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片付かない部屋(問題ページ)
自分の部屋を掃除していた男は、先週よりもゴミの量が少なくて掃除が楽なことに気付き、イライラしていた。先週まではゴミが多いことにイライラしていたのに、なんで?
14年11月02日 14:36
【ウミガメのスープ】【批評OK】 [とかげ]
【ウミガメのスープ】【批評OK】 [とかげ]
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髪の毛の長さで、それが彼女のものだということはすぐにわかる。俺自身は髪が短いし、独り暮らしの俺の部屋にやってくる髪の長い奴は彼女くらいしかしないからだ。
「まったく、いつもいつも汚しやがって……」
文句を垂れながら掃除機をかける俺を、側でへらへらと笑って眺めるだけの彼女。
「しょーがないじゃん、髪は抜けるもんなんだからさー」
「でも気になるだろ?」
「かといって1日何回も掃除はしないよ普通」
「お前の髪の毛なんだから、お前が掃除すりゃいいんだ」
「私の掃除機のかけ方に文句言ってたじゃーん。どうせ後でまたかけ直すことになるでしょ?」
「ぐぬぬ……」
潔癖症気味なのは自分でもわかっている。実際、だからこそこれまでは、同じように潔癖症な、きっちりしたタイプの女の子と付き合ってきた。同じ潔癖症なら問題はないだろうと踏んで、だ。しかし、逆にこだわる部分がお互いに違うことで衝突し、長続きはしなかった。
今の彼女は、そんな昔の彼女達とは正反対の、だらしなくて大雑把な女だ。どうポジティブに考えても自分とは全然違うタイプの人間だとわかっていたのだが、なぜか惹かれてしまった。彼女の許せない点はたくさんあるのに、それを指摘してものらりくらりとうまく交わされてしまい、喧嘩にすらならない。皮肉なことに、こいつが一番長続きしている彼女だ。
毎週末、俺の部屋にやってきては、髪の毛を落としたり、台所を汚したり、物を散らかしたりして帰っていく。
それを片付けたり掃除したりするのは、もちろん全部俺だ。
「ほんと、お前が来なきゃもっと綺麗にできるのに……」
カーペットについた髪の毛を取ろうと、コロコロを手に呟く。
かたん、と何か落ちる音がした。
振り替えると、彼女が手にしていた雑誌を床に落としたらしかった。俺の雑誌だ。なぜか拾おうとしない彼女にイライラしながら、かがんで雑誌を手に取る。
「おい、これ俺まだ読んでないんだからな、傷つけるなよ」
「……なの?」
「うん?」
「私は来ない方がいいの?」
「え?」
慌てて見上げると、いつものへらへら顔が嘘のように、彼女は固まった表情でこちらを見ていた。
「何言って……」
「わかった、ごめんね」
「おい、何がわかったって?」
「……ごめん」
彼女はそれだけ言ってがばっと自分の荷物を掴むと、走るように玄関に向かい、あっという間にドアの向こうへ姿を消した。
その様子を呆然と見ているしかできなかった俺は、開け放たれたドアが勝手に閉まったときの音で、ようやく状況を理解した。同時に困惑した。
そんな、いつも軽口を叩き合っているというのに、このくらいで出ていくか?
女ってのは本当にわからん。追いかけるのもカッコ悪いし、まあ、どうせ来週になればまた来るだろう。
ひとまず連絡も取らず、彼女の方から何かアクションがあるのを待つことにした。
けれど。
毎日のように来ていたメールが、あの日以来ぴたりと止んだ。日に日に不安は増したが、自分から連絡するのは癪で、できなかった。
どうせ顔を出すとたかをくくっていた一週間後の週末も、何の音沙汰もなく過ぎ去ろうとしていた。いつものように掃除機をかけるが、いつもより部屋はずっと綺麗で、楽だった。長い髪の毛は、この部屋のどこにも見当たらない。床に落ちてはいないし、カーペットに絡まってもいないし、洗面台に張り付いてもいない。
一週間前はあんなに文句を言いながら掃除をしていたのに、なんだろう、この感情は。イライラして仕方がない。部屋は片付けたのに、俺自身は何も片付いていないような、乱雑なこの気持ちは、おそらく。
なぜもっと早くそうしなかったのかわからないくらい、自然な動作で彼女に電話をかけた。
2コールで出た彼女は、何も喋らず、息づかいだけが微かに聞こえた。
「あのさ……悪かったよ」
「……」
「言い過ぎた。ごめん」
「……行っていいの?」
「いいよ……じゃなくて、来いよ。汚しても散らかしてもいいから」
「また文句言うでしょ?」
「言うよ。文句言いながら掃除するよ」
「なにそれ」
久しぶりに聞いた彼女の笑い声を聴くと、なぜかひどく落ち着いた。電話の向こうでは、きっといつものへらへら顔を浮かべているに違いない。
ここで好きだとか会いたいだとか、そんなストレートなことが言えたら格好がつくのかもしれないし、彼女も喜ぶのかもしれない。しかし、生憎俺には言えそうにない。曖昧に濁した言葉で、それでも俺にとっては精一杯素直に、呟いた。
「床にお前の髪の毛が落ちてないと、寂しいんだよ」
END
男は部屋に彼女の髪の毛が落ちていることにイライラしていた。彼女が部屋に来なくなったことで掃除が楽になったが、彼女が来なくなったこと自体にイライラしていたのだ。
「まったく、いつもいつも汚しやがって……」
文句を垂れながら掃除機をかける俺を、側でへらへらと笑って眺めるだけの彼女。
「しょーがないじゃん、髪は抜けるもんなんだからさー」
「でも気になるだろ?」
「かといって1日何回も掃除はしないよ普通」
「お前の髪の毛なんだから、お前が掃除すりゃいいんだ」
「私の掃除機のかけ方に文句言ってたじゃーん。どうせ後でまたかけ直すことになるでしょ?」
「ぐぬぬ……」
潔癖症気味なのは自分でもわかっている。実際、だからこそこれまでは、同じように潔癖症な、きっちりしたタイプの女の子と付き合ってきた。同じ潔癖症なら問題はないだろうと踏んで、だ。しかし、逆にこだわる部分がお互いに違うことで衝突し、長続きはしなかった。
今の彼女は、そんな昔の彼女達とは正反対の、だらしなくて大雑把な女だ。どうポジティブに考えても自分とは全然違うタイプの人間だとわかっていたのだが、なぜか惹かれてしまった。彼女の許せない点はたくさんあるのに、それを指摘してものらりくらりとうまく交わされてしまい、喧嘩にすらならない。皮肉なことに、こいつが一番長続きしている彼女だ。
毎週末、俺の部屋にやってきては、髪の毛を落としたり、台所を汚したり、物を散らかしたりして帰っていく。
それを片付けたり掃除したりするのは、もちろん全部俺だ。
「ほんと、お前が来なきゃもっと綺麗にできるのに……」
カーペットについた髪の毛を取ろうと、コロコロを手に呟く。
かたん、と何か落ちる音がした。
振り替えると、彼女が手にしていた雑誌を床に落としたらしかった。俺の雑誌だ。なぜか拾おうとしない彼女にイライラしながら、かがんで雑誌を手に取る。
「おい、これ俺まだ読んでないんだからな、傷つけるなよ」
「……なの?」
「うん?」
「私は来ない方がいいの?」
「え?」
慌てて見上げると、いつものへらへら顔が嘘のように、彼女は固まった表情でこちらを見ていた。
「何言って……」
「わかった、ごめんね」
「おい、何がわかったって?」
「……ごめん」
彼女はそれだけ言ってがばっと自分の荷物を掴むと、走るように玄関に向かい、あっという間にドアの向こうへ姿を消した。
その様子を呆然と見ているしかできなかった俺は、開け放たれたドアが勝手に閉まったときの音で、ようやく状況を理解した。同時に困惑した。
そんな、いつも軽口を叩き合っているというのに、このくらいで出ていくか?
女ってのは本当にわからん。追いかけるのもカッコ悪いし、まあ、どうせ来週になればまた来るだろう。
ひとまず連絡も取らず、彼女の方から何かアクションがあるのを待つことにした。
けれど。
毎日のように来ていたメールが、あの日以来ぴたりと止んだ。日に日に不安は増したが、自分から連絡するのは癪で、できなかった。
どうせ顔を出すとたかをくくっていた一週間後の週末も、何の音沙汰もなく過ぎ去ろうとしていた。いつものように掃除機をかけるが、いつもより部屋はずっと綺麗で、楽だった。長い髪の毛は、この部屋のどこにも見当たらない。床に落ちてはいないし、カーペットに絡まってもいないし、洗面台に張り付いてもいない。
一週間前はあんなに文句を言いながら掃除をしていたのに、なんだろう、この感情は。イライラして仕方がない。部屋は片付けたのに、俺自身は何も片付いていないような、乱雑なこの気持ちは、おそらく。
なぜもっと早くそうしなかったのかわからないくらい、自然な動作で彼女に電話をかけた。
2コールで出た彼女は、何も喋らず、息づかいだけが微かに聞こえた。
「あのさ……悪かったよ」
「……」
「言い過ぎた。ごめん」
「……行っていいの?」
「いいよ……じゃなくて、来いよ。汚しても散らかしてもいいから」
「また文句言うでしょ?」
「言うよ。文句言いながら掃除するよ」
「なにそれ」
久しぶりに聞いた彼女の笑い声を聴くと、なぜかひどく落ち着いた。電話の向こうでは、きっといつものへらへら顔を浮かべているに違いない。
ここで好きだとか会いたいだとか、そんなストレートなことが言えたら格好がつくのかもしれないし、彼女も喜ぶのかもしれない。しかし、生憎俺には言えそうにない。曖昧に濁した言葉で、それでも俺にとっては精一杯素直に、呟いた。
「床にお前の髪の毛が落ちてないと、寂しいんだよ」
END
男は部屋に彼女の髪の毛が落ちていることにイライラしていた。彼女が部屋に来なくなったことで掃除が楽になったが、彼女が来なくなったこと自体にイライラしていたのだ。
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