「天才VS努力家」
誰が言うまでもなく、これが海亀空手大会
決勝のカメオとウミオの対決を端的に表す言葉であると皆が思った。
海亀空手・男女金メダリストの父と母の間に生まれたサラブレットと言われ、恵まれた家庭で育ったカメオ。
ごく普通の両親を持ち、けして恵まれたとは言えない家庭に生まれたが、それでもここまで登りつめたウミオ。
非常にいい勝負であったが、試合の結果は大方の予想通りカメオの勝利だった。
ウミオを応援していた人々は落胆しつつも、ウミオは十分にやった、いい試合だったとウミオを褒め称えた。
その試合を見ていた海亀空手を習っている少年のラテオは、自分も努力をして海亀空手を頑張ろうと思った。
しかし、それはウミオではなくカメオの影響だという。
一体どういうことだろう?
15年06月14日 00:10
【ウミガメのスープ】【批評OK】
[甘木]
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「天才VS努力家」
本心では誰もが理解していた。
カメオがたぐいまれなる努力家で、ウミオこそ百年に一人の天才であることを。
カメオは海亀空手の才能に恵まれているとは言えなかった。
病気がちで器用とも言えず、子どもの頃は後輩にも大幅に遅れを取っているほどであった。
家庭が恵まれていると言っても、海亀空手の実力まではどうしようもない。
しかし、それでもカメオは諦めることなく血のにじむような努力をしてここまで登りつめた。
海亀空手で強くなることが夢だったから。
親の影響でもなく、周りからの期待からでもなく、純粋にカメオは自分自身の夢を叶えるために努力してここまで登りつめた。
一方で、ウミオはまさに『トンビがタカを生む』を地で行く天才児であった。
ごく普通の両親の間に生まれながら、驚異のスピードで海亀空手の実力を上げていった。
家庭こそ恵まれてはいなかったが、それはウミオの才能に何ら影響を及ぼすものではなかった。
ウミオは他人と同じ労力どころか、ほんの数分の一程度の労力で簡単に他人の数倍の実力を手に入れることが出来たのだ。
ウミオにとって努力というものとは全く無縁のまま、ここまで登りつめた。
しかし、民衆の二人を見る目は違っていた。
カメオは親から受け継いで持って生まれた才能で登りつめ、ウミオは努力をして登りつめたに決まっていると。事実はそうではないとわかっていても、そう思い込むようにしていた。
それは金メダリストの両親で恵まれた家庭に生まれて何不自由なく暮らした(と勝手に思っている)カメオへの妬みもあり、平凡な両親で恵まれていない家庭に生まれたウミオへの判官贔屓も十分にあった。
『才能に恵まれない者が雑草根性と努力によってエリートを越える』……多くの民衆はそんな少年漫画の王道的な展開を期待していたが、皮肉にも偏見を持ったその民衆たちにとって、その対象は真逆に見えたのだ。
試合の結果、努力家であるカメオは天才のウミオに勝利した。
事実、多くの民衆が求めていた『才能に恵まれない者が雑草根性と努力によってエリートを越える』結果となったが、民衆の反応はそれと大きく違っていた。
「両親が金メダリストなのだから、その子供であるカメオに才能があるのは当たり前だ!」
「いくらカメオの実力があっても、出来て当たり前の血筋なのだから褒めることでもない!」
「そんな天才相手にいい試合をしたウミオこそ真の優勝者だ!」
そういった捻くれた心ないことを平然と言う者も少なくなかった。
しかし、ラテオは違った。
カメオは優れた血筋や才能こそ持ち合わせてはいないが惜しまぬ努力をして勝ちあがり、そして優勝を勝ち取った強者であると理解していた。
多くの民衆が意地でも認めようとしない中、ラテオはカメオから努力をすることの大切をしっかりと学んだのだ。
そしてもう一人。
カメオとの勝負によって人生でほぼ初めての完全敗北を学んだウミオもまた、カメオを見習って己の才能の上に胡坐をかかずに、より実力を伸ばす努力をすることを決意したのであった。
【簡易解説】
カメオが努力家でウミオが天才だったから。
総合点:4票 トリック:2票 物語:2票
トリック部門春雨【
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「実は何のトリックも無い(とも言える)。このスープをスープたらしめるトリックは読み手にある。」
2017年09月04日07時
トリック部門とかげ【
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「トリック自体は基本的で、難易度も高くありません。けれど、そんなシンプルなトリックだからこそ、これを綺麗に問題に組み込むのは難しいと思います。」
2015年06月14日14時
物語部門春雨【
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「知らないうちに解説の「民衆」となっていることも、少なくないかもしれません」
2017年09月04日07時
物語部門tsuna【
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「色々考えさせられるお話です」
2015年06月14日00時