おかえりなさいと言いたかった（問題ページ）

私は酒乱で、酔うと度々無意識に娘に暴力を奮ったり、煙草の火を押し付けたりと言った虐待行為をしてしまうことがあった。

あの子は優しいから、こんな私を責めもせず、毎朝笑顔で｢いってきます｣と手を振った。

ある年の6月1日。
学校の決まりで、皆が一斉に、夏服に衣替えする日。

いつものように手を振る娘。
その半袖のブラウスからのぞく腕の、小さな火傷に気付く。
煙草の火を押し付けた痕だと、はっきり分かった。

いつの傷だろう。昨日まで長袖だったから気づかなかった。
きっとまた、酔っ払った時に私がやったのだ。なんてことだ。

同じ目に遭わなければ。

ふとそう思った。
あの子に酷いことをした罰を受けなければ、と。

ライターで、煙草に火をつけた。
それを、自分の腕に押し付ける。

｢熱……ッ！｣

あまりの熱さに、煙草を取り落としてしまった。
ああ、あの子はこんな痛みを味わっていたのかと後悔するよりも早く、炎が私を包んだ。
部屋中に散乱していた酒瓶。
その残っていたアルコールが、一瞬で引火したのだ。

愚かな私は、｢いってきます｣と手を振ったあの子におかえりなさいも、ごめんねも言うことが出来ないまま、焼け死んだ。