今日の晩ごはんはコウタの大好物のハンバーグだ。
キッチンから漂ういい匂いに彼は心を躍らせていた。
しかし食卓についた瞬間、コウタは歯を食いしばった。
一体なぜ?
10年10月07日 22:37
【ウミガメのスープ】
[藤井]
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コウタの父親は、コウタが3歳の時に妻と離婚をした。そして間もなく再婚をする。
再婚相手である母親はどうしてもコウタの事を心から愛せずにいた。
そして再婚後の二人に宿った弟ユウイチの事を二人はコウタの何倍も可愛がっていた。
兄弟げんかをしていても咎められるのは必ずコウタの方。二人が同時に泣いていてもあやされるのはユウイチばかり。
身体的な虐待こそなかったものの、コウタは深く傷ついていた。
しかしコウタは母の作る美味しいごはんがとても好きだった。
今日の晩ごはんはどうやらコウタの大好物のハンバーグだ。キッチンからいい匂いがする。
コウタは母に疎ましがられないように部屋の隅で静かに座りながら、密かにわくわくしていた。
けれど今日はユウイチが風をひいて部屋で寝込んでいる。母は焼きたてのハンバーグと温かいごはんをユウイチの部屋へ運んでいったようだった。
コウタは早く食べたい気持ちを必死に抑え、大人しくじっと待っていた。
どれほどの時が過ぎただろう?
待ちくたびれたコウタに母が「コウタ、ご飯置いとくから。早く食べてね」と素っ気なく声をかける。
飛び跳ねるように急いで食卓につくと…ドキリ、大きく脈打つ心臓。目の前にあるのはなんとユウイチの食べ残しのハンバーグだったのだ。
言葉に出来ないほどの屈辱感にコウタは歯を食いしばる。いびつな形のそれにフォークを刺して一口食べると、ひんやり冷たい。
ほかほか焼き立て、まんまるのハンバーグは?僕の分はないの?
コウタは黙って食べ残しのハンバーグを完食し「…ごちそうさま、」と食卓を後にした。
握りしめた拳に爪の跡が残る。けれどそれよりもずっとずっと、心が痛かった。
総合点:3票 物語:3票
物語部門蓮華【
投票一覧】
「解説を読むだけで歯を食いしばることができます。悲しいや寂しいで済ませられない感情になれるでしょう。」
2016年05月20日14時
物語部門SNC【
投票一覧】
「この作品はとても良い文章によって構成された物語である。ただただ主人公の気持ちになって解説を読んで戴きたい。そして、是非良く噛み締めて戴きたい。心に染み渡ること間違いなしである。」
2016年02月29日23時
物語部門緋色【
投票一覧】
「物語として非常に優れていると感じる。もしこのような状況になったら自分はどうするだろうかといろいろ考えさせられる問題である。」
2016年01月14日16時