ミカは数年ぶりに書斎に足を踏み入れたために、息子のリュウヤに叩かれることになった。
どういうことだろうか?
15年07月27日 23:36
【ウミガメのスープ】【批評OK】
[牛削り]
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息子のリュウヤに、アルバムを探しておくよう頼まれた。
「頼むよ。卒業アルバムに生まれた頃の写真載せろって、先生が」
それが親にものを頼む態度かと腹が立ったが、そういう年頃なのだと思い飲み込んだ。
昔のアルバムは夫の書斎に保管してある。
リュウヤが部活に行っている日中、意を決して書斎のドアを開けた。
夫が死んだ時のまま掃除さえする気になれなかった部屋は、当たり前だが埃まみれだった。
天井には蜘蛛の巣さえ張っている。
ハンカチで口を覆って進み、奥のデスクの引出しを引いた。
アルバムは十冊。どれも表に「リュウヤ ○歳」と書いてある。
夫と顔を見合わせて笑いながら、リュウヤの色んな成長を喜んだな、と、昔のことを思い出す。
つまらない場面でも、たくさん写真に残した。
夫は夢中でシャッターを押していた。
呼吸が苦しくなってきたので、とりあえず「リュウヤ 0歳①」を掴んで部屋を出た。
ミカは気付かなかったが、この時、彼女の頭に蜘蛛の糸が一本だけ絡みついた。
▽
リュウヤが部活から帰ると、母親が居間でアルバムをめくっていた。
夢中になっているようで、息子が帰ってきたことにも気付かない。
「母ちゃん、飯」
反応はない。
リュウヤは舌打ちをして寝転がった。
彼はもうすぐ高校生。
父親のいない自分の境遇を疎み、女手一つで育ててくれた母に反抗的になることがあった。
それが、頑張りすぎる母親を心配する気持ちの裏返しであるということに、彼自身まだ気付いていない。
昔はもっと素直に感情を表せたのであるが。
しかしアルバムなんかそんなに面白いか、と、彼は母親の横顔に目をやった。
するとその時、彼女の頭で何かがきらりと光った。
──あ、白髪。
それが蜘蛛の糸の見間違いであることに、彼は本当に気付かなかっただろうか。
○
リュウヤは立ち上がった。
「母ちゃん」
返事はない。
近寄ると、彼は拳を握り、母親の肩を叩いた。
「え?」
ミカは振り向きかけて、やめた。
肩に当たる拳の優しさで、息子の気持ちは伝わったから。
母親の肩越しに、リュウヤは自分の写っている写真を見た。
「それをずっと見てたの?」
「……うん、いろいろ思い出しちゃって」
写真の中、両親に抱かれる幼いリュウヤは、二人の掌をしっかりと握りしめていた。
【要約解説】
数年ぶりに入った書斎で、蜘蛛の糸がミカの頭に絡みついた。
それを見たリュウヤは、白髪だと勘違いし、苦労をかけた母親の肩を叩いてあげた。
総合点:2票 納得感:1票 物語:1票
納得感部門芳香【
投票一覧】
「「なんだー」と思ったその先の、綺麗に収束していく納得感が見事です。」
2015年07月29日13時
物語部門のりっこ。【
投票一覧】
「実に美しく素晴らしい水平思考問題。感動です。」
2015年07月28日02時