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ウミガメのスープ 本家『ラテシン』 
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ある探検家の手記(問題ページ

がる大岩を避け、そこかしこから湧き続ける蛇や蜘蛛や百足を退け、人ひとりやっと通れるような狭い通路を抜けて、ぼろぼろになりながらもたどり着いたそこは、どうやら小さな部屋になっているようだった。
薄暗い中でかろうじて見えたランタンに、つま先立ちでマッチの火を灯すと、部屋中が美しい輝きを放ちだした。
部屋中に散らばる貴金属たちが反射した光を、宝石が色とりどりに拡散して、まるで夢のような光景であった。
それを見た私は、財布を持ってくるべきだった、と後悔した。
ここに何かがあるということは知っていたから、ここにあるすべてのお宝を十分詰められる大きさの袋を持ってきていたし、いざとなれば服のポケットにだって入れられるというのに、一体なぜだろうか?
16年01月16日 11:37
【ウミガメのスープ】 [黒井由紀]



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しい人のための三行解説:狭い通路だったので、パーティーを代表して宝部屋へ行った小柄な盗賊。宝をネコババしたいと思ったものの、持ってきた袋はネコババには使えないし、ポケットに入れても、ポケットに何か入っていると分かった瞬間ネコババがばれてしまう。財布があれば、宝の中にあった金貨や銀貨を入れて、最初から自分が持っていたお金であるかのように偽装できたのに……。

「おーい、どうだった?」
宝を持って狭い通路を戻ると、勇者のよく通る声が響いた。
「……あんたたちの予想通り、宝部屋だったよ」
私は、そう言って宝の詰まった袋を掲げて見せた。
「シィフ、どうしたの? 機嫌が悪そうに見えるけど。回復魔法かける?」
「疲れただろ、肉食うか?」
魔法使いと格闘家が声を掛けてきたけど、私の不機嫌の理由は、そんなところにはなかった。
「あの細道は、ただ細いだけで特に罠とかは無かったよ。まあ、私でもキツいくらいには狭かったけど」
宝部屋への道は狭すぎて、重装備の勇者や、筋肉の塊の格闘家には通れなかったし、魔法使いも長い杖が引っかかるということで、一番小柄な盗賊の私が一人で先に進むことになっていたのだ。
狭い通路を一人で抜けたし、宝部屋の全貌を見たのは私一人だし、何といっても私は盗賊なのだ。宝部屋を見た瞬間、ネコババしたい欲がむくむくと頭をもたげてきた。
だけどそこで、私は致命的なミスを犯してしまった。できるだけ身軽な方がいいと思って、鍵開けの道具以外のすべての持ち物を、勇者たちに預けてしまったのだ。
持ってきた袋に詰めた宝石は、どうせパーティーの全員で山分けだし、ポケットに入れても、
「そうだ、シィフ。ポケットになんか入れてない?」
「い、入れてる訳ないでしょ? ほら」
「じゃあ、ちょっとそこで跳んでみてよ」
「勇者の癖になんて欲深いんだコイツは……(ぴょんぴょん)ほら、何もないってば!」
こんな風に、業突く張りで疑い深い勇者に見抜かれてしまう。
でも、財布さえあれば、宝部屋の金貨や銀貨を詰められるだけ詰めて、「これは元々私が持ってたお金なんだけど?」としらばっくれられたって言うのに! 私のドジ! バカバカ!
「まあまあシィフ、いいじゃない、これだけあれば今日は沢山飲めるわよ?」
「私、別に飲みたい訳じゃないし……ていうかウィッチ、心読まないでよ!」
「あらあらうふふ、顔に書いてあったわよ? まあそれはともかく、帰りましょうか。デスルーラ!」
「ちょっと待った、その呪文違……」
私たちの視界は暗転した。その後のことは……語ってもしょうがないので伏せさせてもらうことにする。
総合点:1票  伏線・洗練さ:1票  


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伏線・洗練さ部門なさ
投票一覧
「細かな描写の中に用意されている小さな抜け穴。真相はまさに針の穴に糸を通しているような、そんな感覚です。堅実な描写の黒井さんならではの美しい問題だと思います。」
2016年01月17日12時

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