男はテレビのリモコンを床に落としたので
自身の死を悟った。
一体何故?
17年05月03日 22:26
【ウミガメのスープ】【批評OK】
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病気はいつ襲ってくるか分からない。
今日もその日の業務を終えマンションの自室に帰宅した男。
ポケットにしまったスマホや定期券を机の上に出し、慣れた手つきでリモコンを手に取りテレビの電源をつける。
それから数拍置いて、自室を覆っていた静寂を切り裂くような芸能人の笑い声がテレビから流れ始めた。
「今日は特に面白い番組はない曜日だっけ」
リモコンを机の上に置いてそう呟いた男は、タンスから部屋着を取り出しスーツを脱ぎ始めた。
なんてことはない、ごく一般的な一人暮らしのサラリーマンの夜だ。
ただ一つ、男の心臓が異常をきたすまであと数秒もないことを除けば。
何の脈絡もなく始まった激痛。何が起こったか考える間もなく男は床に倒れ伏した。
胸を押さえもがき苦しむ。痛い痛い痛い痛い。
命の危機であることを己の本能で理解した男は、唯一の光明である救急車を呼ぶために
スマホを置いてある机に向かってうまく動かない身体に鞭打って這いずり寄った。
「と……ど…………け」
必死に机の上に手を伸ばし、何かに触れると同時に倒れこむ。
その何かは掴み損ねてしまったが、男が倒れる際に触れた手に引っかかって机の上から床に落とすことができた。
力尽きて倒れこむときにスマホに触れたのは幸運だった
朦朧とする意識の中でそう考えた男は机から落としたものの上で指を動かし救急車を呼ぼうとする。
だけど男は救急車なんて呼べない。だってそれはテレビのリモコンだから。
男もすぐに気づく。リモコンを投げ捨てようとしたがそんな気力もない。
無念さと無力感に苛まれてもただテレビのリモコンを握りしめることしかできず…………男は死んだ。
<要約解説>
自室で急病により死にかけて倒れ伏している男は、力を振り絞って救急車を呼ぼうとスマホが置いてある机の上に手を伸ばした。
途中で力尽き倒れたものの、倒れた際に手が触れて机の上のものをひとつ床に落とすことができた。
それがスマホであれば指を動かして救急車を呼ぶことができたのだが、残念ながらテレビのリモコンであったために男は死を悟ったのである。
総合点:1票 納得感:1票
納得感部門ゴトーレーベル【
投票一覧】
「リモコンと絶望の相関。シンプルな問題文と、臨場感ある解説がさすがです。」
2017年05月28日13時