動画内など、他所でラテシンの問題を扱う(転載など)際について
ウミガメのスープ 本家『ラテシン』 
いらっしゃいませ。ゲスト様 ログイン 新規登録
項目についての説明はラテシンwiki

そこに山があるから(問題ページ

なたはある日、山を登っていた。
頂上まで登り切ったと思ったら、実はそこは頂上ではなく、本当の頂上は更に登ったところにあるらしかった。
さて、あなたはこの後どうする?

男はこんな質問を投げかけ、相手の反応を見るのだった。
どういうことなの?
14年10月10日 22:41
【ウミガメのスープ】【批評OK】 [とかげ]



解説を見る
張した面持ちがズラリと並ぶ様子を見るのは、あまり心地よくはない。
おまけに全員が全員、似たようなスーツを着込み、似たような髪型に揃え、地味で無難なネクタイを締めている光景は、もう見飽きていた。
しかしこれが私の仕事だ。仕方ない。

「これから、集団面接を始めます。質問には、答えられる準備ができた人から答えてください。順番は特に決めません」

私と、他にもう2人。
この3人で、就職試験を受けに来た若者を10名ずつ面接していく。
筆記試験は既に終えており、次の個人面接に進めるかどうかは、この集団面接をパスできるかどうかにかかっている。
そう。私は、就職面接を担当する、人事部の人間なのだ。

他の面接官が、当たり障りのない、面接マニュアルに載っているような質問をしていく。この業界への志望動機、なぜ我が社なのか、我が社でどんな仕事をしたいのか、学生時代に頑張っていたことは何か……

もちろん、こういった質問に対しては、就活生の方も準備をしてきている。出来不出来の違いは多少あるが、全員がそれなりの答え――つまり、間違ってはいないが、面白みのない答え――を用意できていた。

基本的な質問が済み、他の2人が私の方をちらりと見る。軽く頷いて、私は就活生に対して、初めて口を開いた。

「あなたはある日、山を登っていた。
頂上まで登り切ったと思ったら、実はそこは頂上ではなく、本当の頂上は更に登ったところにあるらしかった。
さて、あなたはこの後どうする?」

一瞬、彼らの頭上に疑問符が見えた。
どういった類の質問か、困っているのだろう。
しばらくすると、ポツポツと手が上がり始める。
「私はその新たな頂上を目指して登ります! 目標というのは、常に同じとは限りません。目標を達成したからこそ、新たな目標が現れるのです!」
「私なら、その山に登る価値があるかどうか考えます。とにかくやみくもに登ればいいというわけではないと思います。価値のありそうな山であれば、もちろん全力で登ります」

案の定、彼らは勘違いをしている。
山を高い目標の比喩と捉えてしまうのだ。
9人が似たり寄ったりの回答を済ませた。最後の10人目は、腕を組んでまだ悩んでいる。どうにか、他の人とかぶらない回答を出そうとしているのだろうか。
「あなたはどうですか?」
話しかけて見ると、ぱっと顔を上げ、申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「あの……すみません」
「どうしましたか? 思いつきませんか?」
「いえ、そうではなくて、その……」
するりと組んでいた腕をほどき、私の方をじっと見つめる。
「あの、質問をしてもよろしいでしょうか?」
「どういった質問でしょうか」
「その……たくさんあるのですが……」
他の就活生9人が、ぱっと彼の方に視線をやった。
「……ほう。どういうことでしょうか?」
「いえ、状況が全然わからないので。その新しい頂上までどれくらいの距離がありそうなのか、そのとき私は疲れ切っている状態なのか、誰かと一緒に登っているのか、もう夜になりそうなのか、次の日は休日なのか、そもそも登山が好きな人を想定すればいいのか、どういった経緯でその山に登ることになったのか……」
「なるほど。わかりました。では私からの質問は終わりにします」
10人の表情はわかりやすかった。
他の9人は、しめた、という顔をしていた。ライバルが1人減ったと思ったのだろう。
最後に答えた彼は、少し残念そうな顔でこちらを見ていたが、それ以上話すつもりはないらしく、「はい」とだけ答えた。
私は結局、その質問しかしなかった。それまでの彼らの回答なぞほとんど覚えていなかったが、それで十分だった。



面接試験が終わり、10人の就活生が部屋を出てから、他の2人の面接官が、私の方をちらりと見た。
「意地が悪いですね、あれだと落ちたと思うでしょう」
「まあ、もっと可哀そうなのは他の9人ですがね」
私のやり方を知っている2人は、そうは言いつつも、どこか楽しげだ。
「あらゆる事態を想定できること、状況に応じて臨機応変な対応を想像できること、そして何より……固定概念に囚われないこと。我が社に必要なのは、そんな人間だ」
「仰る通りで」
「ごもっとも」

最後に質問を返してきた彼の名前にだけ○をつけた私達は、すぐに次の就活生の面接準備に取り掛かった。

END


男は就職面接の面接官。水平思考ができる人間かどうかを見極めるために、その質問を投げかけていたのだった
総合点:2票  物語:2票  


最初最後
物語部門甘木
投票一覧
「思わずニヤリとする解説です。」
2016年01月18日01時
物語部門牛削り
投票一覧
「解説のストーリーはスカッとするなあ! 素敵な水平思考問題です。」
2015年04月28日22時

最初最後