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ウミガメのスープ 本家『ラテシン』 
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動機(問題ページ

が幼児を殴り、死亡させる事件が起こった。
躊躇も何も無い、あまりに悲惨な痕跡。
極悪非道の事件のようにも思われた。

しかし警察が駆けつけた時、男は幼児を抱きかかえ泣いていた。

さて、その隠された動機は何だろう?
11年05月09日 23:22
【ウミガメのスープ】 [ふわっふぁするよ]



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 男は人生の岐路に立たされていた。
夢を追い続けるか、家族を守るか、道はただひとつ。

その岐路で男はバットを振り続ける。


弱小野球部の4番、そのマネージャー。
男がその妻と出逢う、ささやかではないきっかけ。
二人の原点。

男も女も夢は同じ。
だがお互いの夢のために、3年間汗を流し続けた。

夢は甲子園、そしてメジャーリーグ。

努力は実り、三年目に甲子園出場。
そしてもう一粒、実る。

「赤ちゃんが……出来たの」

男は女と、もう一粒の命のため、女もまた同じ。
ひたすら一本の細長い道を、4本の脚でがしがし駆け登る。

優勝は逃した。
だが功績が認められ、男はプロの道へ。

二人は喜びに満ち溢れていた。
細長い道の先に、眩い光が差し込んだ。

そんな気がしていた。



女が病に倒れる。

そして男は一度目の岐路に立たされた。
子供の誕生か、女の延命か。

男が決断することはなかった。
女の即答、その強い思い。
男はそれに委ねてしまった。

男は選ぶことが出来なかった。

女は死ぬ。
男は4本の頼りない脚で、そろそろと歩み出す。

不幸は続く。

早産を理由に、子供に脳障害が。
一人では生きてゆけない。

男は二本の腕で子供を抱きかかえ、二本の脚でのそりのそりと歩み出す。

そして男はこの岐路へとたどり着いた。

女の夢、メジャーリーグへの道。
男の歩み続けた努力が、ついに形になった。

だが、男は躊躇う。

子供を慣れない環境へ連れまわす。
考えられない。
施設に預けるなどありえない。

だが、だが、メジャーは男だけの夢ではないのだ。
失ってしまうには、惜しい。


男は子供を連れ、公園へと足を運ぶ。
無心にバットを降り続ける。
目線はうつろ。
手応えのない素振り。
男は見えないボールを捉えようとしていた。

そんな父親をじっと観察していた子供は、すでに何かを捉えていたようだ。
父親の元へ、ゆっくりと歩みよる。


大好きだった女の夢か、守らなければならない息子か。
始めはあてもなくふらついていたスイングも、少しづつ何かにむかって鋭くなりつつある。

振るたびに蘇る女との思い出。
二人で必死で積み上げたもの。
その結晶。

結晶?それはどっちだ?

その時ふいに、女の言葉を思い出す。

「赤ちゃんが……出来たの」
「本当か……やったあああああああ!!」
「クスクスクス」

「これからは生まれてくるこいつのためにも、二人で頑張らなきゃな!」
「うん。"三人"でがんばろーねー」



「僕は……お前が大事だ。お前に死んで欲しくない。……でも、いや……うん」
「……今まで一緒にいてくれて、ありがとね。最後まで夢を追いかけられなかったのは辛いけれど。でも、でも、この子を最後に残せたのは、私にとって最高に幸せなことなんだよ」
「ああ、そっか。うん」
「この二人の"結晶"。絶対守ってね。約束だよ」

結晶。
二人の汗の結晶は、夢、じゃないのかもな。

子供を守ろう。
そしてでっかい奴に育ててやろう。
メジャーは……こいつに託せばいいじゃないか。


男の目に、歩むべき道が光と共に向かってくるような、そんな気がした。
目指すものは見えた。
しっかり見据えながらテイクバック。

やっと確かなものが見えたんだ。
俺はこれからはこれを捉えて離さない。
絶対にだ。


そして男は、それを真芯に捉え……振り切った。



ぱきん



手応えは充分だった。
充分すぎた。
骨の砕ける音がした。

何故だろう。
男の守るべきものが、男のその手によって、壊された。


男自身も混乱している。
何故、何故?
確かに捉えたはずの道、何故まったく逆の選択に繋がったのか。

何故、息子が目の前にいたのか。

息子に駆け寄る男。

「なんで、なんで……、どうしてなんだ!」
「おとー、さん。がんばれー、がん、ばれー……」

男は理解した。
息子は自ら選んだのだ。

家族が進むべき道を。


自らの命よりも、大好きなお父さんの夢を。
優しい子供。
お母さんにそっくりだ。

「お前を守ると決めたのに!!……なんでお前らはそんなに優しすぎるんだ。俺を置いて行かないでくれ。頼む、頼む」
「が、ばれ、おと……」

警察と病院が駆けつけると、子供の悲惨な死体と、血塗れでそれを抱きかかえる男の姿があった。


男はまた選ぶことが出来なかった。



今回の事件によって、白紙になったメジャー行き。
球界に残ることが出来るかさえ危ぶまれた男。

しかし追随を許さない努力と実力で、再び手に入れる。

異国の地で数々の実績や賞をものにし、世界一のプレーヤーとなる。

男は笑わない。
二歩の脚でズンズン進む光の道は、そこでもう行き止まり。
一人ぼっちで歩むのは、その虚しさに追いつかれ、喰われてしまいそうだから。

もうこの道で、逃げ続けるしかないのだから。
総合点:3票  チャーム:1票  トリック:1票  物語:1票  


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チャーム部門蓮華
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「「誰の、何をした」動機なのでしょうか? トリックもお見事です。そのトリックを含有した解説の深いストーリーにも注目です。」
2016年05月24日23時
トリック部門キュアピース
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「最初からこのトリックを見破ることが出来る方はそういないのではないでしょうか?逆に、トリックさえ見破ることが出来れば比較的早く真相へたどり着くことが出来ると思われる問題構成。素晴らしい完成度だと思います。」
2016年01月27日18時
物語部門からてちょっぷ
投票一覧
「問題文の意味が解説でひっくり返ります。読ませる解説です。」
2015年12月30日12時

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