お客様の中にお医者様はいらっしゃいませんか?(問題ページ)
飛行機の乗客が大怪我をした。
「お客様の中にお医者様はいらっしゃいませんか?」
そんな客室乗務員の呼びかけを聞き、怪我人を助けたいと思っていた機内の医者達は全員、手をあげるのをやめた。
どういう状況だろう?
16年11月26日 22:39
【ウミガメのスープ】【批評OK】
[とかげ]
解説を見る
「あの、なんかハイジャックされたそうですよ」
前の席に座っていた女性が座席の隙間から急に声をかけてきたと思ったら、突然そんなことを言い出した。
「ハイジャック?」
新手のナンパかと思いきや、女性は比較的真面目な顔つきで、こう続けた。
「はい。この飛行機。それで、拳銃持った犯人が手をあげろって……あ、立たないでくださいね」
背伸びして女性の頭越しに前を見てみると、確かに乗客達が手をあげている。機内前方のファーストクラスの方は、間にスクリーンや柱があって、ここからは確認できない。
「前の方からそう伝わってきたんです。人質がいるそうで、犯人を刺激しないように指示に従えと」
「犯人は何人いるんですか?」
「わかりません、私からも前は見えませんし……」
よくわからないが、ひとまず僕も手をあげた。しかしこちらから見えていない犯人が、手をあげているかどうかなんて確認できないような気もするが。
「あと、後ろの方にも教えてあげてください」
言われた通り、僕も座席の隙間から後ろの席の人へ、今聞いたことを伝える。横で居眠りしていたおっさんも起こして、とりあえず状況を教え、やはり手をあげてもらった。
「犯人はゴリラみたいな体格の超強そうな男達らしいです」
数分後、また前の女性がそう話しかけてきた。もちろん手をあげたままである。
「何人いるんでしょうか」
「わかりません。でもみんなすごく屈強な感じだそうで、人質になっている客室乗務員の方は今にも死にそうって」
「死にそう? 人質を締め上げたりしてるんですかね」
「さぁ……私は聞いたことを伝えているだけなので」
話し声が聞こえたのか、隣のおっさんも会話に加わってきた。
「ゴリラみたいでも、何人かで飛びかかれば勝てるんじゃないですかね」
「でも拳銃を持ってて人質もいるなら、そう簡単にはいかないんじゃ……」
「あ、ゴリラの倒し方、僕知ってますよ。まず足元を……」
僕の素晴らしい知識を教えてあげようとしたのだが、そのとき後ろから急につつかれ、驚いて振り返った。後ろの席の若い男だ。
「何か新しいこと、わかりましたか?」
仕方ないので、今女性から聞いた話を彼に教えてあげた。彼もやはり人質がいるなら危険だという意見だったので、僕がゴリラの倒し方を説明しようと口を開いた。途端、バンッ――とドラマで聞いたことのあるような銃声が響き渡った。
きゃあ、と女性の甲高い悲鳴がいくつもあがる。前の席の女性も叫んだようだった。どうやら、拳銃は確かに持っているらしい。誰か撃たれたのだろうか?
更に前方から、ドンッと何かがぶつかる音、ガラスが割れる音、うめき声などが折り重なって響いてくる。時折また銃声が聞こえ、そのたびに悲鳴があがる。状況は相変わらず不明である。その場を動いて犯人グループを刺激してもいけないし、流れ弾に当たるのも嫌なので、ただ手をあげて待つしかない。
「お客さんが何人かで、犯人達に飛びかかったそうです! それで乱闘状態になっているとか……」
前の女性がそう伝えてくれていた最中に、別の声が前方から響いてきた。
「お客様の中にお医者様はいらっしゃいませんか?」
客室乗務員だ。焦った様子で、そう呼びかけながら前方から走ってくる。
客室乗務員がこうして後方まで声をかけにやってこられるということは。
犯人達は取り押さえられたのだろう。そして誰かが撃たれたのだろう。勇敢な乗客かもしれないし、近くにいた客室乗務員かもしれないし、犯人のゴリラかもしれないが、とにかく怪我人がいるのは確かだ。
僕は手をあげるのをやめ、自前の医療道具を持って、機内前方へ向かって走り出した。
END
ハイジャックされた飛行機内で、犯人が「手をあげろ!」と乗客に命令した。勇敢な乗客達がそんな犯人に立ち向かい、撃たれた人はいたものの、取り押さえることに成功。客室乗務員が怪我人の手当を呼び掛けたので、犯人を取り押さえたのだとわかった医者達は、安心して手をあげるのをやめたのだった。
総合点:3票 納得感:1票 トリック:1票 物語:1票
納得感部門牛削り【
投票一覧】
ネタバレコメントを見る
「「ハイジャックされている機内で誰が『お客様の中に~』などと呼びかけられるのだろう」「危険を知りながら何故医者は躊躇わず動けたのだろう」という疑問が想定される。解説では【医者からはハイジャック犯が見えず情報は全て人づて】【犯人からこちらは見えないだろうが、万が一の場合に備え手を挙げる】【犯人が取り押さえられたという推理】などの状況を与えることで、疑問の余地を消し去っている。納得感を高めるのに必要なのは、解説を読んだ人がどんな疑問を持つか考える想像力と、その疑問を払拭するまでは出題しないという根気強さである。」
2016年12月05日22時
トリック部門蓮華【
投票一覧】
「叙述トリックのお手本になる一作です。シンプルに必須要素が纏まっており、納得感も非常に高い名作です。」
2017年02月28日00時
物語部門華【
投票一覧】
ネタバレコメントを見る
「さすがとかげしゃん!納得の物語が用意されておりました!問題を解いた後も物語で楽しませていただきました!」
2017年10月28日10時