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しあわせの鳥(問題ページ)
臆病なユウキ少年に、ラブレターを書く決意をさせたのは1羽の鳥であるという。
いったいどういうことだろう?
いったいどういうことだろう?
17年09月30日 02:00
【ウミガメのスープ】【批評OK】 [az]
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それは、離陸してから5分と経たないうちの出来事だった。遠方の親戚を訪ねるため飛行機に乗っていた木戸勇樹が座席から目撃したのは、爆音と共に突如として炎を吹いたエンジンだった。
次の瞬間、機体が大きくガクンと揺れた。窓から見えるエンジンは、真っ黒な煙を吹き上げている。何らかのトラブルが起きたことは火を見るよりも明らかだった。
「お客様にお知らせいたします。エンジントラブルの発生により、当機は緊急着陸いたします――」
にわかに騒がしくなる機内で、ユウキの脳裏をよぎったのは墜落の2文字。
真っ二つに割れた機体、燃え上がる炎、黒焦げの残骸。テレビで見た昔の飛行機事故の映像を思い出したユウキは、きっと自分は死んでしまうのだ、と思った。
恐怖と絶望の中、残された時間で何をすべきかを考えたユウキが、手荷物から取り出したのはペンとメモ帳だった。
死んでしまうのなら、せめて最後の言葉を残しておこう――。そう思ったユウキは震えるペン先を紙に走らせた。
まず家族への感謝のメッセージを書いた。ここまで育ててくれてありがとう。幸せな人生でした。
次に親友に宛てた言葉を記す。俺がいなくなっても、変わらず楽しくやってくれよ。
そして、あとは誰にメッセージを遺そう、と考えたとき、思い浮かんだのは高校のクラスメイトの長谷川サヤカの顔だった。中学で知り合って、一目惚れして以来、実に5年間も片想いを続けている相手だ。臆病なユウキには遂に告白などできなかったが、死んでしまうのなら、最後に想いだけでも伝えておきたかった。
「拝啓 長谷川沙也加様
残暑の厳しい候となりました。長谷川様におかれましては、ますますご清祥のこととお慶び申し上げます。
さて、この度私は死ぬことになりまして」
そこまで書いて、ユウキはメモを破いた。
違う。なんだこれは。もっとストレートに想いを伝えなくては。
「ずっと前から好きでした! 僕と付き合ってください!」
違う違う。死んだら付き合えない。ユウキはまたメモを破いた。
落ち着け、自分の気持ちを正直に書こう――。ユウキは息をひとつ吐くと、真っ白なメモ帳にペンを向けた。
やっとの思いでラブレターを書き上げたとき、機体が大きく振動した。いよいよ墜落か、とユウキは覚悟したが、次の瞬間、機内は歓声と拍手で満たされていた。
ユウキが手紙に夢中になっている間に、飛行機は着陸に成功していたのだ。
「助かった……!」
安堵のため息を漏らすユウキ。ようやく少し落ち着いた彼は、自分が握りしめている紙切れに目をやった。
「君の声は小鳥のさえずり? 僕は君のために天上から愛のハープを奏でよう? なんだこりゃ?」
……そこにあったのは、勢いに任せて書き上げたあまりにもあんまりなポエムだった。
呆然としていたのも束の間、爆発の恐れがあるのですぐに機内から出よとの指示。そうだ、まだ完全に助かったわけではないのだ――。現実を思い出し、ユウキは慌てて乗務員の指示に従い脱出した。
――エンジンは未だ、黒煙を上げている。手負いの鉄の鳥を眺めてユウキは、自分が置かれていた危機をあらためて実感して震え上がった。そして同時に、その危機を脱した安堵感から、全身の力が抜ける思いだった。
「そうだ、ラブレター……」
さっさとあの恥ずかしいポエムを処分しようと思い立ったユウキだが、そのポエムを記したメモがどこにもない。握りしめていたはずなのだが、どうやら脱出の途中で機内に落としてきてしまったようだ。
ユウキの顔がみるみる青ざめていく。今後、調査などで機内に入った誰かが、あの手紙を拾ったら……
ユウキは天を仰いだ。
あぁ……
爆発してくれ。
――・――・――・――
ユウキの祈りも虚しく、エンジンの火災は無事に消火された。結局、この事故による死傷者は一人もいなかった。
やがて専門家による調査が行われ、事故の原因は1羽の鳥がエンジンに巻き込まれたこと――いわゆるバードストライクだったことが判明した。
【要約】
ユウキの乗っていた飛行機が、バードストライクによりエンジントラブルを起こした。
墜落による死を覚悟した彼は、最期に自分の想いを遺しておくため、ラブレターを書こうと思った。
次の瞬間、機体が大きくガクンと揺れた。窓から見えるエンジンは、真っ黒な煙を吹き上げている。何らかのトラブルが起きたことは火を見るよりも明らかだった。
「お客様にお知らせいたします。エンジントラブルの発生により、当機は緊急着陸いたします――」
にわかに騒がしくなる機内で、ユウキの脳裏をよぎったのは墜落の2文字。
真っ二つに割れた機体、燃え上がる炎、黒焦げの残骸。テレビで見た昔の飛行機事故の映像を思い出したユウキは、きっと自分は死んでしまうのだ、と思った。
恐怖と絶望の中、残された時間で何をすべきかを考えたユウキが、手荷物から取り出したのはペンとメモ帳だった。
死んでしまうのなら、せめて最後の言葉を残しておこう――。そう思ったユウキは震えるペン先を紙に走らせた。
まず家族への感謝のメッセージを書いた。ここまで育ててくれてありがとう。幸せな人生でした。
次に親友に宛てた言葉を記す。俺がいなくなっても、変わらず楽しくやってくれよ。
そして、あとは誰にメッセージを遺そう、と考えたとき、思い浮かんだのは高校のクラスメイトの長谷川サヤカの顔だった。中学で知り合って、一目惚れして以来、実に5年間も片想いを続けている相手だ。臆病なユウキには遂に告白などできなかったが、死んでしまうのなら、最後に想いだけでも伝えておきたかった。
「拝啓 長谷川沙也加様
残暑の厳しい候となりました。長谷川様におかれましては、ますますご清祥のこととお慶び申し上げます。
さて、この度私は死ぬことになりまして」
そこまで書いて、ユウキはメモを破いた。
違う。なんだこれは。もっとストレートに想いを伝えなくては。
「ずっと前から好きでした! 僕と付き合ってください!」
違う違う。死んだら付き合えない。ユウキはまたメモを破いた。
落ち着け、自分の気持ちを正直に書こう――。ユウキは息をひとつ吐くと、真っ白なメモ帳にペンを向けた。
やっとの思いでラブレターを書き上げたとき、機体が大きく振動した。いよいよ墜落か、とユウキは覚悟したが、次の瞬間、機内は歓声と拍手で満たされていた。
ユウキが手紙に夢中になっている間に、飛行機は着陸に成功していたのだ。
「助かった……!」
安堵のため息を漏らすユウキ。ようやく少し落ち着いた彼は、自分が握りしめている紙切れに目をやった。
「君の声は小鳥のさえずり? 僕は君のために天上から愛のハープを奏でよう? なんだこりゃ?」
……そこにあったのは、勢いに任せて書き上げたあまりにもあんまりなポエムだった。
呆然としていたのも束の間、爆発の恐れがあるのですぐに機内から出よとの指示。そうだ、まだ完全に助かったわけではないのだ――。現実を思い出し、ユウキは慌てて乗務員の指示に従い脱出した。
――エンジンは未だ、黒煙を上げている。手負いの鉄の鳥を眺めてユウキは、自分が置かれていた危機をあらためて実感して震え上がった。そして同時に、その危機を脱した安堵感から、全身の力が抜ける思いだった。
「そうだ、ラブレター……」
さっさとあの恥ずかしいポエムを処分しようと思い立ったユウキだが、そのポエムを記したメモがどこにもない。握りしめていたはずなのだが、どうやら脱出の途中で機内に落としてきてしまったようだ。
ユウキの顔がみるみる青ざめていく。今後、調査などで機内に入った誰かが、あの手紙を拾ったら……
ユウキは天を仰いだ。
あぁ……
爆発してくれ。
――・――・――・――
ユウキの祈りも虚しく、エンジンの火災は無事に消火された。結局、この事故による死傷者は一人もいなかった。
やがて専門家による調査が行われ、事故の原因は1羽の鳥がエンジンに巻き込まれたこと――いわゆるバードストライクだったことが判明した。
【要約】
ユウキの乗っていた飛行機が、バードストライクによりエンジントラブルを起こした。
墜落による死を覚悟した彼は、最期に自分の想いを遺しておくため、ラブレターを書こうと思った。
総合点:2票 納得感:1票 トリック:1票
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納得感部門からす山
【投票一覧】2017年09月30日17時
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「この状況では、ラブレターを書こうとするのも無理ないでしょう。むしろ臆病だからこそかもしれません。(そして解説の、最初は絶望的な雰囲気だったのが、「このたび死ぬこととなりまして」あたりからそうでもなくなる感じがなんかちょっと面白いですw)」
トリック部門からす山
【投票一覧】2017年09月30日17時
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「単純に「1羽の鳥」と言われただけでは思いつきもしない緊迫した状況。それを予想させない「1羽の鳥」が見事なミスリードになっています。」
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