男は熱いキスによって死んだ。
何故か?
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男は人間を愛せない。
氷像のアーティストである彼は大の人間嫌いだ。
みんな心のどこかじゃ自分を馬鹿にしている。
自分を愛してくれないなら触れたくもない。
いっそのこと心なんて無くていい。
男はそう考えていた。
そのため自分の作品である一体の女性型氷像に固執し、マイナス15℃の冷凍室で大切に保管されている。
「マリ、僕は悲しいよ。触れるだけで君は壊れてしまう。こんなにも愛しているのに……」
男は氷像のその儚さに、一層恋い焦がれてゆく。
そしてその日、男は一線を超えてしまった。
「マリ、僕は耐えられないよ。君が愛しいんだ。いいだろ、マリ」
マイナス15℃の冷凍室の中、くびれた氷像の腰に手を回し、体を密着させた。
そして貪るようにキスをした。
男はなんとも幸せそうな顔をしている。
だがその瞬間、男は氷像から離れられないことに気付く。
抱きしめた身体は氷の張り付き、身動きが取れなくなってしまったのだ。
男はもがいて、もがいて、氷像から顔を引き離す。
ベリッ!
氷像の唇に真っ赤なルージュが付いた。
男の唇にも真っ赤なルージュが。
舌はまだ氷像の唇に吸い込まれている。
唾液がしたたり、その場でつららへと変わる。
絶体絶命の危機、しかし男は幸せそうだ。
"マリ、そんなに僕を必要としてくれるのかい?僕が欲しいのかい?そっか……嬉しいな"
男は氷像と共に朽ちる決意をした。
そして再び二人の唇は重なり合った。
彼はその後発見されなかった。
最後の作品となる"抱き合う男女"の作品は高く評価され、一人の資産家によって現在大切に保管されている。
総合点:2票 物語:2票
物語部門黒井由紀【
投票一覧】
「とても衝撃的です。解説を読むと、残酷でありながらも、ロマンチックで美しい光景が目の前に広がります。最後の一文も好きです。」
2016年02月08日12時
物語部門天童 魔子【
投票一覧】
「あの問題文からこの解説はすごいのです」
2014年11月28日16時