とある貧しい画家はいつまで経っても完成しない絵に頭を悩ませていた。
ある日、その画家が家に帰ってくると、真っ直ぐに自分の絵に向き合い、最後の仕上げを行った。
そして、絵が完成すると画家は自ら命を絶った。
一体何があったのだろうか?
13年09月12日 07:40
【ウミガメのスープ】
[こびー]
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とある村に、とても美しい女性がいた。
彼女はいつも自分の目を包帯で覆い、杖を突いて歩いていた。
彼女はメデューサの末裔だった。
「あの女と目を合わせると石になってしまう」
そんな噂が流れみんなから忌み嫌われた少女は孤独にも、自ら目を塞ぐことで村で暮らしていた。
「美しいお嬢さん、あなたをモデルに一枚絵を描いてもいいかな?」
そんな彼女に一人の貧しい画家が声をかけた。
久しぶりに人から声をかけられ、少女は戸惑ったが、優しい画家の言葉に安心し、頷いた。
それから、少女が画家の前を通りかかるたびに、画家は声をかけ、彼女の絵を少しずつ描いていった。
たわいのないことを話しながら二人は惹かれあい、恋におちていった。
二人はやがて結婚し、村のはずれの画家の小さな家で静かに暮らした。
「うーん、どうしてもここが描けないな・・・」
「まだ悩んでるの?どういう絵なのかしら?」
「ん~、まだ君には見せられないんだ。でもこれは自信作だから、完成したら見せるよ!」
画家の絵は売れず、二人は貧しかったが幸せだった。
そんなある日、画家が市場で買い物をしていると、張り紙を目にした。
男は驚き、家に急いだ。
政府が魔女狩りを行うことを発表したのだ。
男の帰宅は少しだけ遅かった。
そこには無残にも槍で貫かれた彼女の姿があった。
「どうして・・・こんなことに・・・」
男が彼女を抱き起こすとわずかだが息があった。
彼女は今にも途絶えそうな声で言った。
「ごめんなさい、あなたの絵、夜中にこっそりと見てしまったの。とっても素敵だったわ。ありがとう、私のために。・・・これでやっと完成するのね。」
目を覆っていた包帯がするすると解け、彼女はゆっくりと目を開けた。
男は石になることはなかった。目を開けた彼女はもう息絶えていたのだ。
とても綺麗な瑠璃色の瞳が男を優しく見つめていた。
男は彼女の墓を庭に立てた。
そしてすぐに未完成の絵に向き合い、瑠璃色の瞳をその絵に描き足した。
そして完成すると、男は自ら命を絶った。
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とある画家が残した最後の名作。
それは美しい女性の絵だった。
特に瞳の瑠璃色はあまりに美しく、その女性の絵を見たものはまるで石になったように、その場に立ち尽くし魅了されるのだった。
総合点:2票 物語:2票
物語部門春雨【
投票一覧】
「「完成しない」というワードが、全ての中心にあり、全体が問題として、物語として、まとまっています。またエピローグがとても悲しく、綺麗です。」
2016年01月04日04時
物語部門ゴトーレーベル【
投票一覧】
「あまりにも悲しい「絵の完成条件」に胸を衝かれます。 なにもかもが終わった後に残される一枚の絵……それはあくまで美しく、同時に「これだけの代償と引き換えにこれができたからといって何の意味があるんだ」という途方もない虚無感を伴った腹立たしさを感じさせます。 二つの謎を越えた向こうにあるのは、人間と芸術についての物語です。」
2015年08月23日01時