肯定の否定(カクテル人気投票 第三位 その3)(問題ページ)
よ
うこそ、BAR LATEthinkへ。
早速ですが、こちらをどうぞ。
肯定の否定(イエス&ノー)
ブランデー - 60ml
キュラソー - 4dash
卵白 - 1個分
白さが際立つ天空の雲のようなカクテル。
これを飲むと思考が冴え渡り良い質問が浮かぶ質問者御用達のカクテル。
しかし飲み過ぎると無関係な質問が多くなる。
(以上、天童 魔子さんの文章引用)
口下手な方は、饒舌になる手助けに出来るかも知れませんね。
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実は私、このカクテルをある医師にお教えしたのです。
後から聞いたところ、自分ではなく患者さんに作ってあげるためでした。
それを聞いた私は、その医師にも飲むようにお勧めいたしました。
一体どういうことでしょうか?
15年01月25日 15:38
【ウミガメのスープ】
[ツォン]
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ショート解説
*余命幾ばくもない患者に安楽死処置をすることになった医師。
卵と酒を断っていた患者に、最期の願いとしてその両方を使ったカクテルを飲んでもらってから処置した。
その判断は善悪にかかわらず、その医師の血肉となり経験としなければならないとかんがえ、マスターは医師にカクテルを勧めた。
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解説本文
その医師の方の言葉です。
……
患者さんは、いくつもの病気を抱えてらっしゃいました。
肝硬変、アレルギー、その他合併症…。
どれもこれも重篤で、正直長く生きられない体でした。
苦痛も相当なもののようで、ある日、彼から安楽死を求めてこられたんです…。
彼はおっしゃいました。
どうせ死ぬなら、好きなことをしてから、スパッと逝きたい、と。
彼は肝硬変になってから、好きだったブランデーを断ちました。
彼は若い頃は問題のなかった、卵アレルギーを発症してしまった。
肝硬変が悪化し、心疾患やその他の内臓疾患を併発してしまい、趣味だったマリンスポーツすら失った。
年齢もあり視力も低下、遠くに住む孫の顔をパソコン越しに見ることさえ、困難になってきた。
何を食べられるのだろう?
どうやって気晴らしをすればいいのだろう?
何を糧に生きればいいのだろう?
私と二人きりになった彼は、むせび泣くという言葉以外に形容しがたいほどに泣いていました。
孫や身内を呼んで、大好きだった卵やブランデーを飲みながら、安らかに死にたい。
そう、懇願されました。
私はまずご家族と弁護士をお呼びいたしました。
患者様は投薬などによる積極的安楽死を強く希望されていること、その希望をかなえてもよいのか。
私の責任問題などどうでもいい。
何せ、もう何も出来ないのです。
このまま治療しても今までどおりの痛みが長く続く。
治療しなければより強い痛みが彼を襲う。
どちらにせよ、いつ亡くなられてもおかしくはない。
ならば、私が責を負い、安楽死を与えてあげるべきではないのか、と感じたことを正直に話しました。
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後日、彼の病室で、彼が好きだったブランデーと卵の両方を使ったカクテル…、マスターに教わった「肯定の否定」を作って差し上げました。
久しぶりのブランデーと卵をおいしそうに飲み、当然ながらアレルギーがおきました。
苦しいはずですが、彼の表情はにこやかで、お孫さんの頭をなでながら私に合図を出しました。
…たった数分で眠るように意識を失い、鼓動が止まるまでに数十分もかからなかったでしょう。
お孫さんは、患者さんの腕に抱きつきながら、眠っていました。
それを悲喜様々な表情で見守るご家族。
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「結果として、私はその患者さんを死なせてしまいました。…もちろん法的には合法な積極的安楽死です。本当は気に病む必要はないと思います。が、それでも私は彼を、殺しました。」
「…こういうときこそ、私はこのカクテルをお飲みいただくようお勧めいたします。」
「どうしてですか?」
「イエスアンドノー、つまりどちらも正しく、間違っているのです。逆説的に、ノーアンドイエスとなり、間違っているけども正しいともいえます。」
「…」
「死を選ぶことが医師として正しいとはいいません。ただ、ただ。先生はその患者様に感謝されているのだと思います。そのご家族も、他人である先生に死の責を負わせたことに申し訳ないながらも感謝しているはずです。患者様の、人間としての尊厳を守る意味では、正しい行為だったと思います。」
「…それで<肯定の否定>であり、<否定の肯定>である、と。」
「はい。だからこそ、貴方には飲んでいただきたい。これからも、医師であるために、貴方の血肉としていただきたいのです。」
「ふふふ。そうですね。…そうさせていただきます。」
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それから、彼は通常の診療に加えて「尊厳死・安楽死」についての考察をブログでアップするようになりました。
イエス・アンド・ノー、ノー・アンド・イエス
という表題で。
総合点:1票 その他:1票
その他部門とかげ【
投票一覧】
「患者のためのカクテルを教えた医者に、同じカクテルを薦めるマスター。オリジナル設定はご都合主義とも取れるかもしれないが、こういう伏線の忍ばせ方は珍しく、面白い。カクテルのレシピも楽しむことができる、シャレた1杯……じゃなくて1問。」
2016年12月01日00時