カメコは、自分の望みが叶う世界にやってきた。
最初は現実ではありえない願いが叶い喜んでいたが、徐々に楽しさが無くなってきて、最後の方の願いが叶うころには泣き出してしまった。
カメコがいる世界はどんな世界で、カメコは何故泣きだしたのだろう?
15年10月30日 00:34
【ウミガメのスープ】【批評OK】
[フィーカス]
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カメコがいるのは、子供の頃に描いた夢がかなう世界。もう少し詳しく言うなら、子供の頃に自分の夢を描いた自由帳の世界だ。
この自由帳は、夢や願いを描いて、20年後に開くと、その夢や願いが叶うという、不思議な自由帳だった。
自由帳のページをめくると、そのページに描かれている夢が現実となる。その夢を堪能したら、また次のページをめくり、次の夢を堪能できるのだ。
小学生低学年の頃に描いた夢は、現実ではありえないようなこと、例えば「ドラゴンや妖精と遊ぶ」や、「お姫様になる」といった、おとぎ話の世界が続いていた。
現実にはありえないようなことが次々と起こっていたうちは、楽しくてしょうがなかった。
成長するにつれ、その夢は現実的になっていく。例えば、「お金持ちになりたい」や、「ケーキ屋さんになりたい」といった、多少努力すれば叶えられるような物へと変わっていく。
この世界ではお金持ちになっても買うものが無ければ意味が無いし、子供の頃に描いていたケーキ屋さんとは違い、仕事だから大変だということを思い知らされた。
さらにその先のページは、夢というか欲望のようなものに変わっていく。「お菓子をお腹いっぱい食べたい」や、「もっと友達と遊びたい」というような、その時に思ったことを書いたんだと思うような願い事が続々出てくる。それはそれで、大人になるとなかなかでいないようなことなので、満足したら次、というようにページを飛ばしていく。
そして、いくつかの願い事に満足した、次のページ。
「両親なんて死んでしまえばいい」
小学校高学年の頃のものだろう。
このころになると、両親がうるさいと感じるようになるものだ。勉強しなさいだの、いつまでも起きるなだの、注意ばかりしてくる。そんな親が、鬱陶しくなる時期が出てくる。そんなことが続けば、両親に限らず、鬱陶しい対象を消したくなるものだ。
カメコの目の前には、両親の死体が転がっていた。もちろん、大人になった今となっては、両親が死んでほしいなんて微塵も思っていない。
二人の死体を目の前にし、カメコは思いっきり泣きだした。今まで元気だった両親の突然の死は、カメコにとってとてつもないショックだった。
小さい頃の私は、どうしてこんなことを考えたのだろう? カメコは自分を責め続けた。
どうすればいいかわからないまま、しばらく時間が経った。しかし、両親が生き返るわけではない。その先はどうなっているのだろう? カメコは自由帳を開いた。
「魔法が使えるようになりたい」
どんなこともできる、「魔法」という存在。実際に使ってみると、欲しい食べ物が目の前に出てくるし、空を飛ぶこともできる。きっと、死んだ両親だって生き返る。
……いや、そうじゃない。今までいろんな願いが叶ってきた。今願うことは……
「元の世界に帰りたい」
魔法の力で、カメコは元の世界に戻ってきた。
現実の世界に戻ったカメコは、最初のページから自由帳をめくってみる。しかし、途中までは白紙になっていた。
「この自由帳に今願い事を書いたら、20年後の自分は夢を叶えてくれるかな」
そう思って、カメコは自由帳に願い事を書いた。
「幸せになりたい」
そして、さりげなく次のページを開くと、こんなことが書かれていた。
「私の願いはきっと叶う。だって、私は私にそう約束したのだから」
ああ、そうだ。自分の願いを叶えるのは、自分しかいない。
今日願ったことを20年後に叶えるために、今から何かしよう。そう思って、カメコは仕事に出かけるのだった。
要約:カメコがいるのは小さい頃に願った夢が叶う世界。最初はかなり小さい頃の夢で現実味が無い夢で叶って楽しかったが、徐々に現実味を帯びた夢に変わっていき、途中で誰か(両親)が死んでほしいという夢が叶ってしまったので泣いた。
フィーカス著(予定)「フィクションノート」より
総合点:3票 トリック:1票 物語:2票
トリック部門春雨【
投票一覧】
「願いが身を滅ぼすというのはよくあるテーマであると最初は思ったけども、一筋縄ではいかない」
2015年10月30日01時
物語部門蓮華【
投票一覧】
「何事もない日常の温かみが実感できる終わり方です。自分の願いを叶えられるのは,自分しかいないのです。」
2016年05月27日15時
物語部門かもめの水平さん【
投票一覧】
「紐解かれる物語が胸に来ます。『おおなるほど』と関心するばかりでなく『参加したかった』と強く思わせる探索型の良問だと思います。」
2015年10月30日06時