ラテラル国のバティカ村は、「世界一美しい星空が見える村」とされているが、
同時に「世界一住みたくない場所でもある」と言われている。しかも
その理由が「世界一美しい星空が見える村であるから」であるという。
一体、どういうことだろう?
16年05月08日 22:54
【ウミガメのスープ】【批評OK】
[フィーカス]
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かつては沢山の工業で栄えていたバティカ村。そのせいで環境汚染が進み、川や大気は汚れ、多くの魚は住めなくなり、夜は星空も見えなくなっていた。
バティカ村の村長であるカメオは、そのことで頭を悩ませていた。
たしかにバティカ村は工場を建てるのに向いた土地であり、工業で栄え、村は発展していった。村から町、あるいはそれを飛び越えて市になるのも難しくない。
しかし、このまま環境汚染が進んでしまえば、村人たちに健康被害を与えてしまい、住みにくい場所になってしまう。
そこでカメオは、環境問題に取り組むことにした。
具体的には、工場から排出される排気ガスや排水にいろんな基準値を設け、環境改善を試みた。
最初は納得しなかった工場の関係者も、徐々に努力することで改善をしていった。その結果、ほぼすべての工場で基準値をクリアすることが出来、大気や水質の改善につながった。
しかし、カメオは考えた。どうせなら、この村を、世界一美しい星空が見える村にしよう」と思ったのだ。そのために、カメオはさらなる環境改善に務めた。
今までの排ガスや排水の基準をさらに厳しくし、最新のごみ焼却施設を導入、村人たちにもごみのポイ捨てやペットの排泄物の処理などに罰則を設けた。
その基準が守れるようになると、さらに厳しい基準を設け、さらに厳しい罰則を設けるようになっていく。
そうすると、だんだん守れなくなってくる工場や人が出てくるようになる。
「村長、さすがにそれは厳しすぎますよ。いくら浄化装置を導入しても、うちではこれが限界です。勘弁してください」
「そうですか、守れないんだったら営業停止してくださいね」
「いくら何でもペットのやることですよ? 最低限の処理はしたんですから、これくらいは見逃してくださいよ」
「ダメです、もっときちんとしてください。出来ないならこの村から出ていってもらいましょう」
厳しくなる規制、罰則、それにより、工場は次々と営業停止に追い込まれ、我慢できなくなった村人はどんどん村外へと引っ越しをしていった。
銃数年後、カメオの政策により、たくさんあった工場はすべて営業停止に追い込まれた。同時に、村人は誰もいなくなってしまった。
きっと、政策に反対することもできただろう。村人たちで協力して、カメオを辞めさせることもできただろう。
でも、村人たちはそうしなかった。きっと、いつかできる「世界一美しい星空が見える村」というものを、見てみたいという気持ちがあったのだろう。
でも、我慢していた村人たちは、もう誰もいなくなってしまった。
最後に出た村人は、カメオにこう言った。
「世界一美しい星空が見える村になったら、一度は見に行きましょう。でも、誰も住むことは無いでしょう」
今、この村には動いている工場は無い。街を汚す村人もいない。
だから、川も空もきれいだ。
この村は、「世界一美しい星空が見える村」になった。
今日も村役場から、カメオは世界一美しい星空を見ながら思う。
やっと、私の夢が叶った。
この村は有名になった。
この村を汚す観光客まで、みんな追い出してしまった。
この星空を見るのは、私一人。
こんなに頑張ってきたのに、この星空を見るのは……
こんなに頑張ってきたのに……
こんなに……
こんなに美しい……
この星空は誰のため?
要約:世界一美しい星空が見える村を作るために厳しい法律や政策をしていった結果、誰も守れないほど法律が厳しくなってしまったため
総合点:2票 チャーム:1票 伏線・洗練さ:1票
チャーム部門ロゴス=バイアス【
投票一覧】
「問題文のチャームが独自の物語性を一層高めています」
2017年05月05日20時
伏線・洗練さ部門エリム【
投票一覧】
「非常に考えさせられる1作です。理想と現実という名の深い谷間がそこにある。」
2016年05月22日01時