【ラテクエ1】Blue,SkyBlue(問題ページ)
「せっかくですが、お断りします」
相手は、がっかりしたが、その後、喜んだ。
状況を説明せよ。
10年11月28日 20:59
【ウミガメのスープ】
[きのこ]
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「かーくん!かぁくん、もうそのセーター脱ごうよ~!」
今日も私はそう言いながら、息子の翔(かける)を部屋中追い掛け回す。
「このセーターが一番好きなんだもーん!ママが編んでくれたやつだから!」
「でももう毛玉だらけじゃないか。肘に穴も開いちゃってるし。ほらこっち来て見てごらん、
パパが今日デパートで新しいセーターを買って来…」
「せっかくですが、お こ と わ り し ま ー す!!あははは!!」
ケラケラと笑いながら、生意気な口調で返してくる。一体どこで覚えてくるのだろう?
息子お気に入りの、毛玉がたくさんついたくすんだ水色の手編みのセーター。
4年前に編み上がった時には、きれいな空色をしていた。
******
空がとても高く感じる秋晴れの日だった。
「見て見て!仲良しの看護師さんに頼んで買ってきてもらっちゃった♪」
得意げな顔をして、妻はベッドの掛け布団の上に、空色の毛糸が5つ入ったパックを置いた。
「病院てすることなくて暇なのよねー。寝てるのももう飽きたしさ。
だったらいっちょ、かわいい息子のために何か作ってやろーと思ってね!
ね、ほら、翔の名前にぴったりの色じゃない?いいアイディアでしょ!」
妻は器用ではなかったが、教則本と格闘しながらどうにかこうにか3ヶ月かかって
1着のセーターを完成させた。……出来たものは、どう見ても2歳の息子には大きすぎるシロモノだったが。
「…うちこんなにでかい子供いたっけ?」
「い、いーじゃん!でかくなるじゃん!これから!」
少し恥ずかしそうに頬を膨らませた後、妻は翔に向き直った。
「かーくん、早く大きくなって、ママに着てるとこ見せてよね!」
「せーたー!ままの、せーたー、かーくんきるよー!」
「ほらねー!翔は気に入ったって!」
すっかり細くなった腕で、それでも力強く翔を抱き上げケラケラと笑う。
その笑い声があまりに朗らかで、つられて私も翔も笑った。
そしてセーターの完成から1ヶ月。
3月の初め、雪の降る静かな朝に、妻は逝った。
******
私はため息をついて、新しいセーターの首の部分についたブランドタグをいじりながら
肩を落とす。
とうぶん、袖が通される日は来ないのだろうな。
少し値の張るレーベル品、私にしては奮発したつもりだったのだが。
とはいえ子供の成長は早いから、来年の冬にはきっともうあのセーターも着収めなのだろう。
何せ翔はわんぱく盛り、外へ出かけるたびにどこかにひっかけてあっちがほつれ、こっちがほつれ、
本来ならとっくに衣服としてはお役御免になっているレベルだ。
いつまでもぼろぼろの服を身につけさせていては、ご近所からの信用にも関わる。
「ぼく、このセーターが一番好き!だ~~いすき!!」
…けれど、本音を言うならば。
母親が遺したものを大好きだと愛おしむ、キミの気持ちが嬉しいよ。
きっとこの先、背が伸びて、肩幅が広くなって、色々なものと出会って、母親との思い出も薄れてゆくのだろう。
でもその優しい気持ちはどうか、
いつまでも色褪せない空色のままで。
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