【ラテクエ58リサイクル】主は来ませり(問題ページ)
「枯れ木に花を~咲かせましょう~」
と歌いながら枯れた木に粉を振り掛けている怪しげなお爺さんを見ていたカメオは、粉が掛けられた木をチェーンソーで薙ぎ倒した。
何故?
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*ラテクエ58問題決定戦、SNCさんの作品です。
※ラテクエ58 本戦は11月28日(土)、29日(日)開催となっております。
また、ラテクエ58の詳細については下記の「ラテクエ58問題決定戦」をご参照ください。
http://sui-hei.net/mondai/show/19594
15年11月20日 12:14
【ウミガメのスープ】
[えぜりん]
解説を見る
山の木々に病害が広がり、夢の中でお爺さんが粉を振り掛けた木だけが、現実には生き残っていて生長した。のちにカメオは、それをチェーンソーで切り倒して、山の再生のための財源にした。
以下、無駄に長い詳細。
本当に、ほんっとーに無駄に長いので、読まなくていいと思いまーす。
ある日のこと、自分の山の下草刈りに出かけたカメオは、奇妙なお爺さんに出会った。
「枯れ木に花を~咲かせましょう~」
お爺さんは、素っ頓狂な声で歌いながら踊るように半回転を繰り返している。
左腕に茶筒を持ち、右手を茶筒に突っ込んでは粉をつかみ出し、あたりに振りまいているのだ。
「枯れ木に花を~咲かせましょう~」
枯れ木と歌ってはいるが、手入れの行き届いているカメオの山に本来枯れ木などない。
そこに生えているのはカメオの山でも最も上等のヒノキの木のはずだ。
「枯れ木に花を~咲かせましょう~」
しかし…確かに辺りにあるのは枯れ木だ。
カメオは立ちすくんだ。
「枯れ木に花を~咲かせましょう~」
よく見るとお爺さんは、服装も奇妙であった。
どうも作務衣を着ているようなのだが、あちこち裂けてボロボロである。
回るたびに布切れがリボンのようにひらひらする。
しかし、裂け目から素肌が見えているわけでもない。
『何者だ?コイツ…』
カメオの凝視に気づいたのか、お爺さんの歌が止まった。
「おう、カメオ。」
お爺さんはニィッと歯をむき出して笑った。
『気持ちわりぃジジイだな…なんで俺の名を知ってるんだ?』
カメオの思考を読んだかのようにお爺さんは言葉を継ぐ。
「ワシはこの山のヌシじゃ。…ああ、別に信じなくてもよいわ。」
不思議なもので、信じろと言われると信じたくなくなるが、信じなくてよいと言われると信じてもいいような気がする。
カメオがアマノジャクなだけかもしれないが。
「お前には世話になっとるからの。ちょっとばかり助けに来たわい。この辺の山の木は全滅してしまうからの。」
さらりと恐ろしいことを言う。
林業で生計を立てているカメオにとって、木の全滅とは死同然である。
「山のヌシとはゆうてもな、ワシの力などたかが知れておる。だが…」
お爺さんは右手をまっすぐ前に上げ、その場で一回転した。
「今ワシの撒いた粉のかかった木は助けてやる。それくらいのことしかできんで…スマンな。」
そういえばさっきから何も喋っていないカメオだが、実は喋ろうとしても喋れないのであった。
まあ、よくある話である。
「じゃあ、後は頼んだぞ。カメオ。」
お爺さんはもう一度くるりと回った。
パアッとヒノキの落ち葉が舞い散り、お爺さんは姿を消した。
その途端、カメオは自分の家の布団の中で目を覚ました。
『ゆ…ゆ…夢!?』
夢オチもよくある話だが、内容の荒唐無稽さとは裏腹に、あまりにもリアルな実感がある。
しかもお爺さんの不吉な予言…カメオはぶるっと身を震わせた。
しばらくの間、カメオはいつもと変わらぬ日常を送り、いつしか夢のお爺さんのことも忘れた。
しかし二ヶ月ほど経った頃、山に異変が現れた。
正確には、異変は外からやって来た。
周辺の山林に病害が広がり、カメオの山にも飛び火したのだ。
たちまち木々の葉が落ち、山は冬枯れの様相になってしまった。
「木は全滅してしまうからの」
お爺さんの言葉と夢の風景がよみがえった。
『でも…粉のかかった木だけは助けてやると、あのジジイが言ってたじゃねえか。』
夢の中の言葉に頼るほどカメオは非現実的ではないつもりだが、この際そんなことも言っていられない。
ほんのわずかでも望みがあれば頼りたいのが人情なのだ。
カメオは山に入っていった。
あのお爺さんが粉を撒いていた場所に向かって。
そのあたりの上等なヒノキの木は…他の木と同様立ち枯れているように見えた。
しかし、よく見ると、すっかり丸裸になった枝のそちこちに、ぽつん、ぽつんと緑の芽が吹いている。
『これは…まだ生きてんのか…?』
カメオの思った通り、一ヶ月後には芽がすっかり伸び、ついでに花まで咲いた。
すっかり元通りのヒノキである。
もともとヒノキは日陰で良く育つ木であるが、日なたにも耐える性質だったのは幸いだったろう。
他の木々の葉が落ち、白々と日の光に晒された山で、ヒノキはたくましくそびえ、育った。
あれから二十年以上が経ち、今、カメオはヒノキを薙ぎ倒している。
チェーンソーから飛び散る木くずが、ふと、夢の中のお爺さんがまき散らした粉に見え、目を凝らしてしまう。
あのお爺さんは本当に山のヌシで、今も自分を見ているかもしれないとカメオは思う。
病害の影響で長らく国産木材は高値の取引が続いている。
このヒノキも高く売れるだろう。
カメオの生計は、とっくに林業だけでは成り立たなくなっていたが、山に苗木を植え、下草を刈り、手入れを怠ることはない。
山の再生のために、カメオはカネも労も惜しまないのだ。
ヒノキを売った金も、すべて山のために使うつもりだ。
なお、生き残ったそのヒノキの樹皮から新種のカビが発見されている。
そのカビから抽出された物質が優れた抗菌剤として使われることとなるのは、もうちょっと先のお話である。
ただ、そのカビが繁殖の際、粉をまき散らすように胞子を飛ばすという話を聞いたとき、カメオにはなんとなく夢の意味が分かった気がした。
総合点:1票 物語:1票
物語部門エリム【
投票一覧】
「複数の出題者が問題文を共有するラテクエ。他の方の問題文から、これだけ深みのある物語を生み出せることに感服です。勿論、ラテクエを抜きにしても、非常に素晴らしい物語です。絵本として出版したい。」
2015年11月21日00時