「ミツル君のこと、大好きだよ」
メグミは口元を綻ばせて言った。
ミツルはそれを聞いてたまらなく嬉しくなった。
メグミを抱きしめたいと思った。
でも、彼女に触れもせず、返事すらもしなかった。
何故だろう。
14年09月15日 00:58
【ウミガメのスープ】【批評OK】
[牛削り]
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初めての恋人との初デート。17歳の夏だった。
ミツルはこの日のために、何度もスキニーランドで下見をし、話のネタを何十個も用意した。
苦手な服のコーディネートも、友人にアドバイスをもらいながら頑張った。
それなのに、待ち合わせ場所でメグミを見た途端、頭が真っ白になった。
格好悪いところをいくつも見せたし、話が続かず沈黙してしまう場面も多々あった。
帰りの電車でも話が弾まず、いつの間にかメグミは眠ってしまった。
向かいの席で、ミツルは一人ため息をついた。
今日一日の愚考が思い出され、自分の頭を殴りたくなる。
こんなはずじゃなかったって、叫びだしてしまいそうだ。
振られるかもしれないな、と思った。
恋も愛も知らないまま、「好き」という感情が処理できなくなって、告白した。
彼女もきっと、恋も愛も知らないままに、それを承諾した。
多分今日、彼女にはわかってしまっただろう。あれは間違いだったって。
自分も眠ってしまえたらと、ミツルはうつむき目を閉じた。
その時だった。
「……次は何に乗ろうかな~」
メグミの声だった。
ミツルは顔を上げた。
メグミは相変わらずすやすや眠っている。
夕日が彼女のワンピースを染めていた。
「……チュロス食べたかったんだ。ありがとう」
寝言だった。メグミは今日のことを夢に見ているのだ。
次は何に乗ろうかと聞いても、彼女は無反応だった。
チュロスを買ってきてあげたときも、あまり嬉しそうにはしていなかった。
違った。
彼女も緊張していたのだ。
自分と同じように、感情をうまく出せなかっただけなのだ。
メグミは眠ったまま、ちょっとはにかんだ。
「ミツル君のこと、大好きだよ」
ミツルはそれを聞いて、たまらなく嬉しくなった。
「俺もだよ。俺も君のこと、大好きだよ」
そう声に出したかった。抱きしめたくなった。
すんでのところで、彼は自分を制した。
まだ、お互い何も知らない若者だ。
それはもっと、二人が大人になってからでも遅くない。
今はただ、こうして見つめていられればそれでいい。
可愛い夢に微笑む彼女を、起こしてしまわぬよう。
そっと。
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【簡易解説】
寝言で「大好きだよ」と言った彼女を起こしたくなくて、触れもせず返事もしなかった。
総合点:1票 物語:1票
物語部門春雨【
投票一覧】
「何故だろう? 言わせんな恥ずかしい!」
2016年01月04日04時