江戸川乱子は学園でも一二を争う美人だと有名であった――というのも、一つ上の学年に乱子と肩を並べるほどの美貌の主がいたのである――ので、靴箱にラブレターが入っていることも、放課後に男子から告白されることも日常茶飯事であった。
しかし、乱子がそれらを受け入れることはない。
乱子には幼い頃からずっと想いを寄せている男子がいるからだ。
三年になり、乱子は学園で一番の有名人になっていた。
そんなある日、乱子は例の想い人から告白される。
しかし、あろうことか乱子は彼を拒絶してしまった。
その後、ひどく傷ついた彼の言葉を聞いて、乱子は喜ぶのである。
乱子はどうして喜んだのだろう?
※挿絵はただのイメージにすぎません。
12年09月09日 01:36
【ウミガメのスープ】
[ロデリック]
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明智学園には二人の美貌の主がいた。
二年三組の江戸川乱子と、三年七組の夢野久子である。
二人は毎日のように学年問わず男子から交際を申し込まれるのだが、二人とも一度たりとも受け入れることはなかった。
その理由は両者ともすでに好きな男子がいるからというものであったが、奇しくも、二人が慕う人物は同じ男子生徒だったのである。
二人が想いを寄せる二年五組の隼野丈は、乱子の幼馴染で、久子の部活の後輩であった。
事の始まりは久子の卒業式のことである。
久子は丈を呼び出し気持ちを伝えたのだが、丈はそれを断った。
振られるとは微塵も考えていなかった久子が理由を問うと、丈は江戸川乱子のことが好きなのだと告げて去ってった。
「初恋を奪われた! 世界で一番美しいはずの自分を馬鹿にしたあの憎たらしい女に奪われた!」
それは久子の中に恐ろしく真っ黒な感情を生み出した。
「あの女さえいなければ、私に振り向かない男などいないのに、あの女さえいなければ、私は世界一美しいというのに」
その日、彼女は理科室から硫酸の瓶をひとつ盗んで帰った。
乱子が学園で一番醜い女性になったと噂になったのは、春休みがあけた後すぐであった。
学年で一番の美しさになるはずが、学園で一番の醜さになったと、噂は瞬く間に広まり、乱子はあまりに不本意な理由で学園一の有名人となった。
顔中が火傷でただれ、かつての美貌はその片鱗すら残されていなかったのである。
周囲の態度は一変し、乱子へ注がれる感情は憐憫、軽蔑、そして悪意に変わった。
そんな中、ただ一人変わらず乱子に接してくれる男子が隼野丈である。
丈はある日、意を決して、乱子に告白した。
「俺はずっと昔から、お前のことが好きだ! だから、俺と付き合ってくれ!」
突然の告白に、乱子は戸惑い、そして――
「……同情してるの? そうなんでしょ? こんな不細工な女の子、好きになる人なんているわけないじゃん! そういうのやめてよ!」
あろうことか、長年想い続けてきた丈を振ってしまったのである。
丈は怒ったように拳を握りしめ、しかし、すぐにフッと笑うと、筆箱から一本のシャープペンシルを取り出した。
乱子が不思議そうに悲しそうに見つめる中、すこしの躊躇の後、丈はそれで自身の双眸を突き――痛くはなかったと、後になって丈は語る――乱子に喋る隙も与えず、告げた。
「どうだ! これで、もうお前の見た目なんて何も関係ねーだろ! 俺は、お前の、心が好きなんだよ! だから、俺と付き合ってくれ!」
その言葉を聞いて、乱子は泣いた。
「馬鹿じゃないの……」とその場に泣き崩れた乱子の顔には、驚きや呆れを超越した喜びの色が浮かんでいたのであった。
総合点:3票 チャーム:1票 伏線・洗練さ:1票 物語:1票
伏線・洗練さ部門SNC【
投票一覧】
「この問題には、至るところにクルーが仕込んである。無駄が無く、本当に洗練された問題と言えよう。」
2016年03月01日03時
物語部門プエルトリコ野郎【
投票一覧】
「色々な物語を想像出来るのもウミガメの醍醐味。挿絵や文章の雰囲気が想像を盛り上げてくれて素敵です。」
2015年04月27日18時