大きな大きなヌイグルミ。
小さな小さな少女を包み込んでしまうほどの大きさで、彼女にとっても大切なものだった。
しかし、少女はその大切なものをいらないといった。
それだけではなく、彼女の所有物全てが要らないといった。
一体何故?
*スポンサー:天童魔子さん(ネタ提供ありがとうございます!)
15年07月27日 21:38
【ウミガメのスープ】
[ツォン]
解説を見る
*まとめ解説
彼女の周囲では戦争で次々人が亡くなっていく。
それに反して彼女は相続を繰り返し、孤独な富豪になってしまった。
彼女の命の恩人がくれた大きなヌイグルミを特に大切にしていたが、その彼も戦争に行ってしまった。
彼女が欲しいのはヌイグルミでも家でも金でもない。
人の愛情だった。
彼女の全ての財産を捨てても、愛する人さえ居てくれればそれでよかったのに…。
そう、思った。
----------
↓解説本編はこちら↓
----------
自らを死神だと名乗る少女。
父親が、戦争に取られた。
戦死の報告を受けた後直ぐに、母や祖父母、親戚は勤務先の工場への空襲により命を奪われた。
家族だけじゃない。
友人が、知人が、彼女の大切な人が全て、ただの肉塊になったのを、幾度となく見てきた。
だのに、まだ彼女は生きていた。
身体は無傷で生き続けていた。
その分、心はいびつにゆがんでしまっていた。
「私の周りに居た人はみんな死んだ。私は死神だ。私なんて死んだほうがましだ。」
そんな事はない、といって彼女のそばにずっといてくれた少年。
彼は少女に大きなヌイグルミをプレゼントした。
いびつではあるが、寂しさがまぎれるから、といって少年が古着などを使って作ってくれたものだった。
幾度となく彼女の豪邸を訪れる少年に、いつしか少女は恋をしていた。
しかし、少年にも招集がかかった。
彼女のそばから居なくなってしまった。
また独りぼっちになった少女。
思ってもいない悪態が付いて出た。
「だからヌイグルミなんていらないって言ったのに。だからヌイグルミなんていらないって言ったのに!!」
大きな家の片隅で、小さな彼女の身体を包み込むような大きさの熊のぬいぐるみに、彼女は体ごと顔を埋めて泣いた。
「やっぱり私は死神だ。みんな、みんな私が殺したんだ。」
泣いて泣いて泣いて、泣きつかれて、眠ってしまった。
少女は起きて思う。
大きな家も、沢山の遺産も、何も、何もいらない。
大切な人と平和に幸せに、暮らしたいだけなのに、何故私はそれを許されないの?と、切に願った。
総合点:1票 物語:1票
物語部門エリム【
投票一覧】
「大切な物、だからこそ要らないのだと痛切に感じさせられる1編です。」
2015年07月27日23時