とある街に、メアリーという名の女性がいた。彼女は職場で出会ったジョージという男性と恋に落ち、同棲生活をしていた。二人は特に目新しいこともなく、あまり変化のない日々を過ごしていたが、そんな毎日に幸せを感じていた。
しかし、最近メアリーにはある悩みがあった。それは、
物忘れのひどさ。洗濯物をいつ干したのか、どのように食事を作ったのか、パソコンをどこにしまったのか。そういったことをすぐに思い出せなくなるのだ。メアリーはしょっちゅう捜し物をしていた。
しかしある日、メアリーがいつものように
捜し物をしていると、
メアリーの物忘れは突如解消された。
その日の夜、ジョージはメアリーを殺して自殺した。
状況を補完してください。
13年01月24日 22:49
【ウミガメのスープ】【批評OK】
[プエルトリコ野郎]
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メアリーは幸せな生活を送っていました。
充実した仕事をし、充実した仲間たちと生活する日々。特に目新しいこともなく、平凡な毎日でしたがメアリーはそんな平凡な日々に幸せを感じていました。
しかし、ここ三日ほどメアリーにはある悩みがありました。それは物忘れのひどさ。
洗濯物を干そうと思ったら干してあるし、食事を作ろうとしたらすでに作ってあるし、パソコンをそこら辺にほったらかしておくと、なぜか全く違う場所にしまわれているのです。
メアリーには洗濯物を干したり、食事を作ったりなんてした覚えなど全くないのですが、実際にその光景を見ると、本当にやっていないのか、自信がもてなくなってしまうのです。メアリーはそのことだけ悩んでいました。
・・・
ジョージは幸せでした。だって、使われない部屋の隅の家具に籠り、メアリーと一緒に生活することができるのですから。家中一杯にカメラを仕掛け、メアリーの様子を観察していられるなんて、ジョージがただ単に後を付け回していた時分より、メアリーをよく観察することができました。
そんな生活も2週間ほど経ち、ジョージはメアリーが案外だらしないことを発見しました。
それで、愛する人を喜ばせたいが一心で、ある日メアリーがほったらかしていった、洗濯物を干してあげました。
メアリーは仕事に行ったのでしばらく帰ってくることはないでしょう。そう思うとジョージは他のこともしてあげたくなりました。
メアリーが帰ってきた時のために食事を作って冷凍庫に入れておき、そこらへんにほったらかされたものを全て整理し、棚やバスケットに入れました。
そして、ジョージはいつものように、いつもの場所へ戻って行きました。今日とて、ジョージは待つのです。メアリーが喜ぶ顔を想像しながら。
・・・
しかしある日、メアリーはおかしいと思い始めます。明らかに物忘れのせいではないような気がするのです。
この前なんか、パソコンの置いておいた場所をわざわざ写真に撮っておいたのに、パソコンは違う場所にしまわれていました。明らかに物忘れとは思えません。
誰かいるのかもしれません。一人で暮らしているはずの、この一軒家に。
メアリーは、捜し物を始めました。誰か居るという、その証拠を。
普段めったに見ないところの隅々まで調べてみました。本棚の裏、テレビの裏、天井。そうしたら、以外とあっさり小型のカメラを見つけました。
メアリーは、理解できませんでした。おそるおそる、カメラを手に取ってみます。
「へ…え…?カメ…?」
すると…
トッ…トッ…
誰もいないはずの家から、突如階段を下りる足音が聞こえてきました。彼女は何が起こっているのか理解できませんでした。誰かが来る、そう思っても恐怖のあまり動くことができません。
そして、彼女の居る部屋のドアが開きました。そこに立っていたのは…ジョージでした。
ジョージは、メアリーがだいぶ前につきあっていた男性でした。メアリーがジョージに愛想を尽かして別れてしまった後、メアリーはジョージとは全く連絡を取っていませんでした…が。
「久しぶりだね」
ジョージがメアリーに話しかけます。
「本当にキミは変わっていない…。実に愛らしい。」
「そんな驚かないでくれよ。好きな人を観察したいと思うのは普通だろ…?」
「僕がモニターを見ていたら、突如キミの顔が大きく移り込んだから驚いたよ」
「僕は、最初はまずいと思った。キミが怒るんじゃないかと思ってね。」
「だけどね、これはよく考えたら、運命だったんだよ」
「だってカメラを見つけてしまうなんて、神様が僕ら二人が出会うように仕向けてくれているんだ、こそこそしないで、ラブラブに暮らせって…。そう思わない?」
「だって僕たちこんなに愛し合っているのに…」
「そうだよ。この際結婚してしまおう。いや、結婚とはいかずともまた昔のように。」
「だってなんでわざわざ別々に暮らしているふりをする必要があるんだい?」
「ね?また新たな生活を始めようじゃないか…?」
ジョージはそこまでまくしたてると、メアリーに近寄ってきました。メアリーはへたりこんでよたよたと後ろに下がっていきました。
壁際までメアリーを追いつめ、ジョージはささやきました。
「愛してる…」
「い…いや。」
「え?い、今なんて…?」
「どっかいってよ…あんたのことを愛してるなんて、そんなわけないでしょ!?」
ジョージは信じられないといった表情をしていました。しかし、その顔はあっと言う間に笑顔に変わりました。
「あははは…なんて哀れな僕…。僕は幻覚を見ているんだ…。僕を愛さないメアリーなんて、メアリーじゃないよ。」
そういって彼は、どこからともなくナイフを取り出しました。
まさかメアリーは、自分が殺されるなどと、思っていなかったのです。メアリーが最後に見たものは、気持ち悪いくらいさわやかな、ジョージの笑顔でした。
総合点:7票 チャーム:2票 納得感:1票 トリック:1票 伏線・洗練さ:1票 物語:2票
チャーム部門蓮華【
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「「物忘れは突如解消された」という表現が非常にうまいです」
2016年07月09日10時
チャーム部門tsuna【
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「物忘れが酷いから探し物をしていたらそれが一気に解消されるなんてゾクゾクします」
2015年05月16日13時
納得感部門tsuna【
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「「物忘れの」悩みが、一気に解消するなんて普通ならばありえない謎に対し、これしかないと言う解答を示してくれています」
2015年05月16日13時
トリック部門かもめの水平さん【
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ネタバレコメントを見る
「「やってない」ことは思い出せる訳がない。この事実から作り出されたこのシチュエーションパズル。傑作かつ怪作であると思います」
2016年07月05日15時
伏線・洗練さ部門tsuna【
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「細部まで神経が行き届いていると思いました」
2015年05月16日13時
物語部門Period【
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「よくできた小説のようなストーリーでした。鳥肌。」
2016年06月02日20時
物語部門tsuna【
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「何と言う衝撃的な物語なのでしょう」
2015年05月16日13時