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ウミガメのスープ 本家『ラテシン』 
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項目についての説明はラテシンwiki

大停電に見る光(問題ページ

れは、とあるグランドホテルで起きた事件の一部始終である。
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【Case1:ある少年の場合

少年はホテルの廊下で母親の支度が済むのを待っている。
そこに女が通りかかった。

「あら、ごきげんよう。今日はサッカーの練習、行かなくてもいいの?」

このホテルの常連である少年は、同じく常連のこの女と顔見知りだった。

「今日は中止なんです。さっきから急にすごい雨でうんざり」
「そう。残念ね。」

女はそう言って通り過ぎ、奥の部屋に入っていく。
少年はそれからしばらくの間、独りで母親を待つ。

そこに、停電が起きた。

突然のことに少年は混乱した。
辺りが騒然となる。
少年は怖くなり、母親の元へと、その場を立ち去った。


【Case2:あるの場合

男は女と食事をとっている。

「本当に貴女はきれいだ。美しい」

男は女を見つめてそう言った。
女の美しさに心酔した男は、ワインに睡眠薬を混ぜた。
そうして女が眠りに落ちる時を待つ。

「ふふ。お世辞が上手ね。でもそろそろ部屋に戻らなきゃ」

しかし女はそう言って席を立ってしまった。
男は女の後を追ったが、女はそのまま部屋に入ってしまう。
男はあきらめて自室に戻った。

そこに、停電が起きた。

突然のことに男は混乱した。
男は女のことが心配になり、自室を飛び出し女の部屋へと急ぐ。

その後、男は女を目の前にしてこう言った。

「無事でよかった。本当に、貴女はきれいだ」

そして部屋を後にした。


【Case3:あるの場合

女は男と食事をとった後、少年と挨拶を交わし自室に戻る。
しばらくして停電が起きた。
混乱した女は落ち着くために水を一杯飲むが、そこで急に眠気が襲う。
そしてそのまま床に倒れこんだ。

停電の騒ぎの中、女は目を覚ます。
まだ少し、頭がぼんやりとする。
辺りが真っ暗だったため、女は明かりになりそうなものを手探りした。
そうして明かりを灯した女は――

「え......うそ......ひっ、ぃいやあああああ!!」

悲鳴を上げ、絶命した。


【Case4:殺人鬼Aの場合

Aはある女を殺すためにホテルに来ていた。
事件前日、Aは一つの計画を立てた。
停電を引き起こし標的を殺害する。

停電のタイミングは女が独りになる時間に合わせた。
ホテルの部屋にはすべてオートロックキーがかけられているが、停電によりそれらは解放される。
停電と同時に部屋に侵入し、殺害する。

事件当日、果たしてホテルは大停電に陥った。
そして停電が復旧した後、Aは思った。

(ああ、失敗だ。失敗した......)

その後、Aは死んだ。


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以上がこの事件の顛末である。
少年、そしての行動はすべて、"Aの死"につながっている。

さて、なぜAは死ぬことになってしまったのか。

この事件の真相を解き明かしていただきたい。

17年08月11日 17:00
【ウミガメのスープ】 [野生のキャベツ]



解説を見る
解説】

女は殺人鬼Aで、少年の母親の殺害を企てたが、不測の雨により少年がホテル内に残ってしまったため失敗した。
その後停電が起こり、男が女の部屋へ向かったが、この時女が部屋に残っていたのは計画が失敗したためである。
結果、女は自らが仕掛けた停電によって男の侵入を許し、男に目を抉られ殺された。



【以下、真相(※長文注意)】



‐3:00 p.m.

「おいどうなってる!」
「......大変申し訳ございません......現在原因を確認中でございまして......」
「いつになったら直るのかって聞いてるのよ!」
「......ご宿泊の皆様には大変なご迷惑を......え?あ、はい......!あ、たった今原因がわかったそうで......あ、点いた。皆様、電気が点きました!これでもう、大丈夫です!


......

......

......ん......っ!頭が痛い......外が騒がしい。何だ?真っ暗だ。......そうか......停電だ。



ホテルが大停電に陥っていた頃、女は深い眠りの中にいた。
停電が復旧し、未だその混乱の騒ぎが残る中で、女は静かに目を覚ました。

(......あれ、何も見えない......明かりは......)

女はスマートフォンを手に取り液晶を照らした。

(......おかしいな。充電切れか)

しかし女に明かりは見えない。
そこで漸く女は気付く。

(......違う......おかしい......さっきの外の話。停電はもう復旧してるはず。非常灯だって......こんなに暗いはずが、ない)

そう。女には――(私には――眼が、ない

「え......うそ......ひっ、ぃいやあああああ!!」

不測の事態に思わず声が漏れる。
女には眼がなかった。
さっきまであったはずの、美しい眼が。

(まてまてまてまて......!どういうことだ!思い出せ思い出せ何があった思い出せ......!)


思い出せ!



‐2:00 p.m./女の自室

私は部屋に戻った後......そうだ。少し考え事をしていた。

(ああどうしよう......予定が狂った......どうしよう)

そうだ。予定が狂った。クソッ!
停電だけは予定通りに起きて......その後確か水を一杯飲んだ。
そこからの記憶がない。
そういえば急に眠気が。
薬か。

いつ?


‐1:00 p.m./ホテル内レストラン

「すみません、相席お願いしても良いですか?」

男......ここじゃあまり見ない顔だ。

「いやー、突然こんなことを言って失礼かもしれませんが、貴女はとても美しいですね」

やけに私の目を見て話す。気味が悪い。

「本当に貴女はきれいだ。美しい」

そういえば......私が一度トイレに立った後からしきりにワインを勧めてきた。
薬......あの時か。

「ふふ。お世辞が上手ね。でもそろそろ部屋に戻らなきゃ」

そうだ。計画の時間が迫っていた。
......あの男、何なんだ?


‐1:30 p.m./女の自室前廊下

「あ、こんにちは」
「あら、ごきげんよう。今日はサッカーの練習、行かなくてもいいの?」

部屋の前であの少年に会った。
そうだ。あいつのせいだ......あのガキがいたせいで私の計画は......

「今日は中止なんです。さっきから急にすごい雨でうんざり」
「そう。残念ね。(本当に。残念)」

失敗した。


‐現在/女の自室

(......っ!クソ!頭が痛む。目は......最早痛みすらない。何故だ。何故私の眼がない......どうして......)

「どうしてこうなった!」

「うるさいな」

思わず女が叫んだ後、声が聞こえた。
女のものではない、他の人間の声だった。

「うるさいんだよ、さっきから」
「お前は......」
「せっかく"この人"と見つめ合ってるんだ」
「お前が......」
「邪魔しないでくれないか?」

その声は、昼食の時に会ったあの男のものだった。

「いやー、運命だと思ったよ。今朝、君を見かけた時」
......どうして
「どうしても"この人"を僕のものにしたくてね。はは。ワインに睡眠薬を混ぜたんだけど、気付いたのかい?」
そうか......
「すぐに席を立ったから。正直焦ったよ?追いかけたけど、君は部屋に入ってしまったね」
計画が......私の......
「でも停電になって。心配したんだ。"この人"に何かあったんじゃないかって」
......失敗したからだ
「慌ててかけつけたよ。部屋が開いてて良かった。停電でオートロックが故障したのかな」
失敗したから......私は
「君がこの部屋にいてくれて良かった。他所で何かあっても僕にはどうすることもできなかったから」
そうだ......失敗したから私はこの部屋に残った。この部屋で、眠りに堕ちた
「おかげでまた、"この人"と再会できた」
私の......計画のせいだ......
「ああ。貴女はなんて美しいんだ......」
私の......失敗のせいだ......
「本当に。なんて美しいんだろう!」
失敗した......計画が

あの女を......


殺せなかったから


女の脳裏に一人の女性の顔が浮かんで消えた。
その女性は、あの少年の母親だった。


女は殺人鬼、通称Aと呼ばれている。
女は少年の母親の殺害を目論んでいた。
少年がサッカーの練習でいなくなる昼間を狙った計画だった。
母親が独りになったタイミングでホテルに停電を引き起こし、オートロックを突破し部屋に侵入した後殺害。
これが女の描いたシナリオだ――しかし。
この日は不測の大雨となった。
少年のサッカーの練習は中止となってしまい、女の計画は破綻した。


殺せなかったから。私は......

私はこいつに......私の眼を......

殺せなかったから......いや......殺せる

まだ、殺せる......こいつを殺して......あの女も

殺せる......

殺せる

殺す

「殺す」

「へ?」
「死ね」

女は男の声がする方へ飛び込んだ。
足の裏に割れたグラスの破片が刺さる。
最早痛みはない。
思い切り足を踏み込み、隠していたナイフを男の喉元へと突きつける。

「ひぃ?!」

グチャ



女の頭に鈍い衝撃が走った。

何だ?何が起きた?

女から遠のいていく全身の感覚。
立っているのか、寝ているのかさえわからない。

どうなった?私は今、どうなっ......

グチャ

グチャ

グチャ

......

......



「ふぅ......びっくりした」

男の前には女の体が横たわっていた。
男は掌を広げ、その上でキラキラと光る宝石のようなものを大事そうに愛でている。

「心配したんだ。停電があって、貴女が傷ついてしまったんじゃないかって」

それは女の"眼"であった。

「でも無事でよかった。本当に、貴女はきれいだ」

そう言って男とその眼は見つめ合う。
その眼を前にして、以前の持ち主であった女は肉塊となり転がっていた。
男は窓を開けた。
まだ雨は降っており、火照った頬に滴が当たる。

「行こうか」

男はその美しい眼に語りかけると、窓の外へと飛び出した。





私は薄れゆく意識の中で、男の顔を見たような気がした。

私の方を見つめる、笑った男の顔。醜い顔。

(ああ、失敗だ。失敗した......)

最悪だ。

そう思ったのを最後に、私の意識は闇へと堕ちた。






総合点:3票  チャーム:1票  トリック:1票  物語:1票  


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チャーム部門からす山
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「場面ごとに大文字を使って強調し、緊張感を高めています。「~の場合」という群像劇のような言い回しも魅力的です。そして問題文の最後ですべてがつながり、謎を解く段階に入る。大作の予感を感じさせます。まずはチャーム部門に。」
2017年09月07日22時
トリック部門からす山
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「問題文が長いだけあり、相当ベールは厚め。一つ一つ情報を収集していかないと真相にはたどり着けないでしょう。まるで推理小説のようなトリックと展開、推理小説好きにはぜひおすすめです。同じ野生のキャベツさんの「そこから見上げたヒマワリは、とても大きかったのだ」とともに、忘れられない一本の一つ。」
2017年10月26日20時
物語部門からす山
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ネタバレコメントを見る
「鳥肌もののサイコサスペンス物語。女よりも男の方がよほどやばいです。夢に出そう。ネタバレコメントですが、どうぞ味わってみてください。」
2017年10月26日20時

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