釣りはいらない（問題ページ）

いよいよ、樋口が一週間掛けて作ってきた力作コインタワーが完成する。
しかしあと3枚というところで、小銭のストックが切れてしまった。
そこで樋口は、遊びにきていた夏目に千円札を差し出し、両替を頼んだ。

「夏目、お金崩してくれない？」

夏目の目が輝いた。

「え、いいの？」

「いいのって、え、ちょま……」

樋口が言い回しを訂正する間もなく、コインタワーに体当たりする夏目。
ご近所中に響き渡る轟音を立て、コインタワーは見事に崩れた。

千円札を差し出したまま呆気に取られている樋口を見て、夏目は言った。

「しまえよ。俺も楽しかったし、報酬はいらない」

崩れ去った夢の欠片を前に、もう一度積み直す気力など生まれてくるはずもない樋口なのであった。