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「王子にそっくりの少年を見つけました。
生き別れの兄君に違いありません」
という大臣の報告を聞いて、半信半疑だった王子は、
確かにそっくりだと確認した後に、大臣を殺した。
一体なぜ?
16年05月28日 11:18
【ウミガメのスープ】
[みん]
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「王子にそっくりの少年を見つけました。
生き別れの兄君に違いありません。
しかし、我々が発見した時にはもうすでに…」
大臣から報告を受け、駆けつけた王子は愕然としていた。
自分の兄かもしれない少年の遺体。
貧しい暮らしだったという彼の服はボロボロ、
髪もボサボサで、肌も黒く汚れていた。
本当に、これが兄なのだろうか?
なんと哀れな…
王子は、直ちに遺体を浄めるよう命じた。
父王が亡くなり、戴冠式も間近という時、
突然、王子の双子の兄の存在が浮上した。
双子は不吉であるという言い伝えに従い、
凶印のある兄が間引きされたのだという。
それが今頃になって、実しやかな噂が飛び交うようになった。
『兄王子を死んだ事にして、こっそり逃した者がいる』と。
その噂を耳にした王子は、大臣に兄を探させていたのだが、
残念ながら、生きている兄に会う事は叶わなかった。
凶印と言われる痣まで一致しているというが、
王子は信じたくはなかった。
別人であって欲しかった。
しかし、身体を浄められ、棺に納められた少年の顔は、
王子と瓜二つの美しい顔立ちをしていた。
ここまで似ているとあっては、もう受け入れるほかない。
王子は棺に跪き、兄の冥福を祈った。
立ち上がり、ゆっくりと大臣を振り返る王子。
王子には一つだけ、引っかかっている事があった。
『王子そっくりの少年』
大臣はそう言わなかったか。
遺体を浄める前の兄は黒く汚れ、ボサボサの髪は目を覆う程伸びており、
その美しい顔は隠れていたのだ。
王子も、自分に似ているかどうかの判断がつかなかった。
「お前…顔がそっくりだと、いつ確認した?」
冷たい声に、大臣は身震いした。
この若い王子に、こんな気迫があっただろうか。
「…臣下から報告を受け、確認の為に一度影から窺ったのでございます。
直ぐさまお迎えに行くはずが、不幸にもこのような…」
「兄は物乞いをしていたと言ったな。普段から肌が汚れていたのだろう?
あのように黒い顔を見て、似ているか判断がつくというのか?」
「そ…それは…」
王子は、純粋に兄に会いたい。ただそれだけだったが、
大臣にとって、もう一人の王子は邪魔な存在だった。
大臣の座を狙う政敵に利用される前に、
いち早く兄王子を見つけ出し、始末した大臣。
自らの凶行を隠す為、死後に発見した事にした。
偽物が現れぬよう、兄王子の死を王子に確認させる事も必要だ。
生前に顔を洗わせて、王子に似ているか確認していたが、
顔だけ綺麗では生前に接触したと疑われる。
王子が早く確認したいと言って聞かないので、
全身を浄める時間もなく、顔を再び汚す事にした。
そこまでは良かったのだ。
慌てていた大臣は、うっかり「そっくり」と口を滑らせてしまった。
そして、大臣が思っている程、王子は愚かではなかった。
全てを白状し、罪を認めた大臣。
その処刑が、王子としての最後の大仕事だった。
戴冠式を迎える王子は、犠牲となった兄に誓い、
誇り高い王となる決意を新たにした。
【要点】
物乞いをしていた兄の遺体は、ボサボサの髪や肌の汚れで顔など分からなかった。
遺体を発見しただけの大臣が、兄の素顔を知っていたのが不自然だったので、
問い詰めると、大臣が邪魔な兄を殺したと判明したから。
総合点:2票 トリック:1票 物語:1票
トリック部門蓮華【
投票一覧】
「重要な情報が地の文ではなくセリフで書かれているところが、技を凝らした問題文になっていると思います。」
2016年06月24日21時
物語部門蓮華【
投票一覧】
「トリックのすばらしさのみならず、解説も童話として成立しそうなくらい、しっかりした物語で読み応えがあります。」
2016年06月24日21時