【ラテクエ俺の歌を聞け】怒りの肩連打

俺はこの三木谷ランドで１０年間働いてきた。

三木谷ベアーというマスコットの着ぐるみを着て、子供たちに愛想を振りまいてきた。

他のスタッフでは到底できないマスコットの動きを身に着けた俺は、職人と言われても過言ではないはずだ。

だけど評価されるのは俺じゃない。

三木谷ベアーだ。



俺だって子供に、若い女の子にちやほやされたい。

五月ということもあって色々なことが嫌になり、俺は初めて仕事をさぼった。

ゴールデンウィークの忙しい中、俺の代役が見つからなくて今頃みんな焦っていることだろう。



そう物思いにふけりながら園の端っこで缶コーヒーを飲んでいると、突然思いっきり肩を叩かれた。

びっくりして後ろを振り向くと、そこには三木谷ベアーがいた。



「なんだよ、俺は戻らねえぞ」

「・・・・・・」



中の人間は何も答えない。

だが肩を何度も何度も叩いてくる。



「痛い！痛い痛い！怒ってんのか？俺が悪かったからやめ、ぶふぃ！」



思いっきり頬を殴りやがった。



「何しやがるこのやろう！」

俺はマスコットの頭をぶんどってやった。

だが顔が変わらない。

いや性格に言えば凶悪な顔つきになっただけだ。

奴の頭は確かにこの手にあるはずなのに。



「やめろー！早く頭をかぶせるんだ！」



向こうから上司が叫んでくる。



中に入っていたのは本物の熊だったのだ。



田舎の方にある三木谷ランドにはよく野生の熊が出没する。

ちょうど俺の代役を探していた上司は「本物の熊に演じさせればリアルでいいんじゃね？」と思い、麻酔銃で眠らせて決行。

起きた熊は混乱し、腹も空いていたのでそこら中に居る人間を襲おうとした。

だが鋭い爪と強い力は柔らかい着ぐるみに阻まれて効果がない。



俺の時も襲おうとしたがやはりダメ。

肩をパンパン叩くだけで終わってしまう。

しかし今は頭がフリーなので、鋭い牙が使える状態にある。



俺の肩に噛み付こうとする熊をうまくかわして、なんとかかぶせることができた。



やっぱ本物はこええ(´･_･`)

あんな愛らしい熊になれるのは俺だけだな。

自分の仕事に誇りを持てた俺は、今日も若い女の子の前で腰ふりダンスをしている。