俺は目の前の容器に入った赤い液体を見つめる。
妻は俺が殺したも同然だ。
息子が扉を激しく叩いている。破られるのも時間の問題だろう。
孫の顔が見れないのが心残りだが、俺はもう疲れちまった。もうこれ以上、人殺しに加担したくないんだ。
妻よ。苦しかったろう。俺だけ楽には逝かないからな。
俺は赤い液体を一気に飲み干す。苦しい。辛い。気が狂いそうになる。
もうすぐそっちに行くからな。
息子が扉を破る頃には既に俺は息絶えていた。
状況を説明して下さい。
13年01月23日 02:24
【ウミガメのスープ】【批評OK】
[ruxyo]
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私の父は、近隣の集落で唯一の鍛冶屋でした。
外を歩けば父が作った農具、道具があふれていて、子供ながらに誇らしかったのを覚えています。
ある時、長老の使いがやってきて、武器の製作を依頼されました。部落間での戦争が起こったのです。
父の作った武器は飛ぶように売れ、いつしか父は剣などの武器ばかりを作るようになりました。
そんな時、事件は起こりました。集落が盗賊団に襲われたのです。
私と父を含めた数十人は生き残ったものの、母を含む大勢の人は剣で斬り殺されてしまいました。
そう、それは紛れも無く、父が作った剣でした。
盗賊たちは戦争で落ち延びた敗残兵たちによって構成されたものだったのです。
父は母の死を自分のせいだと悔み、人殺しの凶器を作り続けていた自分を激しく憎みました。
それからというもの、父はまるで抜け殻のようになってしまいました。
ある朝、工房の煙突から煙が立っているのを見ました。あの一件で父は仕事を辞めたはずなのに、なぜ?
工房を見に行くと、内側から鍵がかかっていました。
妙な胸騒ぎがします。普段は鍵をかけて仕事をすることはありません。
扉の小窓から中を覗くと、父がうつろな目で剣を鋳造しています。その剣を何に使うのかは容易に予測出来ました。
「親父!何するつもりだ!やめろ!」
父を止めなくては。私は無我夢中で扉を破ろうとします。
声に気づいた親父は、見つかったか。というような困った笑みを浮かべ、残念そうに目を閉じます。
そして、口を開け―――
―――ドロドロの液体になった、赤く燃えるソレを、口に流し込みました。
肉と内蔵が焦げる香ばしい嫌な音と、声にならない叫びを発しながら、父は悶え苦しみます。
私が扉を破る頃には、父は既に息絶えていました。
わざわざこんな死に方をしたのは、母への罪滅ぼしのつもりなのでしょうか。それとも、私が父の自殺を止めようとしたからなのでしょうか。
いずれにせよ、私が止めに入らなければ、父はきっと、母の後を追って、自ら作った剣で自害していたことでしょう。
それならいっそ、好きなように死なせてやればよかったと、今では後悔しています。
今日もどこかで、父は人殺しの手助けをしているのでしょうか。
神様どうか、罪深き私の父を許してあげてください。
総合点:1票 物語:1票
物語部門春雨【
投票一覧】
「赤い液体から見える壮大な物語が凄いです。」
2015年07月12日12時