっしゃったんですか!?ああ!」
思わず抱き着いてしまった。彼はまだ生きている!私の愛した男は、まだこの世に存在していた!喜びで胸が一杯になった。―――しかし、残念ながらそうではないらしい。違和感に顔を上げると、“布施真”の顔は気まずそうに目を逸らした。
「ごめん、山内さん。僕は父さんじゃない」
「真五くん?」
彼はゆっくりと頷く。まさか外へ出てくるなんて!私は涙を拭いて、真五に笑ってみせた。それが、博士との約束だ。
「あのね、真五くん。君のお父さんはちょっとお仕事に出ているのよ。だから―――」
「いいんだ。知ってる。僕は父さんのクローンで、父さんはHBVを患っていた。そうだね?」
「どう、して」
視界がぐらりと揺れる。彼は全てを知っている。何故?
いや、そんなことはどうでもいい。彼は私達がしようとしたことを知っているのだ。私達が、彼を殺すために作ったことを。
「ああ…!ごめんなさい、そんな言葉で済む話じゃないけれど…ごめんなさい、ごめんなさい…!!」
「頭を上げてよ。僕は、父さんが生きていられるなら本当はこの体をあげたって良かったんだ。でも、父さんは行ってしまったんだね…」
真五くんは眩しそうに空を見上げた。その仕草は博士そのものなのに、子供のように好奇心でいっぱいの表情をしている。
やはり、この子は博士ではないのだ。同じ顔、同じ声、同じ指紋を持っていたとしても、彼は彼でしかないのだろう。
「これが青空、綺麗だ…」
でも博士、どうしてでしょうか。私も嬉しくてたまりません。あなたはどこかで死に向かっているというのに、私はこの存在が限りなく愛おしい。確かにこの子は、私とあなたの子供なのでしょう。
「…真五くん、私の家へ行こう。途中に芝生の公園があるから、そこに寄り道してね。そしたら、えびカレーを一緒に作ろうか」
真五くんは笑顔で頷いた。
博士、私達のしようとしたことは許されることではありません。だからこそ、彼をきっと幸せにしてみます。
でもーーー最後のお願いは、残念ながら聞けませんよ。
それから3年後、遺伝子学は大きな変容を遂げた。
天才研究者、布施真の死。彼の最後のテーマである記憶の引き継ぎは、失敗に終わったと研究を引き継いだ山内博士より発表された。これは医学会にとって非常に残念なニュースであった。
しかし、山内博士はHBVのウィルスに対する遺伝子学的研究を継続。不治の病とされたHBVであるが、感染した臓器に人工遺伝子を繋げることで、臓器が健全状態に戻ることが発見された。山内博士はこの大発見に対してこうコメントしている。
「今回の発見は、偉大なる布施真博士、そして私の優秀な助手が大いに力を貸してくれました。彼に最大の感謝を」
山内博士の助手に関しては、特にデータは存在しない。
しかし、1つ情報を加えるなら。今回の研究は、故 布施真博士が残した血液や皮膚組織のデータが元となったらしい。そして何故か、それらがHBVに感染していない状態で発見されたという噂も。
その数ヶ月後。
1人の女性と2人の顔がよく似た男性が小さな公園で花見をしていたことを、偶然通りがかったあなただけが知っている。
①窓=鏡の特定
②依頼人がクローン人間と特定
③父がHBVであり、その為に依頼人を作ったことを特定
④父と依頼人『別の人間』である為に、父は去ったことを特定
⑤指紋認証に指をかざし、外へ出ることを指示。
皆、本当にありがとう。
もう一度聞くよ。皆はどんなカレーが好き?
「Goodスープ認定」はスープ全体の質の評価として良いものだった場合に押してください。(進行は評価に含まれません)
ブックマークシステムと基本構造は同じですが、ブックマークは「基準が自由」なのに対しGoodは「基準が決められている」と認識してください。