さっきのお客様、すぐ帰るって仰ってたのに、かなり長居していったんです。
しかもお出ししたウミガメのスープを一口飲んですぐにシェフを呼ばれて、スープを褒めてたかと思ったら、お会計のとき、スープにけちつけていったんですよ!
物腰は柔らかだったけど、あんなに嫌なお客様初めてでした……まったく何だったのかしらっ!
16年02月01日 22:43
【亀夫君問題】
[ふぃず]
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「ただいまー……ごめんよ急に留守にして」
「シェフお帰りなさい」
「話し込んでたの、どなただったんですか?」
「あぁ、見てたのかい。父さんだよ。親父じゃなくてね。それより陽子、悪いがすぐあさりの水煮の缶詰を買ってきてくれるかい。母さんのスープが完成しそうなんだ」
「はぁい」
「……お客さんたち、アリガト、おかげですっきりしました!」
「月子?誰に話してるんだい?」
「なんでもありませーん!」
男は、出ていった妻が何年も前に死んでいたことを知り、元妻の墓石があるという海辺の町まで墓参りに来ていた。
その帰り、男は一軒のレストランに入った。
「いらっしゃいませ」
「あまり長居するつもりは無いんです。すぐに出るものを一品いただけますか?」
元妻は再婚していた。新しい夫に会うことは万に一つも無いだろうが、あまりこの町に長居はしたくないと思った男はそう言った。
「今ならウミガメのスープをお出しするのが一番早いですが」
「そうですか、ではそれをお願いします」
男がそう言うと、すぐにウミガメのスープが出された。
一口飲んだところで、不思議な感覚に見舞われた。味は実に良かったのだが、不思議な感じがした。
男はその不思議な感覚の正体を特に探ることも無く、シェフを呼んで一言礼を言った。
「実に美味しいスープです、どうもありがとう」
「……ありがとうございます!実はそれ、母のレシピのスープなんです。と言っても、材料の書き漏らしがあったみたいで、少し違うんですけど……あ、でも、そう言っていただけてとても嬉しいですっ」
そこで男は気付いた。
このスープは自分が愛した妻の味だったのだと。ウミガメのスープなど飲んだことは無いが、スープ妻のものだった。少し物足りなさはあったが、材料の書き漏らしがあったのなら仕方の無いことだろう。
このシェフは、妻が連れて出ていった、あの小さかった息子なのだと。
シェフの名札と墓石の名が同じであることを確認した男は、名乗ることは無かったが、あの子がこんな立派な店を持つようになったのだなぁと、しみじみとした気分になり、少し長居をしてしまった。
そして勘定を済ませてから、男はレジ打ちをしてくれたスタッフに言った。
「あのスープ、あさりの水煮缶の汁を入れると良くなりますよ。シェフに言っておいて下さい。それでは、いつかまた来ます」
FA条件
・けちをつけたのではなく最後の材料を教えてくれたこと
・「お客様」はシェフの実の父であり、三姉妹が会ったことのある「お父様」は養父であること
以上2点を解明すること
総合点:1票 亀夫君部門1票
亀夫君部門キュアピース【
投票一覧】
「設定が作り込まれており、誘導の仕方がとても上手で、しっかりと進行の仕方を吟味していたんだろうなというのが感じられます。亀夫君問題初出題というのが信じられません。問題自体もとても質が高く、物語としても楽しむことが出来る作品です。」
2016年02月02日01時