「作品読みました、面白かったです。一緒にがんばりましょう!」(問題ページ)
青年は、とある小説創作サイトに登録している。
自分でも歴史小説などいくつか書いているが、最近は、よくできていると思うファンタジー小説を見ては、作品コメント欄に感想を書くことに熱心である。
しかし青年は感想を書くとき、普通は褒めて終わるのだが、あきらかに間違った指摘を入れることがある。
指摘に対しては、
「そこはXXXXXという意味でした。苦心したところなんですが、伝わらなかったのは力不足で申し訳ありません」
などと丁重に返されるのが常なのだが、言われずともXXXXXという意味など最初から分かっている。
しかし青年はときどき間違った指摘を書くことを今でも続けている。
いったいなぜそんなことをしているのだろうか。
16年05月15日 13:03
【ウミガメのスープ】
[ゴトーレーベル]
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『簡易解説』
感想はコメント欄をにぎやかにするための、別アカによる自作自演。
褒め言葉ばかりでは不自然になることへの対策のため、自作で苦心した点を強調するため、加えて、筋違いの苦情にも紳士的に対応する姿を見せて好感度をアップさせるため、ときどき間違った指摘を入れ込むのだ。
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青年はとある小説創作サイトの常連だ。
一人暮らしで彼女もいない青年にとっては、唯一とも言える趣味である。
ときどきは感想や評価ももらえる。本当にときどきだが、それがうれしい。
しかし……と青年は思う。
それほどたいした作品ではないことは認めるが、もう少し感想や評価をもらえてもよいのではないか?
評判を取っているあの小説より、自作がそれほど劣っているとは思えない……
そこで青年は、一計を案じて実行に移す。
①別アカウントを取得する。
②カモフラージュのためにいくつか別アカで小説をアップしておく。別ジャンルのほうがカモフラージュには適切。
③別アカで本アカの作品コメント欄に褒め言葉を書く。
これでコメント欄もにぎやかになる。
初めて来た人が見たら、真っ白なコメント欄を見ただけで「作品が面白くない」と思われるかもしれない。そういうところで損をしたくない。
ときどき、毛色の違った感想も書くようになった。
あきらかに間違った指摘をときどき入れ込む。特に、書くのに苦労したところ。
まず、褒め言葉だけでは不自然になるから。
次に、指摘に対して返事を書くことにより、どのような工夫苦心があったかを述べることができる。
「その表現は、主人公の思いを浮き彫りにするためのものでした」などと。
筋違いの苦情にも丁寧に対応する姿を見せられるのもいい。読者への対応が丁寧な作者には誰しも好感を持つものだ。
一石三鳥の名案だ。
作品ページは誰が見ているかわからないのだ。飾り立てて損はない。
このネットの片隅で、いま青年は別のことを計画している。
あまり強い調子でない個人攻撃もときどき感想に入れようか?
俺だって、ときどき別の作者の作品や態度に腹が立つときがある。俺に対してだって、そういうのがあったほうが自然でもあるだろう。
もちろんそのときも、きちんと紳士的に対応するのだ。これでさらに見る人の好感度がアップする。
最終的には相手が謝罪し、こちらは非礼を許して一件落着となるが、最後にはそうだな、別アカ側で適当に書いた歴史小説のタイトルを挙げて、こう付け加えよう……
「作品読みました、面白かったです。一緒にがんばりましょう!」
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本問は「解説の最後の一文でぞくっとする問題」「その最後の一文をタイトルとする」という3000才さん企画の参加作です。
総合点:2票 納得感:1票 物語:1票
納得感部門エリム【
投票一覧】
「文字書きなら1度は駆られたことがある誘惑ではないでしょうか。実行する勇気はありませんが・・・」
2016年05月16日23時
物語部門屋上【
投票一覧】
ネタバレコメントを見る
「ただでさえ信用できない語り手で溢れるウミガメのスープ、そこにさらなるアイデンティティ崩壊を呼ぶ結末が恐ろしい。"思うところ"を企画問題に落とす技術はゴトーレーベル氏ならではかと。」
2016年05月16日01時