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香坂 美智子 様
急にいなくなってしまう私をお許しください。
美智子と出会うまでは、こんなに仲良くなるとは思っていなかったので、お別れがとても辛いです。
ちょっと助けただけなのに、身元不明の私を家に招き入れてくれたこと、すごく感謝してます。
それからの日々は楽しかったなぁ…
(中略…楽しかった思い出の回想)
本当はすぐ帰らなくちゃいけなかったんだけど、美智子の優しさに甘えちゃった。
だけどもう行きます。
しばらくの間お別れだね。
5年後の2月21日にまた会いましょう!
矢代 コズエ 様
あなたと会えなくなってしまった私をお許しください。
あなたの残した手紙の意味がようやくわかりました。
そして冒頭の謝罪はあなたの目的が分かったから。あなたの努力を無駄にしてしまって本当にごめんなさい。
でもコズエと過ごした2週間はかけがえのないものだった。
だから自分の行為が無駄だったなんて思わないでね?私はとってもとっても感謝しているんだから。
コズエ、本当にありがとう。
私は今とても幸せです。
この二つの手紙の内容から、二人が再会できない理由を推理してください。
13年02月26日 22:26
【ウミガメのスープ】【批評OK】
[水上]
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過去ー現在ー未来
2033年4月16日 AM10:23
「矢代研究所」と書かれたトタン製の看板と共に、研究所 (と言っても見た目はプレハブ小屋だが) が大きく揺れた。
「ぶぶぶぶ、無事戻れた…」
矢代コズエはその研究室のドアの隙間にねじ込まれている無数の新聞の日付を確認し、安堵の声を出した。
「本題はここからだよね…」
彼女はそうひとりごちると、隅にある神棚に手を合わせてから研究所を飛び出した!・・・瞬間に呼び止められた。
「あんた、矢代コズエさん?」
50代半ばの見知らぬおっさんだ。
「は、はい、私です。矢代は私ですけど…なにか?」
おっさんは破顔し、
「よかったー! ようやく見つかった! ホイこれっ」
っと黄ばんだ便箋を手渡した。
「いやー、みっちゃんに20年後の今頃に、ここら辺で紫色のブレスレットをつけたショートカットの女の子が通るはずだから、この便箋を渡せっていう無理難題を申し付けられたんだよ。いくら俺が優秀な郵便配達員っつったて無理難題過ぎねえかってつっぱってたんだけど、本当に来るんだもんなあ!別に俺、みっちゃんの話をうたがっ……」
優秀な郵便配達員の話を上の空に、彼女はいま手元にある黄ばんだ便箋を眺めている。流麗な字で矢代コズエ様と書かれていた。
話している途中の優秀なおっさんに「ありがとうございました!」と大声で伝え、また研究所の中に戻って行った。
「美智子…お母さん…」
彼女は震える手で自分の名前の書かれた封筒を、開いた。
過去ー現在ー未来
2008年04月02日 PM16:58
プオオオオォォォォォォーーーー‼
けたたましいクラクションを鳴らし、スピードを落とすことなく車は去って行った。
矢代コズエは自分が突き飛ばしたことで呆けた顔でしゃがみこんでいる香坂美智子の手を引っ張りあげた。
「大丈夫…ですか?」
コズエは美智子に怪我がないか確かめるため、体をしげしげと観察している。
「あの、あ、ありがとうございました!」
「み!耳は!? 耳は、聞こえますか?」
「耳、ですか?…はい、問題なく聞こえます」
「よ、良かった〜」
安堵のため息をついて、今度はコズエの方が地面にへたり込んでしまった。
「あ、あなたは!あなたはお怪我なかったんですか?」
「え?あ、あたし? あー全然ダイジョブだよ!…ぃーょっこらっしょっと!」
勢いよく立ち上がったコズエを今度は美智子がじろじろと眺めている。
「なんだかあなた…他人の気がしない… そうだ! 良かったらご飯ご馳走させてくれないかしら? 助けていただいたお礼に!」
「え!? え〜と、う〜ん、まぁいっか。じゃあ甘えちゃおうかな?(いろいろ話もしたかったしね)」
そこからすっかり意気投合した二人の同棲生活が始まった。
当初の計画にはなかったことだが、コズエには嬉しい誤算だった。
コズエはこの時代の人間ではない。
彼女は父との共同開発で作り上げたタイムマシンによってこの時代にやってきた。
(ちなみに父親はタイムマシンが出来上がる一年前に肺ガンの為、他界している)
美智子は彼女の母親である。
美智子は今コズエが未然に防いだこの事故によって聴覚を失うはずだった。そしてコズエが3歳の頃にこのことが原因で再度交通事故に会い他界している。
コズエの目標は達成された。あとはなるべくこの時代の人たちと関わりを持たず、コズエの時代に帰るだけだったのだが…
2008年04月16日 AM7:32
「それじゃあコズエ。会社行ってくるね。夕飯の支度任せたから!」
「はーい、行ってらっしゃい!(あれから二週間も経っちゃった…)」
コズエは美智子を見送ると、一つため息をついた。
「もう潮時だよね」
コズエは美智子から貰った誕生石のブレスレットを優しく撫でた。
そして手紙を書き始めた。
過去ー現在ー未来
2013年02月21日 PM15:40
産声が雨音を切り裂いた。
矢代美智子は無事女の子を出産したのだ。
夫の矢代武彦は涙で顔面がぐしゃぐしゃである。
「美智子。お疲れ様。そして…そして本当にありがとう!」
「うん、頑張ったよ。タケさんが横にいてくれたから頑張れたよ」
「名前は実は考えてあるんだ。…カタカナでコズエっていうのはどうかな?」
「コズエ? 矢代…コズエ…」
「ん?気にいらなかったかな? ならもうちょ…」
「矢代コズエ‼ そういえば今日21日だよね!? タケさん、ちょっとお願いあるんだけど!」
「な、なに?」
「私のポーチ!家から持ってきて!」
美智子は赤ん坊を抱きながら夫が持ってきたポーチから手紙を取り出した。
矢代コズエからの手紙だ。
美智子は赤ん坊と手紙の内容を見比べて、夫に尋ねた。
「タケさんの研究って今どんな感じなの?」
2015年2月21日 AM11:33
美智子は二回目の誕生日を迎えたコズエの頭を撫でながら、昨日医者に言われたことを反芻した。
心疾患… 余命は一年…
美智子は腕の中で眠っているコズエを起こさないように、何度も読み返した二十歳のコズエからの手紙を取り出した。
あの時、コズエが私を助けたのは私の延命の為? でも私があの事故で死んでいたらコズエは生まれないし…
そうか、あの事故が原因でコズエが生まれた後に死んでしまうのか… それを回避する為に… でも結局は私の寿命はここまでみたい… それでも。それでも!
あの子に、二十歳のコズエに会えて良かった!
コズエをベッドに寝かし、美智子はペンを取り手紙を書き始めた。
過去ー現在ー未来
2033年4月17日 AM5:08
雨が屋根を打つ音でコズエは目を覚ました。
実家に戻っても一人のままだった。
美智子からの手紙通りだ。彼女は心疾患で私が三歳の時に命を落としている。
奇しくも過去に行って彼女の未来を変える前、交通事故で他界した日と一緒な日だった。
コズエはベッドから降りると、母からの手紙とブレスレットを見つめた。
「私が運命を作り変えてまで手にいれたのは、この二つ…」
(うぅん…それだけじゃない)
コズエはペンを取った。
・・・
雨がしとしと降っている。
コズエは手紙を持ったまま、美智子の墓前で手を合わせた。
そして手紙をお墓の上に置いた。
あっという間に雨に打たれ、インクが滲んでくる。
「これが最後の手紙。きっと読んでくれるよね」
お母さんへ
手紙ありがとう。確かに受け取りました。ちょっとびっくりしたけどね。
実はお父さんも去年死んじゃったんだ。ホント〜にタバコの吸いすぎ!そっちでお母さんに嫌な顔されるんじゃないかと心配してます。
私は一人ぼっちになってしまいました。
でもなぜだろう。お母さんと…美智子と過ごした2週間で私は変わったのかな。
そんなに悲しくないんだ。
強がってるわけでもないよ?…でもこのブレスレットの存在は大きいかも。
お母さんと…美智子と同じ年で同じ時間を過ごせた…
私の網膜にあの時の景色が強烈に焼き付いてしまった。ブレスレットに触れるたび、昨日のことのように思い出せる…
貰った手紙の通りだとお母さんは今笑っているよね?
その笑顔を思い浮かべると私も自然に笑顔になっちゃう。
私は今、とても幸せです。
総合点:1票 物語:1票
物語部門春雨【
投票一覧】
「手紙形式の問題文と、解説文の「構成」が非常に素晴らしいです」
2016年01月04日02時