コンビニバイトの山村カナエは、
常連客である佐藤タクトが一日おきに現れることに気づき、
彼を"見栄っ張り"な性格であるとプロファイリングした。
カナエはどのような推理過程を辿ったのだろうか?
15年01月25日 14:20
【ウミガメのスープ】【批評OK】
[牛削り]
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ファミファミファミーパファミファミパー♪
入店の音楽が鳴ったので、山村カナエは慌ててスマホをしまった。
「いらっしゃいませ」
見ると、常連客の"とかげ"氏だった。
顔立ちがどことなく爬虫類を連想させることから、誰かがそう呼び始めたのである。
とかげ氏は脇目も振らずスイーツコーナーに行った。
最近のお気に入りらしい「炭火焼きプリン」を二つ手に取り、私の立つレジカウンターに静かに置いた。
「スプーンはご入用ですか?」
「うん、二つお願い」
「……かしこまりました」
会計を済ませ、店から出ていくとかげ氏。
ふと見ると、カウンターの上に商品が置きっぱなしだった。
カナエはそれを掴み、すぐにとかげ氏を追いかけた。
「とかげ様ぁ!」
店の前の駐車場を出るところで、ようやく追いついた。
振り向いた彼が戸惑うような顔をしているのを見て、何か変なことを口走ってしまったかなと思った。
「あの、お忘れですよ」
「あれ? ああ、しくじったなあ」
彼は額に手を当てながら受け取り、「ありがとう」と言った。
「でも、お店、離れちゃって大丈夫ですか?」
「あ……ええ、この時間はあんまりお客さん来ないので」
「そう……とにかく、助かりました」
とかげ氏はビニール袋を軽く上げてみせ、それからまた、帰路につこうとした。
「あの」
失礼と知りつつも、山村カナエは指摘したくなった。
とかげ氏は再度振り向いた。
「いつも二つ、買われていますよね。スプーンも二つ付けて。それ、彼女さんとか奥さんの分ですか?」
「ああ、嫁の……」
「でも、とかげさん、一日おきに来られますよね。それって、二つのプリンを二日間かけて食べているってことじゃないでしょうか?」
とかげ氏は何も言わず、手元のプリンに目を落とした。
「本当は奥さんなんていないんでしょう? そうじゃないですか?」
「し、失礼じゃないか」
か細く、消え入りそうな声。
「違うんです、私、とかげさんが一日おきにしか来られないのが寂しくて……。もう見栄なんて張らなくていいんで、毎日来てくれませんか?」
「え……」
とかげ氏は顔を上げた。
「好きになっちゃったんです。あなたのその真っ黒な目、ぬらぬらした肌、それに突き出た鼻先も……」
カナエは恋愛の駆け引きというものを知らない。走り始めたら止まれない、暴走特急である。
とかげ氏は顔を赤らめるカナエを見つめて、ひとつ頷いた。
「正解です。おっしゃる通り、僕は見栄っ張りでした。……見破られちゃったらもう、わざわざ一日おきに二つ買っていく必要もないか」
「とかげさん……」
「僕の名前はとかげじゃないよ。佐藤タクト。タクって呼んでほしいな」
「わかりました。とかげさん」
簡易解説
一日おきにやって来て、スイーツを二つ買っていく佐藤タクト。
二つ買っていくことから、一緒に食べる人がいるという推測が成り立つ。
しかし一日おきであることから、買った二つは二日間に分けて一人で食べていると思われる。
わざわざそんなことをするのは、自分には恋人がいるんだと見栄を張りたいためである。
総合点:4票 チャーム:1票 納得感:2票 伏線・洗練さ:1票
チャーム部門とかげ【
投票一覧】
「一日おきにやってくる客が見栄っ張りであると推理した登場人物の、「推理過程」を辿れという、珍しいタイプの問題文に惹かれました。」
2015年05月05日23時
納得感部門からす山【
投票一覧】
「カナエさん、凄い推理力ですね。自分には絶対無理です。こうもこんこんと推理過程を語られては、納得するしかありませんね!」
2017年10月17日21時
納得感部門letitia【
投票一覧】
「山村カナエちゃんの推理力が光る見栄っ張りラヴァーズシリーズ第1作。この作品のカナエちゃんの推理過程をたどると、「君は見ているだけで観察していないんだよ」というホームズからワトソンへの台詞が聞こえてきます。目の前の情報を見るだけでなく観察し、仮定を立てて、推測する。もちろんカナエちゃんの推測は推測にすぎず、真実としては別解が考えられますが、「探偵がこう推理した理由はなぜか?」という問いの前に瑣末な可能性は必要なし。積極的に真似するべき手法です。」
2016年02月06日08時
伏線・洗練さ部門からす山【
投票一覧】
「一日おきに現れることから、見栄っ張りだと予測する。それをこのように見事に説明するとは。解説の分かりやすさも、それを「一日おき→見栄っ張り」の推測の興味深い問題文化するのも、見事です。問題も解説も非常に完成度高し。」
2017年10月17日21時